リバースエンジニアリング|SFショートショート
森の方で大きな衝撃音が鳴り響いた。
私はそれに気付き、その場所へすぐに向かった。
酷い・・・。
辺り一帯から漂うものすごい熱と煙。
何も見えない。直感的に近寄るのは危険だと感じる。
隕石でも墜落したのだろうか?
風が強くなり煙が晴れる瞬間があった。
おぼろげながらもそこにあった物体の輪郭が浮かび上がってくる。
「これは・・・!」
そこにあったものは "ピラミッド" のような形をした物体であった。
その整った三角錐の形から、隕石などの自然物ではない明らかな人工物ある事が分かった。
しかし、私が今まで見た事があるどの人工物にも当てはまらず、これが何なのかが全く分からない。
半球状の窓のようなものから中が透けて見える事に気付き、覗いてみた。
「人がいる!」
熱さで触る事ができないため、そのあたりにあった木の枝で窓を叩いてみた。
しかし、反応は無い。
よく見てみると、そこにいる人は血だらけになっていた。
この様子だと、きっともう手遅れなのだろう。
私はこの人物を助ける事を諦めた。
爆発などの危険性もある為、少し離れた場所で熱と煙が落ち着くのを待った。
数時間経過し、その"物体"が纏っていた熱や煙は大分落ち着いたようだ。
扉のようなものは見つからない。
試しにあちらこちら触ってみたら、ある部分を触った瞬間に表面がブロック状に浮き上がった。
それらのブロックはまるで一つ一つに意志があるかのように自律的に動き、一瞬で中へ入る入り口を作り出した。
私は20年間エンジニアとして働いてきたが、こんな技術は見た事が無い。
入り口から恐る恐る中に入ってみた。
特に危険がなさそうである事にほっとする。
中にさきほどの人物がいた。
首元を触り、脈が無い事を確認する。
突っ伏した状態のその人を無理やり起こしてみる。
顔や体には酷い損傷があり、身元を確かめる事はかなり難しそうだ。
そして、ここまで時間が経過しても誰も来ず、幸い街の方の人間にも気付かれていない様子。
こんなチャンスは二度とない。
この人物には悪いが、この"物体"は私が頂くとしよう。
それからというもの、私は今までやっていたエンジニアの仕事は全て一旦中断し、その三角錐の物体を解析する事に夢中になった。
最初に分かった事として、これは『乗り物』であるという事と、入り口の "自律的に動くブロック" 以外にも私が知らない様々な技術が使われているという事だ。
某国で秘密裏に研究されている軍事技術だろうか?
私は寝る間を惜しみながら解析を進めた。
それから本業も再開しながら、1年ほどかけて解析を進めてきた。
ここまでで、ほぼ確実に分かった事がある。
私も始めは信じる事が出来なかった。
しかし、今となってはそう考えるしか辻褄が合わない。
この物体の正体は、時空間転送装置、いわゆる『タイムマシン』である。
現代の科学では、タイムマシンには過去を変えてしまう"パラドックス"が生まれてしまう事から、実現し得ないものだと考えられていた。
しかし、この装置がタイムマシンだとすると、未来の科学ではそのパラドックスは生まれない事が証明された、という事だろうか・・・?
この装置をリバースエンジニアリングしただけではそこの結論までは分からなかった。
それから解析を進めるにつれて、この装置はタイムマシンの他にも『反重力装置』『小型核融合』など、様々な未来の技術が使われている事が分かった。
ここで得られた知識は、通常では有り得ないような速さで科学技術を進める事を可能にした。
ー そして、墜落事件から約10年間が経過
リバースエンジニアリングから得られた知識を使って、私もタイムマシンを製作した。
但し図らずも、機能性を損なわない為にデザイン全てをあの装置と同じにする事になってしまったのだが。
入り口は生体認証により、生体情報をスキャンして私のみが入る事ができるようになっている。
つまり、セキュリティもばっちりだ。
今日はついに念願のテスト運航。
「うまく行ってくれよな・・・!」
操縦席へ座る。
小型核融合炉をON・・・安定。
「よし」
反重力装置をON・・・安定。
「よし」
時空間転送装置をON。
行く時間は決まっている。
過去にあの装置が墜落した時間だ。
まず最初に、どんな奴が乗って来たのかを確かめに行こうと思う。
そして最初に尋ねる。
「お前は何者だ?」と。
セッティングは10年前のあの日。
時空間転送を開始。
・
・
・
ガタガタッ
揺れが激しくなってきた。
「なんだこれは?」
反重力装置が暴走している!?
その状態のまま時空間の歪みに突入してしまう。
「うわーーー!」
・
・
・
時空間の転送が完了した様子で、視界が明るくなった。
しかし、反重力装置の暴走が収まらず、すごいスピードのまま装置がぐるぐる回転している。
そのままスピードを緩められず、地面に激突。
辺り一帯にもの凄い衝撃音が鳴り響いた。
私は全身を強く打ち、激痛を感じる。
エアバックなどの安全装置を付けなかった事を今更悔やむ。
そして、ここで私の人生が終わる事を悟った。
何かが外で動いた気がした。
朦朧とした意識の中で、窓の外を確認する。
「あれは・・・」
そこには、熱と煙の向こう側で慌てふためく、10年前の私の姿があった。
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