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【創作小説】ダインの壁ー6ー(最終話)

前回

主人公、亜由の所属する自主制作映画グループの面々は、果たしてクランク・インの日に集まるか? 全く連絡が取れなくなってから一年が経つ。全員が、集まるのだろうか……?
3人だけ連絡の取れた、亜由、元会長二谷の代理、渡辺光雄、亜由とともに主役を務めるジョウは、待ち合わせ場所のK駅に集う。

案の定、待ち合わせのK駅改札の前にまっ先に到着したのは、亜由だった。
亜由は、どの待ち合わせにしても、真っ先に着いてしまう。
特に……、亜由たちの映画グループの集まりにおいては、亜由だけが、一人ぽつんと待ち合わせ場所で待っているシーンが多かった。皆、集合が遅い。
時間から15分経ってから集まり始める。
渡辺光雄と、ジョウもご多分に漏れず。二谷が事故で亡くなってから 定期的に集まるときもそうだった。グループの皆と連絡が取れず、クランク・インまでの約一年間、自主的な定期の集まりにおいても、ジョウも渡辺光雄も遅れてきた。

亜由は、スマホの時間を確認した。
まだ、約束の午後1時には30分もある。
近くの自動販売機のコーヒーボトルのボタンをタッチして、PASMOをあてがい、「ピッ」という音のあと、コーヒーボトルは、下の受け取り口に落ちる。

1月下旬の寒い風が通り過ぎていく。
亜由は、コーヒーボトルを手にとって、両手をあてて温もった。(少し、これで温まってから飲もう)。

少しして、またスマホの時間をみる。
12時40分。時間がもたもたとしか進んでない、じれったいと思う。

(この一年近く、私たち3人は、この日を首を長くして待っていた。まさか、ジョウや渡辺さんまで来ないわけないよな……)

亜由の心のなかに一抹の不安がよぎる。

午後1時をまわる。

誰もこない……

亜由は、スマホの画面をみて時間を潰していた。去年までの、このグループの写メの記録をスクロールする。

最初、二谷と渡辺に主役の話を持ちかけられたときのスリーショット。ジョウとの顔合わせ。全スタッフが決まったときの居酒屋での写真……このときは、亜由は未成年だったから、ソフトドリンクだった。
二谷に「僕とだけ一枚ツーショットで撮ってくれない?後で送って」と、頼まれて写した写真……これは、二谷のスマホに保存してあったのだろうか?
二谷のスマホは二谷が交通事故に遭ったときに全壊してしまった。

そう思って、顔をあげ、不安になって曇り空を見上げると、目の前に人が立ちふさがった。亜由は、笑顔になる。ジョウだ。
「亜由ちゃん、やっぱり早いね。あ、渡辺ね、寝坊して遅れるって、でもあと15分もしたら来るよ?」
「そう」
亜由は、やっと孤独から開放されてほっと息をつく。
「来るかな?みんな、ね、亜由ちゃん。来なきゃ何もかも無駄だよ。俺、また メンバー集めから始めるのイヤだよ?」
ジョウは、気弱に言った、そして、亜由と並んでたたずみ、曇り空を見上げた。
「雪 降るかな?」

さらに、午後1時を15分過ぎても、……
まだ、誰も来ない。
渡辺でさえ。
亜由も、ジョウも不安げな表情を浮かべる。時計は1時25分、少し遅くはないか?
亜由は、向きを変え、改札口の中を覗ける位置に立った。予定では、駅に入ってくるバスから来る者も、電車で来る者もいる。しかし、遅い。

「ほんとうに、来るのかしら?このまま、来なかったら……」
雪がちらつき始めた。
空を見上げる亜由。電車は、遅れるか……?
亜由は、下を向いた。
「こうなったら、粘るしかないな。これを逃したらチャンスが来るのはもっと先だ。俺のモチベーション挫いてくれるな、こんちくしょう!皆、あつまれ!」
この一年、待ちくたびれた様子のジョウは、本当に、これ以上延びたら諦めかねなかった。「スタミナがもたない」、と、この頃言っていたから。
雪が、少し強くなった。
亜由は、スマホの二谷とのツーショットを見つめ、手が震える。二人とも、照れ臭そうな笑顔で写っていた。
メガネをかけた二谷は自撮りで、ちょっと遠慮がちに亜由のほうに近づいて撮っていた。亜由は、かしこまって写っていた。けれど、笑顔で。
ホームから、電車が到着したような音。やがて、発車のベルが鳴る。

(ほんとはね、二谷さん、私も二谷さんのことが好きだったの。誰にも気づかれないようにしてたけど)。そう、亜由が心のなかでつぶやいたときだったーーー




「あ………」
ジョウが指さす。


見覚えのある、長身の女性。

涼子さんだ。

「涼子さーん!!」

亜由は、手を振った。
その後ろから、続々と来る者たち……
懐かしい顔ぶれが、……

「ごめんごめん、あっちの方 雪で徐行だったのよ」
「え!涼子さんの家の方?」
「そう」
「みんな来たじゃん!」
バス停の方からも続々と現れる。
二谷義明の自主制作映画グループ、メンバーの面々が。
「おーい!」
渡辺だ。
「わりぃわりぃ、寝坊しちまってさぁ。あれ?みんな来た?」
気づけば、全員が集合していた。




「映画『ダインの壁』より 挿入歌

昔々、あるところに 二人の少年少女が出逢った場所がある。

名を『ダインの壁』

二人は、壁の近くでたむろい、約束をする

二人で楽団をつくろうと

一人は、歌(うた)が好きだった
一人は、詩(うた)が好きだった


やがて、壁が二人を引き離すが

また 二人再会し

人々を感動させる
大きな楽団を築いた……




               END

トップ画像は、メイプル楓さんの
  「みんなのフォトギャラリー」より
  いつもありがとうございます。

©2023.5.7.山田えみこ

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