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ボクは徳永進一!叔母さん盗るな!ー11ー〈最終回〉

初回からは、こちら⬇各回の終わりに続きの貼り付けがあります。

前回は、こちら⬇

ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、……

竜二は、慎重に歩を進めていた。

雨は、止んでいた。
竜二は、山を登り続ける。

ボクは、多分熱が出ている。熱は高い。
ぼーっとする。
畜生!こんなときに。竜二に迷惑かけるなんて。
竜二は、美奈さんのだいじな人だ。だいじな人なんだ!美奈さんをシアワセにできる、だいじな人なんだ!

竜二は……、
性格がおおらかで、
相手が中学生でも、ガラスを扱うようなよそよそしい扱いなんかしなくて。
釣りを教えてくれて。
サカナがさばけるんだ。
わりとスケールの大きなこと真面目に考えていて、
オセロが強くて。
色んな人と親しくできて。
顔が広くて。
堂々としていて。
1人1人をちゃんと見ていて、
オトナで、
カッコよくて、
そして、ボクを弟みたいにかわいがってくれる。
ボクの兄さん……………、叔父さんなんだ。きっと、親戚になったら、明るい徳永家に。入り婿じゃないけど……
うちの家族は、きっとそうなる。
うちの家族と、美奈さんと、父さん、母さんと、妹の愛衣と。


でも……、

もし、ボクが助からなくても、

竜二、

シアワセになって……、

美奈さんと……………

なんか、

熱が 

高そうなんだ。








「しんいち?」
「進一」


(………?)

ボクは、どうしているのか?

竜二、下界では ちゃんと美奈さんと結婚できたかな?

遺言状を遺してくればよかった。

山に登る前に。

いつも、遠くに遠足に行くときは書いているのに……

迂闊だった。



美奈さんと、結婚できた?

結婚してください、

美奈さんと……


ボクの葬式なんて、ぜんぜん構わないから……


チロロロ、チロロロ……


(………?)

鳥が鳴いてる。

チロロロ、チロロロ……

(進一……?)

(進一)

(進一)


なんだろ?父さん、母さんの声が最後に聞こえる……

「進一」
「進一!」

ボクは、瞼の感覚がまだある。瞼を開いた。

(……?)

どこかだ。

「そりゃ、どこかだ。人間どこかに常に存在している」
「竜二さん、そんなこと、云わないでも……」

(……?)

「助かったんだ、ほっとしたよ」
(竜二………)

「熱が40度で 下がらなかったからな」
父さんの声。
「ほんとに この子ったら」
母さん……


(ペンダント………)
最後に伝えないと……

(竜二に、ペンダントがあるんだ………)
「は?」
(最後に渡したいんだ……)
「……?まだ、死ぬ気か……?」
「たすかったのよ、お兄ちゃん」
「いい加減に生き返りなさい」
「進ちゃん……」
「進一……」

ぼくは、ふらふらと手を延ばした。
最後に渡さないと………、
「だから、助かったんだから……」

(……は?)
ボクは、また 声に出していたのか……?
「そうだよ、全部きこえてる」
竜二の声だ。
「担いでいるときも なんか、とても俺を褒めるセリフがとめどなく聞こえてきて、照れ臭かったぜ」

「………(真っ赤)」





ぱぱぱぱーん、ぱぱぱぱーん。

結婚式のファンファーレが鳴る。
ボクは、〇〇デパートで買った、美奈さんと竜二のおそろいペンダントを、1万円もしたペアリングのペンダントを渡した。


なんだか、とっても清々しい、秋の入り口。竜二と美奈さんの笑顔。みんなの笑顔。空は高く、どこまでも青く、白い雲が、渡る飛行機が………ここにいるみんなを祝福しているように見えた。






             おわり

©2023.7.26.山田えみこ

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