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006:はじまりの予感。



 ”ショタボ山ぽり子:う~~~っ!!ショタボ山ぽり子、参上!!”

 「いや、あいさつの癖つよ。名前も癖つよ。」

 最初に僕のライブ配信にやってきた彼女は、名前も、あいさつも、癖が強かった。基本的にコメントに浮上することはなく、静かに配信を聴いている印象。コメント欄がwwwくさで溢れると、彼女も涙を流して笑っている絵文字をいくつか流した。

 彼女も、定期的にライブ配信をしていて、見つけたときには遊びに行くようにしていた。入室のコメントにすぐに反応してくれて、かわいらしかった。彼女の配信には、僕のリスナーは少ない。彼女が無茶ぶりをしてくることも少なくて、居心地がいい場所だった。自然と、彼女の配信に通うようになっていた。



 彼女が配信に来る回数が増えるごとに、彼女が配信者としての僕を好いてくれていることが手に取るように伝わってきた。

 彼女の配信を、多くの人の目に留まるところに上げようと、その場にいたリスナーたちで花を投げ合った。彼女は驚き、声をあげたあと「ありがとう」と、楽しそうに配信を続けた。
 配信が終わると彼女から”ありがとう、楽しかったよ!”と、お礼に添えて、僕を応援する内容のメッセージが届いた。彼女からメッセージが届いたのはこれが初めてだった。他のファンの子にするのと同じように、短い文章でメッセージの返信をした。ほどなくして、僕も彼女をフォローして、それに気づいた彼女からメッセージが届いて、そこから少しずつ他愛もない会話をするようになっていった。

 あるときは、長生きすることについてどう思うか、どんなおじいちゃんになりたいか、あるときは僕が配信をする上で大変だった話について、思うことを、彼女自身の経験と重ねて話してくれた。”辞めないでいてくれてありがとう。”という彼女に、僕も心底辞めないでいてよかったと思った。

 僕がフォロワー向けに開いた配信で、彼女は泣いていた。僕の報告に涙を流してくれる優しいフォロワーは、一定数いたけれど彼女もそのうちの一人だった。きょうの彼女は、僕の話が自分に近づく終わりと重なって、寂しさを増しているようだった。
”大事な人置いて、どこにも行けないわ。だから、どこにも行かない!ずっと今みたいに笑わせて、元気ばらまくから安心してよ。”
 配信者として、リスナーの彼女を笑顔にしたい思いは、もちろんあった。ただ、この頃から、僕の心は動き始めていて、彼女には他のリスナーにはない特別な感情が乗せられていた。心の奥の方がじんわりあたたかくなって、そわそわするような。それでいて、他では得られない安心感を感じられるような。
 彼女はよく、「やさしい世界」とつぶやいた。彼女の作り上げる「やさしい世界」の一部になれていることが嬉しかった。そして、その「やさしい世界」にたくさん救われた。



 その日もふたりでどうってことない話をしていて、話の途中で寝落ちしてしまった。目が覚めると、彼女から”欲を言えば、普通に声でお話したい!”と、メッセージが届いていた。”いいよ”と言うと、”うわーい!やったぁ!あ、でも、天井のシミ数えなきゃいけないくらい、暇なときでいいからね!”とあって、彼女が大胆なのか、控えめなのかわからなくなった。




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