ナンパについていったらヤラれそうになった話③〜豹変する男〜


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ナンパについていったらヤラれそうになった話②〜毛色の違う男たち〜

コンビニに向かいながら、彼らが自己紹介をし、私たちにも名前を尋ねる。
金髪の男はマサキ、黒髪の男はトシと名乗った。どちらもイベント会社で働いていて、マサキが28歳、トシが26歳だった。
よりナンパに慣れていそうだったマサキが、コンビニに入った瞬間私の手を取り、冷蔵庫のあるところまで引っ張っていく。
「ねえ、えみりちゃんはトシか俺かどっちが好きな感じ?」
突然サナと離れたうえ、知らない男の人に手を取られて緊張してしまう。
「特にどっちとかはないです。」
上擦った声で答えると、マサキが
「ラッキー。じゃあ俺えみりちゃんがペアね。決まり!」
と言って、指を絡めながらアルコールの入った冷蔵庫を開けた。

「レモン味かピーチ味、どっちがいい?」
「え?えーと…レモンかな。」と言うと、「シチリア産レモン」と書かれた缶を2本取った。
ロング缶。

サナが近づいて、「ねー、えみりに飲ませないでよ!わたし飲めないし、この子も弱いんだよ。」と言うが、マサキは「サナちゃんぜんぜん飲めないんだ。んじゃ好きなジュース選んでおいでよ。」と意に介さない様子でおつまみを選んでいる。
サナが炭酸水を、トシがビールを選び、いくつかのおつまみと一緒にマサキが支払った。

目の前の公園のベンチは、夏とはいえなんとなく肌寒く、少し高揚していた私にとっては心地いい空間だった。
彼らは話がうまかった。イベントの仕事をしていて、私たちも興味のあるファッションのイベントや有名な芸能人の話を聞いて盛り上がった。
途中でトシが何も言わずに席を立ち、またそれぞれに同じ飲み物を数本買い足してきた。
あまり飲まない方がいいと分かってはいたものの、目の前で大笑いして楽しく飲む3人を見ていたら(サナはノンアルコールなのにもかかわらず)30分ほどで2缶を飲み干してしまった。アルコールに弱い私にとってはキャパに近く、しかももう朝方でかなり疲れている。

たぶんまた追加の飲み物を買うつもりだろう、トシが黙って席を立ったので、
「わたし水か何か買いたいし、トイレも行きたいからコンビニに一緒に行く。」と言うと、マサキが
「あのコンビニ、トイレ貸してないよ。」と言う。「公園のトイレはあんまり綺麗じゃないし、少し歩いたところにある飲食店が入ったビルのトイレが夜も誰でも使えるから、案内するよ。」

「私が一緒に行くよ。」心配したサナが言うが、「女の子だけじゃ危ないよ。それに場所わからないでしょ?サナちゃんはトシと一緒にコンビニにえみりちゃんの水買ってきて。」と言われ、サナと私は困って顔を見合わせたが、ほかにいい案も思い浮かばず従うことにした。

マサキと二人で夜の公園を出て、公園通りを歩く。
飲んですぐに歩いたので少しフラフラして、マサキに肩を抱かれる。
「もう。ダメですよぉ。」と笑顔でかわそうとするものの、マサキは気にかけずがっしりと私の肩を掴んで歩く。

「ねー。えみりちゃんは彼氏いるの?」マサキに顔を覗き込まれる。
タンクトップから覗く焼けた肌。がっしりとした筋肉質な腕。ヘーゼルがかったカラコンの入った大きな目。高い鼻。この香水は確かエタニティ。タンクトップの背中から、少しだけグリーンがかったタトゥーが見えた。
こういう男が好きな女もいるだろうが、私は苦手だった。押しの強い男を強く拒否できないのだ。
しかし、苦手な気持ちと相反するように、酔った頭で私の顔を覗き込むマサキを見ていると「セクシーだな。」と認識してしまう。だからアルコールは嫌なんだ。

「いないの。いたことないの。」甘えるような声を出してしまった。
マサキが肩に力を込めて、「そうなんだ!えみりちゃん可愛いのになんで?じゃあさ、“そういうこと”もしたことないの?」
「うーん。。まあ、ちゃんとはないというか…。微妙な感じというか…。」
「マジか。でもえみりちゃんってそんな感じしないよね。」そう言いながらマサキが公園通りからシャッターの閉まった細い路地へと私の肩を抱きながら入る。「でもさあ。そんな年齢だし、彼氏欲しいでしょ?友だちの話とか聞いて、エロいことしたいとか思うでしょ。」

空がなんとなく明るくなってきたにもかかわらず、急に街灯のない真っ暗な路地に入り、私は緊張した。
話の内容も少し危うく感じて身を捩るが、酔ってうまく歩けないうえ肩をがっしりと抱かれているのでついて歩く以外にない。
マサキの腕や体が熱く、慣れない男性用の香水の香りでますますクラクラする。

「いやいやいや…。」ヘラヘラと笑いながら私が「それよりちょっと肩痛いです。私普通に歩けますよ。こっちですか?」と尋ねると、マサキは突然足を止め、正面に回り込んで両手で私の肩を掴み、私の顔を覗き込んだ。

「ねー。俺が一目見て、なんでえみりちゃん選んだかわかる?」
「え…。わかんないです。サナのほうが綺麗なのになんでかなって思ってました。」怖くてうまく返事ができない。

じっと目を見つめられ、蛇に睨まれた蛙のような気分だ。そういえば、この周りを薄いヘーゼルで囲み真ん中が黒い瞳は、獲物を狙う爬虫類に見える。
なんだか目がギラギラしている。さっきまでと様子が違う。肩が痛い。怖い。

「だって、えみりちゃんってどう見てもドMなんだもん。」
そう言った瞬間、マサキが私の耳を舐めた。

「ひっ」突然のことに驚き、膝がガクッと抜けそうになったところをマサキに抱き抱えられる。
熱い呼吸がハアハアと耳のあたりで聞こえる。
「ねえ、虐められるの大好きでしょ?俺ガチのドSだからさ、そういう子すぐわかっちゃうの。」そう言いながら、マサキがベロベロと耳を舐めてきた。

本当にまずいことになった。
公園通りは見えてはいるが、人通りが少なくほとんど誰も通らない。
酔ったままヒールでは走れないし、何よりこんな男にがっちり抱かれて振り切って逃げられるはずがない。

そして何より、片手で私の頭の後ろを持って片手でわたしの背中を撫でまわし、耳を唾液の音をさせながら舐め「かわいいね。」「やっぱり俺の思ったとおりだよ。」と言うマサキの声が頭に響いて、「やめてください…」と言う声も彼を押し戻そうとする手もまるで力が入らないのだ。

マサキが反対の耳を舐める。「やめてくださいとか、煽ってんの?」笑いながらそう言い、片手で頭を固定しながらもう片方の手で私のお尻をぎゅっと掴む。
先に舐められたほうの耳がスースーする。舐められているほうの耳が熱い。
本当に嫌なのだが、あまりに突然のことで抵抗する方法がわからない。

マサキの手がスカートの上から私のお尻を掴んだり撫で回したりを繰り返す。
耳とお尻を同時に刺激されても「やめてください」しか言えない私。怖くて脚がガクガクしてくる。まさかこのまま最後までされるなんてことはないだろうと希望的観測が過り、その直後にだったら一体どこまでどんなことをされるのかと絶望的な気持ちになる。
しかし耳をずっと舐められていると、だんだん頭がじんじんとしてきてまともな思考が続かないのだ。

耳から舌を離し、マサキが両手で私の両頬を包んで私の顔を見た。
「やべぇ。エロ顔。なあ、ホテル行こ。」と誘う。
私は涙目で「違うんです。本当にイヤなんです。もうみんなのところに戻りたいです。お願いします。」と震える声で言ったが、それを聞いたマサキはますますギラギラとした瞳になり、私の頬を包んだままむりやりキスをした。

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