【法務】ディズニーリゾート内の撮影はどこまでOK?
今年の9月、東京ディズニーリゾート(TDR)来場時の禁止事項に「撮影」に関する文言が追加されたことで、VTuberの活動が制限されるのではないかが話題になりました。
今回は、当該文言等を踏まえ、園内での撮影(動画・写真含む)がどこまで許されるかを、法的視点を交え分析してみたいと思います。
1.はじめに
TDRを運営するオリエンタルランド(OLC)は、同園の来場時の注意事項として「東京ディズニーリゾートからのお願い」(以下「お願い」)を定めております。
「お願い」に記載された禁止事項として、従来より、
が記載されておりましたが、今般、
が追加されたということです。
そのため、YouTuberとして収益を得ている人が、園内でコンテンツを作成・配信する際に活動が支障が生じるのではないかが問題となりました。
大まかな結論の先取りをすると、動画投稿で収益を得る目的で撮影するVTuberや株式会社等による撮影はNG(許可を得ない限り)といえそうです。
加えて、元々禁止されていたが、前記文言の追加により今後の取締りを強化するスタンスといえます。
それでは「商業目的」や「営利活動」とは何でしょうか。
何となく「お金を稼ぐ」という位のイメージを抱くと思いますが、その感覚は正しいです。
ただし、どこで線を引くべきか分からないと気持ち悪いですよね。
そこで、どのような場合に禁止されるか、少なくとも認められるのはどこまでか、を分析してみたいと思います。
2.これらの文言の解釈
⑴ 解釈の仕方
前記文言が含まれる「お願い」は、ゲストのTDR入場時に遵守しなければならないルールです。
そもそも、ルールの文言が抽象的なのは、詳細な表現(「広告収入を得る目的で」等)にしてしまうと、これに近い行為(「投げ銭で収入を得る目的で」等)が漏れてしまいます。
そこで、「商業目的」や「営利活動」といった抽象的な用語にしてバッファを設けることで、特に禁止したい行為に柔軟に(ケースバイケースで)対処できるようにしているのです。
ルールの文言が抽象的な場合、どのように解釈すべきでしょうか。
様々な考え方はありますが、ここでは文言自体から我々が理解できる意味を手掛かりにしつつ、ルールの目的との関係で禁止が予想される行為態様等を判断していきます。
ただ、これだけ聞いてもボンヤリしますよね。
例えば、特定のスポーツにおいて「フェアプレー」が目的のルールがあり、「相手の身体にぶつかる行為」が禁止行為であるとしましょう。
我々にとって「フェアプレー」とは「公正・公平に競技ををする」、「ぶつかる」とは「激しく当たる」くらいの意味でしょうか。
そして、ルールの目的が「フェアプレー」だとすると、「自分の腕を意図的に相手の顔に当てる行為」は公正・公平とはいえず禁止され、「自分の爪先がたまたま相手の足首が触れてしまった行為」は、不公正とまではいえず、禁止されないかもしれません。
それでは、⑵以下で判断していきます。
⑵ 一般人にとっての通常の意味
権威ある辞書では「商業」や「営利」を以下の通り解釈しており、皆さんも概ねこのような意味を連想すると思います。
また、「商業」や「営利」にほぼ近い「営業」について、国税庁HPの「営業の意義」も参考になります。
ざっくりいうと、我々にとって「商業目的」とは「利益を得る目的」、「営利活動」は「利益を得るための活動」といったところでしょうか。
⑶ ルールの目的
OLCは、TDRを管理運営して事業をしている以上、TDR等の施設を運営し管理する権限を有してます。
テーマパーク以外の施設等でも同じく、管理権限を行使して「持ち込み禁止」「撮影禁止」「マスク着用」等のルールを定めることができます。
もちろん、ゲストはサービスの対価を支払う以上、OLCもサービスの提供を拒否することできませんが、ルール制定には広い裁量があります。
ゲストは、当該ルールを遵守することを条件に入場することになり、これを破れば契約違反と同じになります。
それでは、OLCが「お願い」を定める目的は何でしょうか。
冒頭では「すべての方に楽しく快適にお過ごしいただき、笑顔あふれるパークにするためのお願い」と記載されております。
また、詳細は述べませんが、ディズニーの望む世界を実現するため、OLCは「パーク運営の基本理念」を掲げています。
そして、当該理念の実現・維持のため、実際に来場するゲストの具体的な行為についてルールを課す必要があるわけです(これが前記「お願い」です)。
理念うんぬんの話はよくわかるようでわからない気もします。
OLCひいてはディズニーが恐れていることを想像するとわかるかもしれません。
ディズニーもOLCも、TDRやキャラクター等の有形・無形の資産を最大限活用し、多くのゲストに来場してもらうための仕組みや評判等を作りながら収益を上げる営利企業です。
特に、当該コンテンツ等の無形資産(知的財産権含む)やそのブランド・イメージの維持・向上に注力します(創業者が動物キャラクターの権利を他社に手放すトラウマがある企業であればなおされです)。
こうした知的財産権の保護やブランド・イメージの棄損(及びそれに伴う社会的評価や収益等の低下)の防止等がルールの主要な目的といえそうです。
⑷ 予想される禁止行為の態様
パーク内での撮影行為に関して、前記ルールの目的との関係で、OLCは特に以下の行為を禁止したいのだと予想できます。
ディズニーの資産・サービス等にフリーライドする行為
他のゲストの権利(プライバシー、肖像権、その他安全にサービスを享受する権利等)を侵害する行為、等
これらは、前記ルールの目的だけでなく、「お願い」上の他の禁止行為にも手掛かりがあります。
加えて、FAQ「パーク内で写真や動画の撮影をしてもよいですか?」の回答内容もヒントになりそうです。
以上より、パーク内での撮影は認められるのが原則といえます。
しかし、「施設や場所によっては」、①OLCの権利・利益(コンテンツ等の著作権、社会的評価等)にフリーライドする行為、又は②ゲストの安全やプライバシーを侵害する行為等になりえるので、これらの行為が禁止されます。
「※」以下は、②の禁止を明確にする趣旨といえます。
3.結論
以上の⑵から⑷までの分析に基づき、冒頭の文言から禁止されそうな行為を説明します。
⑴ 「商業目的の撮影等」、「営利活動(当社が許可した場合を除きます。)」
マスコミその他営利企業による撮影の他に、個人でもインフルエンサーの方々は注意した方がよいです。
VTuberやSNSのインフルエンサーで、動画投稿に伴い広告収入や投げ銭等により収益を得る目的で撮影する場合が該当します。
一般人でも、ブログ等の投稿によりアフィリエイト広告等により収益を得るための撮影であれば、形式的に禁止行為に該当します(企業側に取り締まる余裕があるかは別問題ですが)。
以上に該当する場合でも、OLCの許可を得た場合は許諾されますが、個人の場合に許可が下りるのは難しそうです。
さらに、従来より「商業目的の撮影等」との文言があり、この点だけでも十分だったといえます。
もっとも、マスコミだけでなくVtuberの行為への規制をより明確にすると共に、「撮影等」に該当しないがブログやSNS等で記事を投稿して収益を得る行為にも網をかけるため「営利活動」も追加されたということになりそうです。
(なお、この記事により私が収益を得ることはありません、念のため・・)
⑵ 「他のお客様のご迷惑となる撮影および公衆送信」
他のゲスト(の容貌等)を明確に識別できる写真や動画を投稿する行為(もちろん本人の許諾を得ればOK)、他のゲストが拒否しているにも関わらずカメラを向ける行為、他のゲストの散策の妨げになる行為、施設等の利用、パレードやショーの妨げになる行為…等が挙げられそうです。
⑶ 他にも気を付けた方がよい撮影行為
「お願い」定める他の禁止行為に該当する場合や、「他のお客様のご迷惑」にならなくても著作権法等に抵触する行為が挙げられます。
2つ目については、どこかで詳細を説明したいと思います。
著作権法に抵触する行為としては、キャラクター、アトラクション、パレード、ショーをメインで写した写真や動画をSNSやブログ等に不特定多数に配信する行為(被写体が著作物の場合のみ)等が挙げられます。
どこからが禁止行為になるか判断が難しいところですが、著作権法上許容される範囲(記念写真等で背景になったり、映り込みにとどまる等)まで規制する趣旨ではないと考えます。
少し(かなり)長くなってしまいましたが、お読みいただきありがとうございました。
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