こんなときどうする?「実務上役に立つ意思決定論 」②
<こんなときどうする?シリーズ>
第5回目のテーマは、前回に引き続き「キャリアコンサルタント試験には(今のところ)出てきていないが、知っていると実務上役に立つ意思決定論 」をご紹介し、それにまつわる AREYA KOREYA を書いてみます。
この記事は、実践の現場でこんな視点も大事にしてね!こんなことも使えるかもよ! といった実務上何かちょっと役立つかもしれないと私が思うことや、知っていることを散発的に書いていく「こんなときどうする?」シリーズの5回目です。
前回は、クライエントにとって、キャリア選択にかかわる意思決定やキャリア開発のプロセスについての情報が不足していると、クライエントは職業的優柔不断に陥ってしまって前に進めなくなってしまう。そのため、プロセスに関する全体図を説明したうえで、セッションに入ることが、効果的なキャリアコンサルティング/カウンセリングを行なううえで大切であることをお伝えしました。
日常生活の中でも、流れや全体図が予め分かっている方が、主体的にコミットすることができることは、恐らく誰もが経験していることかと思いますので、プロセスの情報提供が大切であることは、個人的な経験からもお判りいただけることでしょう。
第4回では、 希望中心型モデル The hope-centred career development model(Niles and colleagues ., 2010) を紹介しました。
今回は、Ikigaiモデル The Ikigai Diagram (Mark Winn., 2014) を紹介します。
The Ikigai Diagram Ikigaiモデル
「IKIGAI(生きがい)」という言葉は、最近では、そのまま英語として通じるようになっています。私は、毎年NCDA(National Career Development Association 全米キャリア開発協会)の年次カンファレンスに参加をするためにアメリカに行きます。そこで会うアメリカのキャリア専門家達は、IKIGAI をタイトルに入れた講演やワークショップを、割とよくやっているようですし、実際、話題にもよく出るほどポピュラーなものです。
海外で新たな概念となった IKIGAI は、全般的な目標を設定していく際に、ライフキャリアという観点から、キャリア選択の意思決定に必要だと思われる要素から構成されています。
私は、進路や就職という狭義のキャリアについて意思決定をする際に、このモデルを併用することによって、視点を引いたライフキャリアという観点から、自分のキャリア選択に関して検討する機会を創ることができるため、重宝しています。
この概念は、Mark Winn’s (2014)というブロガーが図式化したのを機に、アメリカ国内で一気に広まりました。
好きなこと(興味・関心)
得意なこと(スキル、能力、才能)
報酬を得ること
世の中で求められていること(労働市場の需要や社会・環境問題など)
という4つの円が互いに繋がっている中心にIKIGAIがあります。
<手順>
1⃣ 4つの円とシンボルマーク
4つの円とシンボルマークを描きながら、「この図に描かれている構成要素はすべて、あなたが充実した人生を築くために欠かすことができないものです」「自分にとって必要だと思う内容と割合で、この構成要素が満たされていると、あなたにとって充実した人生(fullfilling life)になると考えられます」などとお伝えします。
①What one
Loves
好きなこと(興味・関心)
②What one is
Good At
得意なこと(スキル、能力、才能)
③What one is
Paid for
報酬を得ること
④What the World
Needs
世の中で求められていること(社会・環境問題など)
2⃣ 交差するところ
また、各構成要素が交差するところは、クライエントのキャリア観を表しているので、そのこともお伝えしましょう。
Loves (好きなこと)× Good At (得意なこと)
= Passion(情熱)
Good At (得意なこと)× Paid for (報酬をもらえること)
= Work(仕事、職業、occupation)
Paid for (報酬をもらえること)× Needs (世の中で求められていること)
= Mission(使命)
Needs (世の中で求められていること)× Loves (好きなこと)
= Vocation(召命、天職、calling)
Passion 情熱、熱意
Work 仕事、職業、occupation
Mission 使命、使命感
Vocation 召命、天職、calling
3⃣ ウェルビーイング(well-being)
次にウェルビーイング(well-being)の観点からも、
1. 好きなこと
2. 得意なこと
3. 報酬を得ること
4. 世の中で求められていること
という4つの構成要素が重要であることを伝えます。
例えば、①好きなこと、②得意なこと、③報酬を得ること、という3つの構成要素を兼ね備えたキャリア選択であっても、④世の中で求められているニーズを満たしていない場合には、「満足な生活ではあるものの、自分の存在価値を十分に感じられずに、無価値観を味わうことになるかもしれない」と説明することができます。
また、①好きなこと、②得意なこと、④世の中で求められているニーズ、という3つの構成要素を兼ね備えたキャリア選択であっても、③報酬を得ることを満たしていない場合には、「心地よい生活ではあるものの、不安定で先行きに不安も感じるものになるかもしれない」と説明することができるでしょう。
同様に、①好きなこと、③報酬を得ること、④世の中で求められているニーズを兼ね備えたキャリア選択であっても、それが、②得意なことでない場合には、不安や迷いと共に、満足感やエキサイティングな感覚を味わうかもしれません。
最後に、②得意なこと、③報酬を得ること、④世の中で求められているニーズが揃っていても、自分が①好きなこと、が無い場合には、快適な状況にありながら虚無感を味わうことになります。例えば、自分の興味・関心ではなく、安心感を求めてキャリアを選択した場合、このようなことが起こる可能性があります。
Satisfying Life
but Feeling of worthlessness
満足な生活
しかし、自分の存在価値を十分に感じられていない
①②③を満たしているが、④がない場合
Comfortable Life
but Feeling of Emptiness
快適な生活
しかし、どこか虚しさや空虚な感じがする
②③④を満たしているが、①がない場合
Exciting life
but Feeling of Uncertainty
エキサイティング(興奮する、ワクワする、ハラハラする)な生活
しかし、不確実性(不安、頼りない感じなど)も感じる
③④①を満たしているが、②がない場合
Pleasant Life
but Feeling of precariousness
心地よい生活
でも不安定で先行きに不安も感じる
④①②を満たしているが、③がない場合
4⃣ 目標のイメージ
以上のことを紹介した上で、クライエントに、自分の IKIGAI を構成する要素について考えてもらい、目指すべき目標を広くイメージしてもらいます。
このモデルは、キャリア選択の意思決定プロセスの最後の段階で、キャリアコンサルティング/カウンセリングの成果を振り返る際にも使えます。私の場合は、最終的に決定した選択肢について、①~④の要素が全体としてどの程度揃っているか?ということをクライエントと一緒に評価をしています。そこで、今回の選択肢のメリット・デメリットを確認したうえで、実行にうつしてもらいます。実行をするなかで、デメリットが顕在化してきた場合には、はやめに相談をするようにアドバイスをしています。
今回は、「キャリアコンサルタント試験には(今のところ)出てきていないが、知っていると実務上役に立つ意思決定論 」としてご紹介したい2つのモデルのうち、2つめをご紹介しました。
このNoteでは、日本語に翻訳された本や論文ではなく、私が英語で書かれたものを訳して、皆さんにご紹介しているものがあります。
前回の希望中心型モデルや、今回のIkigaiモデルも、私が翻訳しています。シンプルな単語ほど、日本語にしたときに多くの異なる意味を持っています。そのため、どの訳を採用するかで、内容のニュアンスに揺らぎがでます。本や論文をまるごと読んだうえで、文脈や関係性を理解して訳をつくることが望ましいことは言うまでもありません。
限定された箇所にはなりますが、英語の表記を併用したり、あえて訳を羅列しておいたりすることによって、皆さんが、よりシックリくる訳を模索できる余地を残していますので、そこも楽しんでいただけますと幸いです。