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旅の思い出と料理本

 旅の楽しみの一つが、その土地ならではの味と出合うこと。ガイドブックで紹介されていた名物料理やお菓子、地元の人に教えてもらった珍しい味、偶然食べて気に入ったもの。時々旅先で、料理やお菓子の本を買って帰るようになった。料理本を開くと、その味に出合った旅の記憶もよみがえる。

手書きのギリシャ料理本

 本についたままの値札の記号は円マーク(¥)ではない。調べてみると、ギリシャで以前使われていた通貨単位・ドラクマを表す"Δρ"という表記だった。

 となると、恐らくアテネにある9階建ての大きな書店「エレフテルダキス」で見つけたのだろう。本の名前は、「楽しいギリシア料理」。ギリシャ人の著者の書いたレシピが日本語訳されている。この本、なんと全て手書きなのだ。

 所々に写真も入っていて、前菜、サラダ、ソースやドレッシングの作り方と続き、肉料理の中で挽肉料理が別項目になっているのも面白い。デザートやイースターを祝うお菓子のレシピもある。久しぶりにめくってみると、本を接着する糊が弱くなってページが外れてしまったけれど、なんともあたたかみのある本だ。

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 「きうりのディップ」と書かれた横に小さく「ジャジキ」とギリシャ名が書いてある。「きうり」という表記がいい。本を見てあの料理はこうやって作るのかと知り、こんな材料が使われていたのかと驚いた。現地で味わった料理はほんの一部で、この本で初めて知った料理やお菓子の方がずっと多い。再びギリシャを旅したときに、「あの本に載っていたのはこれだったのか」と思った料理もあった。

 初めて旅して以来、すっかりギリシャにハマってしまった私は、現地の書店や日本の書店で、ギリシャワインやオリーブオイルなどの本も手に入れた。歴史や特徴、代表的な産地の紹介なども書かれていて面白い。

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心ときめくお菓子の本

 子どものころからお菓子作りに興味があって、母の持っていたお菓子の本を見ながら、ケーキやクッキーを焼いた。スポンジケーキにバターケーキ、絞り出しクッキーにアイスボックスクッキー。写真とお菓子の名前を眺めるだけでも楽しかった。

 そんなわけで、お菓子の本にはつい目がいく。スコットランドのお菓子を集めたもの、ビスケットだけのレシピ集、フランスのデザートブック。

 イースターやクリスマスなど、季節の行事にまつわるお菓子やパンが紹介されているのも興味深い。その時期にしか売られていないお菓子も多いので、写真や作り方を見てどんなものか想像した。

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 ポルトガルでは、一緒に旅したNorikoが見つけてくれたお菓子作り体験をして、教室を主宰する日本人女性のTさんが書いたポルトガル菓子の本を購入して帰った。Norikoがこの時のことをnoteに書き、懐かしくなって久しぶりに本を開くと、挟んだままだったお菓子のレシピが出てきた。(28歳のポルトガル

 写真や装丁がきれいで買ったもの、形がかわいくて手に取った本もある。写真集のようなギリシャ料理の本、盛り付けも写真もスタイリッシュなフランスの家庭料理のレシピ集。カリフォルニアで出版されたらしいマフィンの本は、マフィンの形をしている。写真は使わず、味わい深い手描きイラストで構成された本もある。

 スーパーなどに置かれていたフリーマガジンをもらって帰ったこともあった。有名料理研究家の紹介や、献立のヒントみたいな記事も載っている。広告のページもなんだかカッコいい。そんなわけでなんとなく捨てられず、いまだに本棚に並んでいる。

ロンドン、料理好きのための本屋さん

 料理本を買ったのは、土産物店や空港の書籍コーナー、都心の大型書店などだが、ロンドンでとても素敵な本屋さんに出合った。

 イギリスに住むMihokoを頼り、しばらく滞在した時に、二人であちこち出かけては、写真を撮って回った(撮るのはMihokoだけど)。ポートベローのアンティークマーケットを訪ねた帰り、お洒落でかわいい本屋さんを見つけた。

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 「Books for Cooks」という名前のその店は、料理本だけを集めた本屋さん。日本のガイドブックに載っているくらいなので、有名な店なのだと思う。本棚を眺めているだけで楽しくて、「わたしもこんな本屋さんを作りたい」と思ったほどだ。

 さて、その料理好きのための書店の奥にはカフェがあり、そこでワークショップなども開催されるという(当時の情報)。その時は昼食を食べたばかりだったので、帰国前にぜひカフェに行ってみたいと思って再度店を訪れたのだが、営業時間を過ぎていたか休みだったかで利用できなかった。もう一度訪ねたいと思いながら、実現できないままだ。

 この店には、オリジナルのレシピブックがあって、これがまたお洒落だ。店のシンボルカラーの臙脂色がアクセントになっていて、表紙と裏表紙には店の外観やお菓子のイラストが全面に配されている。シリーズ化されていて、まとめて買ってしまった。オリジナルのしおりもかわいい。よく見ると、麺棒の形みたいだ。

 スープ、メイン、サラダとカテゴリー分けされていて、最後に「SWEET THINGS」、甘いもの。赤ワインとチョコレートのケーキ、マスカルポーネとジンジャーのチーズケーキ。うっとりするようなデザート名が並ぶ。

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 料理やお菓子の作り方は基本を覚えると手順はだいたい同じと思ったのだけれど、英語のレシピを読むのはやはり億劫で(フランス語の本はもっとハードルが高い)、本を買ったもののそんなに作っていない。イギリス滞在中はMihokoが英文を読んでくれるので、二人で一緒にレシピを見ながらイタリアのパン「フォカッチャ」を作った。

 フォカッチャなんて初めて作ったけれど、生地をこねて発酵の準備をしてから買い物に出かけ、帰って来たらきれいに膨らんでいたので感動した。初めての割になかなか美味しくできた。

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旅と料理と本が好き

 ロンドンの料理本を集めた書店「Books for Cooks」を訪れた後、料理本もいいけれど、旅に特化した旅の本を集めた本屋さんもいいな、なんて思った。今でも時々、そんな店には、どんな本が並んでいると楽しいだろうと想像する。

 料理本の書店があったのは、ノッティングヒル。映画「ノッティングヒルの恋人」の舞台になった街だ。映画を見たのはずいぶん前で内容を忘れてしまったので調べてみると、ジュリア・ロバーツ演じるアメリカ人女優の恋の相手、ヒュー・グラントの役は、書店主。しかも旅行書専門の書店だという。映画もまた見てみたくなった。

 初めて旅したハワイでは、料理本は買わなかったな、と思ったら、旅に出る前に料理研究家の方が書いたハワイの旅本を買っていた。その中にはいくつかレシピも紹介されている。

 本棚を眺めてみると、他にも海外の空気感が伝わってきそうな本が何冊か並んでいた。旅先で食べたもの、買ったもの、まだ出合ったことのない味。眺めているだけで楽しい。

 最近大した料理はしていないし、お菓子も定番のものしか作っていなかったけれど、久しぶりに旅先で買った料理本を眺めていたら、何かチャレンジしてみたくなった。旅した街の風景を思い出しながら。

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(Text: Shoko, Photos: Mihoko & Shoko) ©︎elia

※Mihokoが調べてくれたところ、「Books For Cooks」は今も健在で、オリジナルのレシピブックも新しいものが増えていました。
※「楽しいギリシア料理」(クリサ・パラディシス著、池沢直美訳、エフスタジアディスグループ)


 



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