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ボクは徳永進一!叔母さん盗るな!ー10ー

初回からはこちら⬇各回の終わりに続きの貼り付けがあります。

前回こちら⬇

竜二は、ボクの前を歩いていた。山の中だ。

天候が悪くなりかけた△△山の登山の道だった。山を2人で登りかけて、道を見失った。

登山で、道に迷ったときは、まず落ち着いて元の道を辿り、迷う前の場所に戻る努力をする。

それでも、元の道に戻れないなら、沢を下らず、登って開けた丘などに出る。

丘などで 道を見渡し、下山道を確認する。
戻れないなら、尾根を目指すか頂上を目指し、救助のヘリコプターなど(最後の手段)から見えやすいところに向かう。

沢を下るのはマズイ。途中必ず岩場や滝に阻まれ、下りる道は閉ざされる。

岩場などで体力も使うし、ケガもしやすい、危険な選択だ。
沢を下るのは、推奨されたものではないという。

ボクと竜二は、完全に道を見失っていた。雨も振り始め、洞で野宿。

ボクは、小さくおこされた火で、ぼーっと暖を取りながら、竜二に問うていた。

「竜二、なんで美奈さんと付き合い始めたの?」
竜二は、(は?)という顔をする。

「進一、お前 最初から、オレの名前、呼び捨てだよな……?」
(ははは……)と、かすれた笑いをはさんで竜二は、続ける。
「あの、〇〇デパートに美奈さん、服屋で勤めてるだろ?若い服の売り子として……」
ボクは、竜二の話を聞いていた。
「美奈さん、若い服が似合わなそうな お年寄りのお客さんにも丁寧なんだよ。どんなお客にも丁寧で。買う気が無さそうな人にも丁寧で。お金が持ち合わせ無さそうな人にも丁寧で……いっしょうけんめいで」
その横顔は、ふうっと遠くに惹き込まれそうだった。
「ほんとうに、丁寧で。時間を掛けて対応するんだ。嫌味もなく、押し付けもなく……」
ふうっーと、タバコを燻らしながら、 
「そういうところ、見てたんだよね、ずっと。いつ行ってもそうなんだ」
小さな焚き火に枝を焚べながら、
「このコ、ほんとにいいコだな、と、思って見てたら、何度も目が合って……」
こちらを見て、八重歯の歯でにーっと笑って、
「気づいたら付き合ってたんだ」

ボクは、目をじーっと竜二に焦点合わせていた。

ホントに、いい奴なのかもな、この竜二も。
美奈さんも、すごくいい人なのだけど。

ふたりとも、お似合いかもしれない。
いい夫婦になるかもしれない。ボクが認めたんだから。

ボクは、なにかを云おうとして、ガクッと倒れたーーー。熱が出ていた。

「おい!進一!?進一!?」

(ごめん、美奈さん。結婚式のまえに、葬式出して邪魔しちゃうかも。ボク、結婚式出られないかも)




ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、

……石や木の枝を踏む音がする。



竜二が尾根を登っていた。ボクを背負って。
竜二も疲れてる筈だ。
無茶だ……竜二……



             つづく


©2023.7.25.山田えみこ


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