![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/48797949/rectangle_large_type_2_168bd35f74e5597deeaea507a3cc76a0.png?width=800)
人類最後の救世主|SFショートショート
「ついに、完成した・・・」
「やりましたね!教授!」
ついに・・・
人間が『死』から解放される時が来た。
私達の研究チームは、人間の脳と量子コンピューターをつなぎ、人間の『記憶』『人格』の全てをコンピューターへ転送する事を可能にした。
転送された者はコンピューターの中に形成されたVR(バーチャルリアリティ:仮想現実)世界の中で生活し、永遠に生きる事ができるようになる。
全ての人から『怪我や病気の苦しみ』、『大切な人との別れの悲しみ』を取り除いてあげられる。
「私達は『人類最後の救世主』になれたわけだ。
みんな誇りに思え!」
チーム全員から喜びの歓声が上がる。
ピシッ
・・・ん?
「大丈夫ですか、教授?」
「いや、なんでもない」
きっと気のせいだ。
― それから数年後
この技術は公開された後、驚異的なスピードで一般普及まで進んで行った。
まずは、不治の病や死期が近い人々から順に転送され、数十年掛けてほとんど全ての人類が量子コンピューターの中に入る事となった。
ただ、一部の人々は頑なに入ろうとしなかった。
非常に理解に苦しむ行動だが、我々が無理強いする事ではないだろう。
「よし、そろそろ我々も行くとしよう」
― 量子コンピューター内のVR世界
すごい!・・・すごいぞ!
研究中に体験してはいたが、体を完全に捨てて体験するこの世界の解放感は凄まじい。
この世界のものは、思っただけで全てのものが手に入る。
美味しいものを好きなだけ食べたり、行きたい所にどこへでも行ける。
働く必要もない。
まさに天国だ。
我々は欲望の限りを尽くして、このVR世界での生活を満喫した。
― VR世界で過ごして数百年が経過した頃
ある問題が浮上してきた。
それは、考えうる全ての贅沢を経験してしまった事で多くの人々に『飽き』が生まれてきた事だ。
実は、それは当初から懸念されていた。
人間の生物としての性質上、『制限』があるからこそ『達成感』が生まれ、楽しみに価値を感じる事ができるからだ。
そこで、敢えて『制限』が欲しいと思う人々を別のVR世界へ移動させ、制限を加えていった。
『制限の種類』は人々の意見を聞きながら、"重力"、"体の動き"、"痛み"など、徐々に増やしていった。
そして最終的に落ち着いた先は、いつの間にか現実世界と全く同じものになってしまっていた。
― 『制限』を加えて更に数百年が経過
やはり、どうしても様々な問題が発生する事が分かった。
まず、人間関係だ。
このVR世界の住人の数はずっと変わらない。
数百年も経過すると全ての人と顔見知りになってしまい、人間関係における新たな刺激は無くなってくる。
また、永遠に続く人生に恐怖を感じてしまう者も現れた。
彼らの多くは、VR世界特有の精神病に罹ってしまい、治療も困難なものとなる。
この状況をどうしたものか、と思った時、研究メンバーの一人がアイディアを出してくれた。
「特定の期間が経過した後、『全てを忘れて赤ん坊になってやり直す』という仕組みを入れてはどうですか?」
そのアイディアは即採用された。
そして、『期間』と『赤ん坊としてやり直す家』については、毎回ランダムに決定される事となった。
ー その仕組みが加えられて数十年が経過
私もそろそろ赤ん坊になってやり直す時が来たようだ。
この世界の人たちはとても幸せそうだ。
もう大丈夫。
あとはこのまま永遠に幸せな時が続いていくはず・・・。
教授が赤ん坊に戻った日を境に、この世界の仕組みを知る者が急激に減り始めた。
それが記された記録は残っていたが、ほとんどの者はおとぎ話か何かと思い、信じる事ができなくなってしまっていた。
そして、この仕組みを知る者が完全にいなくなった頃、『全てを忘れて赤ん坊になってやり直す事』はいつしか『死』と呼ばれるようになり、人々は死に恐怖を持つようになった。
― そんな期間が数百年続いた後
このVR世界の中である技術が開発された。
『人間の脳と量子コンピューターをつなぎ、人間の"記憶"、"人格"の全てをコンピューターへ転送する』という技術である。
「やりましたね!教授!」
この技術で全ての人から『怪我や病気の苦しみ』や、『大切な人との別れの悲しみ』を取り除いてあげられる。
ついに・・・人間が『死』から解放される時が来たんだ。
「私達は『人類最後の救世主』になれたわけだ。
みんな誇りに思え!」
チーム全員から喜びの歓声が上がる。
ピシッ
・・・ん?
この光景・・・前にもあったような・・・。
「大丈夫ですか、教授?」
「いや、なんでもない」
きっと気のせいだ。
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/48796312/picture_pc_8a3172b162cae5e1442930b4702194aa.jpg?width=800)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?