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Snarky Puppy:スナーキー・パピー『Immigrance』とモロッコの音楽グナワのこと(Playlist付き)

※スナーキー・パピーについてはメンバーの小川慶太が解説してくれている以下の記事もおススメです。

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新作『Immigrance』が素晴らしい。

前作『Culcha Vulcha』からずいぶんアップデートされた感覚があるのは、ライブ録音ではなく、スタジオでのレコーディング作品として制作するためのアイデアが明らかに増えていて、それが彼らの生演奏のすごさと噛み合っているからだろう。

ここ数年で個々のメンバーの活動はますます活発になっていて、それぞれがリーダー作をリリースしている(※記事の後にリンクを貼ってあるプレイリストにまとめてあります)。それらがいちいちどれも良くて、そういった課外活動がスナーキー・パピーに還元されている感じがこれまでのどのアルバムよりも強く感じられるようになったことが成功の理由でもあると思う。例えば、鍵盤奏者のビル・ローレンスは近年、複数のシンセとエフェクター、サンプラーなどを並べてソロパフォーマンスをしていて、その成果を『Cables』というアルバムとして発表する。もともとエレクトロニックミュージックやポストクラシカルからの影響を公言する彼だが、音響や音色へのこだわりがここにきて一層深まっていて、それは『Immigrance』にも反映されているように思える。

また、マイケル・リーグボカンテデヴィッド・クロスビーベッカ・スティーブンスを初めとして、スナーキー・パピー以外での活動がどれもこれもクオリティが高く、そこでの経験がスナーキー・パピーに持ち込まれているのも明らか。それと同時にマイケル・リーグはスナーキー・パピーだからこそできることをきっちり分けて考えていて、スナーキー・パピーのアルバムはスナーキー・パピーだからこその作品に仕上がっている。そんな彼のプロデューサーとしての采配が結実しているのも勝因だろう。マイケル・リーグが運営するGroudUP Musicレーベルからリリースしているこのロシア生まれのヴォーカリストの新作とか素晴らしい。

また、今までのスナーキー・パピーは「Lingus」でのコーリー・ヘンリーのソロが凄いとか、なんだかんだで個の超絶的な演奏にフォーカスされる部分も多かった。ただ、本作ではそれぞれのメンバーの素晴らしい演奏の集積が生むその瞬間瞬間の音楽の強さが連なっていることがスナーキー・パピーの魅力であることをより実感しやすい楽曲になっている。ここまで「バンドとしてのチームプレイのすごさ」「スターが集まった個のすごさ」が両方実感できるスタジオ録音は今までなかったと思う。

どうやらその秘密はこれまで一発録りが多かったが、本作では「オーヴァーダビングもしているし、エディットもしているから」、ということらしい。単純にいい曲を書いて、すごい演奏をして、それを収めるのではなく、どう聴かせる、どう鳴らすかなど、多方面に配慮が行き届いているのは前作との音圧や音質の違いからもわかる。

という意味では、ドリームチーム的なプロジェクトでもあるスナーキー・パピーのバンドとしての魅力を高い精度でパッケージすることに徐々に近づいているとも思う。作品を出すごとに少しづつ成長してる感じがするのも良い。

単純にスナーキー・パピーの音楽の中に多様性と厚みがこれまで以上に強く出たのは間違いないと思う。その辺はプレイリストとしてまとめたので、読みながら聴いてもらえたらうれしい。

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新曲「Xavi」とモロッコ音楽

その高いクオリティの楽曲群の中でも先行でも公開されていた「Xavi」という曲はトライバルなポリリズム・ファンクをベースにスナーキー・パピーらしい演奏が繰り広げられる最高な曲で僕は何度も聴いている。

例えば、ceroの『POLY LIFE MULTI SOUL』に収録されてる「魚の骨 鳥の羽」あたりが好きな人にも楽しめると思う曲だ。

この曲に関しては、マイケル・リーグが近年ハマっている北アフリカのモロッコ音楽の影響があると語っていて、中でもShaaviとかChaaviとよばれるモロッコの伝統的なダンスミュージックがもとになっているそうだ。

最近のマイケルのアラブ~北アフリカ音楽へのハマっていて、本作でもトルコやモロッコなどの影響を曲に取り入れていたり、自身も近年はアラブ~北アフリカで使われる楽器のウードを弾くようになり、自身が結成して近年精力的に活動しているボカンテでは、ベーシストではなく、バリトンギター奏者/ウード奏者として参加しているほど。というくらいワールドミュージック色が濃いのもあり、ボカンテはピーター・ガブリエルが主催するレーベルのリアル・ワールドからリリースされている。

更に自身が運営しているGroundUP Music Festivalにもモロッコ音楽のグナワを演奏するグループのInnov Gnawaを出演させたりもしていて、その普及にも力を入れているっぽい。

ちなみにこのInnov GnawaはUKのエレクトロニック・ミュージックのプロデューサーのBonoboにも起用されていたりもする。これめっちゃかっこいいので、併せて聴いてみてほしい。濃厚な音楽ではあるが、意外と現代的なサウンドにもフィットする音楽でもあるのだ。

こういった音楽の影響を昇華したのがスナーキー・パピーの「Xavi」という曲なわけだ。

このグナワに関しては、もうひとつ聴いておくべき曲がある。

スナーキー・パピーのウェブサイトの《STORE》の中に〈LIveSnarky Downloads〉というページがある。

ここでは世界中をツアーして回っているスナーキー・パピーの世界各地でのライブ音源の一部をFLACもしくはMP3で購入することができる。これらはSpotifyやAppleMusicでは聴けないDL販売のみの音源だ。音質はそれなりだが、それぞれ全く違う演奏を聴くことができるので、ファンはぜひ買って聴いてみてほしい。

おすすめはその中に一部、ゲストが入っている音源。アメリカ以外の国でのライブをくまなく見てそこを狙うと面白い音源が手に入る。

例えば、ブラジルのサンパウロでのライブではGroudUPからも作品をリリースしているブラジルのパーカッション・アンサンブルPRD Maisやブラジルの大御所カルロス・マルタなどの現地のミュージシャンが参加していて、強力なパーカッションが加わったセッションを聴くことができる。

で、その中で最もおすすめなのがモロッコ公演なのだ。

これが特別なのはなぜかドラムがエリック・ハーランドなことと、モロッコのグナワのミュージシャンたちとの共演音源が入っていること。

しかも、このモロッコ公演ではモロッコのミュージシャン達とガッツリ共演している上に、この共演のためにモロッコ音楽アレンジが施されたスナーキー・パピーの名曲を聴くことができる。

特に人気曲の「Lingus」が最高で、僕としてはもはやオリジナルよりもこっちの方が好きになってしまったくらいで、あまりのカッコよさに驚いた(ちなみにこの「Lingus」のモロッコ・バージョンはGroundUp Music Festivalのラストで演奏されていて最高だった)。他の曲もグナワとスナーキー・パピーが合体したアレンジになっていて、すごいのだ。

これを聴くと、こういった活動が新作での「Xavi」に繋がったことがよく分かるし、世界中を飛び回った先にできた楽曲だということもわかる。そういう意味で、新作と併せてこの辺を聴いておくと理解が全く変わってくるので、オススメです。

という感じで、ここからは他の曲に関しても多少ヒントになりそうなものをプレイリストにまとめたので、併せて聴いてみてほしい。

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『IMMIGRANCE』を聴くのためのPlaylist & 曲解説

「Chonks」はオルガン奏者のボビー・スパークスの新作『Bobby Sparks II』だったり、ギタリストのマーク・レッティエリ『Deep:The Baritone Sessions』あたりと共通点を感じたりもする。歪んだギターだったり、シンセだったりが効果的に使われてるのは本作の魅力かなと。

実は近年、スナーキー・パピーのメンバーで最も活躍しているひとりがマーク・レッティエリ。例えば、かなり話題になったヴァルフペック周りのフェアレス・フライヤーズのこの曲でのファンキーすぎるカッティングはマーク・レッティエリ。実はスナーキー・パピーのメンバーはこんなところにもいるわけ。

「Bling Bling」に関しては、これを作曲したクリス・ブロックのアルバム『Boomtown』を聴いてみるといい。Jディラを初め、クリスがいかにヒップホップが好きかが伝わってくるのと、それを生演奏のバンドの中に取り入れたら、といったサウンドが聴ける。あくまで生演奏のバンドのアンサンブルに自分たちが好きな要素を導入するための試行錯誤を繰り返していることはシーンの中でリスペクトされている理由だと思う。また、ここでのポストプロダクションやオーヴァーダブの感覚は前述のビル・ローレンスのように音響やテクスチャーにこだわってきたメンバーのセンスも入っているのかもしれない。

「While We're Young」はトランペットのマイク・マーハーの作曲。彼はMazという名義でシンガー・ソング・ライターとしても活動している。『Idealist』というアルバムも出しているのだが、メロウでメランコリックな曲を書いて、自身で歌っていて、これがなかなか味わい深い。リヴァーヴ深めで空間に奥行きを出すアレンジが彼の特徴で、その美意識は「While We're Young」にも感じられる。

「Bad Kids To The Back」ジャスティン・スタントンの作曲。これからリリースされる新作はメロウ&ファンキーな感じっぽい。

これに関してはドラマーのローネル・ルイス『In The Moment』に収録された「Beignets」辺りもヒントになりそう。このノリで、ラーネル・ルイスジェイソン・JT・トーマスジェイミソン・ロスの3人のドラマーのそれぞれのドラミングがエディットされて各所に配置されているのはこの曲の最大の聴きどころ。トップドラマーたちのリズムのすごさもスナーキー・パピーの魅力だが、それをここまで活かせたのも今回が初めてかと。ジェイソン・JT・トーマスが参加するForqあたりも聴いてみるといいだろう。また、本作には参加していないが、これまでのスナーキー・パピーのリズム面を主導してきたロバート・スパット・シーライトがスナーキーにもたらしたものの延長にあるという意味では、彼が主催するゴースト・ノートあたりも参照するといいだろう。

こういった感じで、スナーキー・パピーのメンバーのソロ活動をヒントにしながら聴いていくと、このバンドがいかに個性的なメンバーが集まって成立していることがわかる。

あと、最後に収録されてる「Even Us」はオリエンタルなメロディーが印象的だけど、小川慶太から聞いた話で、モロッコだけじゃなくて、トルコにハマっていたらしく、そのあたりは反映された曲。ワールドミュージック好きにもオススメかと。

僕がスナーキー・パピーにハマっている理由は正にこういうところなのだと思いながら聴ける箇所がたくさんあるアルバムでした。

ちなみに「Xavi」には小川慶太のパーカッションソロもあるので、そこも要チェック。

という感じでここまで語ってきたものはプレイリストにまとめてあるので、AppleMusicかSpotifyで聴ける方はそちらを聴きながらどうぞ。

「Even Us」以降には、本作リリース前にスナーキー・パピー周辺でリリースされた音源もまとめていて、そこにも本作を読み解くヒントはあるはず。そちらも併せてどうぞ。

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