英国式アフターヌーン・ティーに憧れて
二段か三段重ねの銀のケーキスタンドに盛りつけた、きゅうりのサンドウィッチにスコーン、ケーキ。美しいティーポットで供される紅茶。
こうしたイギリス式のアフターヌーン・ティーに憧れたのは、いつからだろうか。
アフターヌーン・ティーについて詳しく描写しているエッセイ「イギリスはおいしい」(林望、1991年出版)を読んだことも、大きかったように思う。
ニュージーランドで初対面
アフターヌーン・ティー「的」なものを初めて体験したのは、実は本場イギリスではない。初の海外旅行先、ニュージーランドのクライストチャーチだ。
街の中心部から少し離れた、小高い丘を散策している途中に、立派な洋館があった。まだ日本を出て2日目か3日目だっただろうか、見るものすべてに「うわあ、外国!」といちいち感激していた私。
この洋館の中で、きちんとテーブルクロスのかけられたテーブルに運ばれてきたのが、スコーンにクリームとジャム、そして紅茶だった。皿は三段重ねではなかったものの、真っ白い皿にティーポットとティーカップ。
「スコーン」なるものを食べたのは生まれて初めてだった。スコーンはカップケーキのように甘くはなく、濃厚なクリーム、ジャムとの取り合わせが抜群だった。
なんて優雅で、なんておいしいんだろう。
ここで私はイギリスの伝統的なアフタヌーン・ティーに強い憧れを抱くようになった。
英語を学ぶために短期留学したい、という想いはこのニュージーランド旅行で芽生えていた。行き先をイギリスに決めたのは、本場でアフターヌーン・ティーを思い切り堪能したかったから、という理由も、実は大きい。
オックスフォード近郊にて「クリームティー」
翌年、イギリスを訪れた私は、ブライトンというイギリス南部の港町で、1カ月間ホームステイしながら語学学校に通っていた。
イギリスでスコーンと紅茶の「お茶の時間」を初めて体験したのは、ちょっと意外な小さな街だ。
初めての週末は、オックスフォードに私と同じく短期留学していた、このnote仲間、Mihokoを訪ねた。
待ち合わせまで時間があったので、オックスフォードから足を伸ばして、ウッドストックという郊外の街に一人で行ってみることにした。
世界遺産に登録されたブレナム宮殿の前に、青々とした原っぱが広がる。のんびりと歩いていると、「CreamTea」の看板が目に飛び込んできた。
クリームティーとは、アフターヌーン・ティーのいわば簡易版で、スコーンにクリームとジャムが添えられたものに紅茶が出される。サンドウィッチなどはない。
これは素通りするわけにはいかないだろう。予定外だったが、一人で入ってみることにした。
ケーキスタンドではなく、1枚の皿に、おおぶりなスコーンとクリームといちごジャム。イギリスで、スコーンとともに出されるクリームは、「クロテッドクリーム」というもの。脂肪分の高い牛乳を煮詰めて一晩おき、脂肪分だけを集めて作ったクリームだ。バターと生クリームの中間のような濃厚な食感で、生クリームよりもほんの少し黄色がかっている。まさに「クリーム色」というのか。ほんのりと甘さを感じるのだが、砂糖を加えたというより、乳製品そのものの甘さではないかと思う。
このクロテッドクリームを、塗る、というより、こんもりとのせ、その上にジャムを、これまたこんもりとのせて、食べる。
素朴な味のスコーンとクリームが、とてもよく合う。大満足で店を出た。
ロンドン、老舗レストランで感激
念願の、本格的なアフターヌーン・ティーは、この後合流したMihokoとともにロンドンを訪れ、初めて体験した。ウッドストックの翌日のことだ。
訪れたのは老舗レストランの「リシュー」。ここはガイドブックで調べてとても楽しみにしていた店だ。(当時のガイドブックより)
席についてわくわくして待っていると、二段重ねのケーキスタンドが登場。きゅうりとサーモンとチキンのサンドウィッチ。小ぶりなスコーン2つ。フルーツケーキ2つ。そしてこのほかに、好きなケーキが1つ選べる。これが一人前だ。
もちろんスコーンに添えられているのはクロテッドクリーム。
やっと出会った憧れの、伝統的なアフターヌーン・ティー。店内の重厚な内装も、思い描いていたとおりだ。嬉しくておいしくて、かなりの量だったがすべて食べた。
紅茶がポットで来るので、好きなだけ飲めるのもありがたい。当時の日記には「“貴族”みたいなお客さんがたくさんいる」「トイレも素敵」と書いてあった。
イギリスで合わせて6回
そして、このあとも、あちこちでクリームティーやアフターヌーン・ティーを体験した。
イギリス中部・湖水地方ウィンダミアのホテル。
イギリス南部、ライのカフェ。
ホームステイしていたブライトンのカフェ。
当時の日記を見返すと、イギリスに滞在した1カ月間で、合わせて6回、「英国式お茶の時間」を体験していた。
日本との違いは?
いまでは日本でも、ホテルなどでアフターヌーン・ティーを出すところが増え、私も何度か体験した。だがイギリスとはずいぶん違うな、という印象だ。
まず、日本では、クロテッドクリームではなく、生クリームが添えられることが多い。これはこれであっさりとしていてよいのだが、クロテッドクリームとは別物だ。その生クリームもジャムも、イギリスと比べて量が少なく、「のせる」ではなく「塗る」ことになる。
あとは、意外かもしれないが、スコーンそのものの味は、日本のほうがおいしい。甘みがあって外がかりっと中がしっとり。スコーンそのものにバターがしっかり使われているのだろう。対してイギリスのスコーンは、げんこつくらいの大きさがあって、味があまりなく素朴であっさり、という印象だ。
なので、クロテッドクリームを味わうには、断然、イギリスのスコーンが良い。がっしりと受け止めてくれるのだ。
また、日本ではサンドウィッチやケーキが一口サイズで上品なたたずまいだが、イギリスでは、サンドウィッチもケーキも、大きい。サンドウィッチにはバターがたっぷり塗られていてとても美味しいのだが、量も多いので、食欲旺盛だった20代の私でも、毎回やっとのことで完食した記憶がある。
アフターヌーン・ティーは、私にとって、若かりし頃の憧れと、行動力、そして食欲の象徴のようなもので、ひとかたならぬ思い入れがある。しかしイギリスでまた行きたいかというと、もういい。それだけ満喫したんだなあと、我ながら感心している。
(text:Noriko,photo:Noriko,Shoko,Mihoko)©elia
※写真は一部を除きイメージ
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