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第1章 2012グラーツ『エレクトラ』

 本論の主題となる2012グラーツオペラ『エレクトラ』(以下2012グラーツ『エレクトラ』とする)の内容に踏み込んでいく前に、まずは演出家ヨハネス・エーラト(Johannes Erath)氏の経歴について簡単に触れておきたい。


  彼は演出家としてのキャリアをスタートさせる以前、ウィーン・フォルクスオーパオーケストラにおいてヴァイオリン奏者として活動しており、その後ウィーンフィルハーモニー管弦楽団のオーケストラアカデミーにて演出分野に転向する。
 多くの演出家のアシスタントについてヨーロッパ中で活動した後、2002年ハンブルク州立歌劇場にてデビューを飾った。
 2008年にはベルン市立劇場での『シンデレラ』がゲッツ・フリードリヒ演出賞(Götz-Friedlich-Regiepreis) [注1]を受賞しており、グラーツ市立歌劇場においては過去に『ルル』、『ドン・ジョヴァンニ』を演出しており、2013年9月のシーズンスタートにはワーグナー『ローエングリン』を初演する。
 このように彼は現在ドイツ・オーストリアで非常に注目されている若手演出家の一人と言えるだろう。


 彼のキャリアを確認したところで、次にこの2012グラーツ『エレクトラ』は古代ギリシャ、ミケーネの地ではなく、舞台装置や登場人物の衣装や振る舞いなどの視覚的な面から、明らかに現代の精神病院の中に物語の舞台が移されているということをことわっておかねばならない。
(またこのことは演出家本人もそのコンセプトを明らかにしている。 )

 それを踏まえてこの演出を
1.舞台装置ならびに衣装などの視覚的側面
2.『エレクトラ』総譜からわかるト書きや調の展開などとの関連性、および効果音などの音楽的側面
3.音楽以外での登場人物たちの動作、演技的側面

 という三つの視点から確認していきたい。

*** *** ***
[注1]演出家ゲッツ・フリードリヒ財団(Götz Friedlich-Stiftung)による演出賞。音楽劇分野で各シーズン毎に最優秀演出が選出され、賞金は5,000ユーロ。35歳以下の若手演出家が対象である。過去の受賞者にJulia Hübner(2012/13)、Anselm Dalferth(2011/12)、Eva-Maria Weiss(2010/11)など。

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