85歳以上を超後期高齢者と名付け、超後期高齢者医療・介護制度を再編すべきだ。
今のところ、後期高齢者は75歳以上を示す言葉だ。
しかし、診療していると、75歳は普通に病院に通院できる。
医療サービスを殆ど使わない人も多い。
働いているのは10%程度だが、75歳-79歳では要介護者は11.8%にすぎず、この年齢の多くは自立した生活を送っている。
85歳となると話は変わってくる。
85歳以上の就業率は3.0%と低い。要介護の割合は60%だ。
85-89歳では40%が認知症、90歳以上では60%が認知症だ。
85歳以上で実施した方が良いと自信を持って言える医療はかなり限られる。
薬の副作用も出現しやすくなる。
高血圧や脂質異常症といった、死亡率低下に強固なエビデンスの集積がある領域でさえ、この年齢になると効果は不確実になる。
認知症や日常生活動作の制限があれば、糖尿病の管理基準も緩んでくる。
当然ながら、外科治療・全身麻酔が合併症を引き起こす可能性も高くなる。
効果がないエビデンスが示されている健診は、当然ながら超後期高齢者でも無意味だ。
でも、ふつうの病院に入院するボリュームゾーンがこの85歳前後だ。
入院が多い理由は、高齢で脆弱なので、熱中症、風邪、誤嚥、転倒、脱水などのちょっとしたトラブルを起こしやすく、また、ちょっとしたトラブルが自宅での生活が困難になるレベルの熱中症、誤嚥性肺炎、脆弱性骨折、電解質異常などに繋がるからだ。
また、入院には経済的なメリットもある。入院すれば家族は介護をしなくてよくなるし、高額療養費と年金の組み合わせによって銀行口座の収支はプラスになる可能性が高い。
かくして救急要請が行われ、入院と急性期治療がはじまる。
この85歳以上が、社会の5%を占める。
この人口群に年間7.3兆円の医療費が使われる。医療費全体の15.7%だ。
高齢者と言っても、世代間で違いはある。
70歳と90歳では考えも違う。
医療の効果も、医療が目指すべき目的も違う。
85歳以上を超後期高齢者として、新しい医療・介護基準を作るべきだ。
75歳と85歳では医療、介護に本人が求める価値が異なり
医療、介護が本人に与える利益も異なっているからだ。
また、選挙においても、80歳代以上の投票数は少ない。
氷河期世代においても、85歳以降の医療に関しては心配する動機が少ない。
というか、氷河期世代の大多数は果たしてこの年まで生き残れるだろうか?
さて、85歳以上の超後期高齢者医療・介護制度として、僕はこのようなものを考える。
健診の補助を廃止する。(希望するなら全額自費)
入院の自己負担を3割にして、高額医療補助制度を廃止する。
リハビリテーションの実施加算に関して、厳格な要件をつける。
中心静脈栄養や胃瘻の継続、管理に関しては、毎月の症状詳記を求める。
外来の自己負担は1割のままにするが、高額医療補助制度を廃止する。
かかりつけ医制度を厳格にして、他医受診には紹介状を必須とする。
一方で介護、看取りに関しては現状の手厚い保証を維持する。
生活保護制度は現状のままで運用するが、かかりつけ医制度の運用を求める。
つまり、超後期高齢者の医療、介護需要の高まりに対して
長期入院を予防し、不要なリハビリによる加算稼ぎを防ぐ。
外来通院に関してはアクセス制限で対応する。また高額薬剤のむやみな使用は減らす。もちろん持参薬処方により、入院後の薬剤費を減らす運用は実施されるだろうが、これは残薬の有効な利用に繋がるし、漫然とした長期入院の予防にも働く。
介護・看取りに関しては手厚く対応し、人生の最終段階を豊かに過ごせるようにする。
例外として、介護施設や家族が対応困難な認知症患者に適切に対応できる認知症病棟への入院や、緩和ケア病棟への入院に関しては、自己負担を減らすべきように思う。
一方で、認知症病棟はDPC制にして、高額薬剤の継続や濃厚医療を難しくする仕組みを作るべきだろう。
これは一案に過ぎない。
しかし、超後期高齢者という概念を作り出し、そこに着目した医療・介護のデータを集積することで、有害な医療やリハビリをかなり減らすことができるように思う。