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公共政策大学院入学までの記録


 りもんです。4月から北海道大学大学院公共政策学教育部専門職学位課程(公共政策大学院)に籍を置き、政治学の勉強と研究を続けます。

 久しく更新していなかったのは院試や卒論、遊びで多忙な日々を送っていたからです。大学院生活が本格的に始まる前に、これまでの軌跡を形にしておきたいと思い、本稿を執筆しています。エッセイとして読んでいただくのももちろん歓迎ですが、公共政策大学院を志望する学生の参考に少しでもなれば幸いです。なぜなら、公共政策大学院への進学が非常にマイナーな進路選択であることと、その進学理由や対策に関する記録が多くないからです。

 構成としては、1章で志望に至った経緯を、2章で院試対策を、3章で合格後の学習について書こうと思います。

 他方で「これをすれば受かる!」と指南することは本稿の目的ではなく、あくまで私自身の進路選択/勉強法なので、適宜取捨選択していただければ幸いです。

1. なぜ公共政策大学院を志望したか

 これはきっと今後の二年間で幾度なく聞かれるだろうから、良い機会なのでここにまとめておくことにします。

1. 政治学をもっと学びたかったから
2. 公共的な役割を持つ仕事に興味があったから
3. 研究大学院よりも広く学べそうだから

 そもそも公共政策大学院とは、学校教育法99条2項が定めるところの、公共政策/サービスに携わる高度職業専門人を要請する専門職大学院です。学位に「(専門職)」の文字がつきます。会計分野や臨床心理分野の大学院も一部、これと同じ位置付けです。しかし、修了生が必ずしも公務員になるわけではなく、民間へ進む卒業生ももちろんいます。授業も政策提言のように実務的な授業もあれば、法学/経済学/政治学などの社会科学分野の授業も多く履修できます。

1. 政治学をもっと学びたかった(研究したかった)から

  僕が進学を決意した理由の一つが、まさにこの政治学を中心とする社会科学(Social Science)の学びをもっと深めたかった、というものです。
 前述した通り、学部時代はラテンアメリカ地域の政治を研究していました。しかし、その地域の政治現象を理解するための理論的枠組みや分析手法には若干疎く、またそういう授業も少なかったのです。むしろ、地域固有の論理を文献や留学を通じて見つけ出そうとする、いわゆる地域研究(Area Studies)の色が非常に強くありました(地域研究と比較政治は一長一短であり、どちらが優れている、などといった尺度の問題ではなく、本稿の主題でもない)。

 そしてこれは卒業論文の構想を練り始めたり院試の勉強を始めて気づいたのですが、僕の学術的なモチベーションは、地域に徹底的に潜り込むよりも、「その地域は世界の中でどのように位置づけられるのか」という横断的な、比較の観点の方が強かったのです。そしてそのためには、普遍的な政治学に関する概念(選挙制度や政党制度、政治体制etc)や研究方法論(統計分析なのか、インタビュー調査を行っているのか、文献調査なのかetc)についてしっかり理解する必要があります。それができる選択肢の中に、公共政策大学院がありました。

 特に近年では統計学的手法を用いた論文が増えている事に加えて、官民や仕事/私事問わずデータの選球眼を養う必要性が増してきている事も、僕の学習意欲を加速させる要因の一つでした。数字やデータにもう少し強くなるのも、院での目標の一つです。

2. 公共的な役割を持つ仕事に興味があったから

 理由の二つ目です。大学院に進学した筆者ですが、大学3年の時(と言っても一年休学してるので一昨年ですが)は就職に向けて夏前からガンガンインターンや説明会に行ってました。公務員は民間との両立が厳しいと判断して早々に選択肢から外していました。当時はとりあえず色んな業界を見ていて、商社や保険やメーカーなどに行きましたが、いずれもシックリきませんでした。ですが、段々と資源・エネルギー系や海運系など「絶対に必要なもの」を扱う事業への関心が強いことに気が付き、「公的機関や半官半民、民間でも公的な役割の強い事業を展開してる会社で働きたいな」と思うようになったのです。

 また、ちょうど大学3年の時に学生主体に大学間合同ゼミナール(学会のようなもの)の実行委員長を務めていました。「この会場に来ている人皆、この会が滞りなく終わることを当たり前に思ってるんだよな。『当たり前』に携わる仕事って自分が社会を支えている感じがして好きだな。」と感じたことも、職選びに大きな影響を与えています。その点、公共政策大学院は公的機関へのインターンシップ制度や、中央省庁などから出向してきておられる実務家教員の方を擁しており、キャリア選択に役立つと考えたからです。

 加えて、僕は大学4年を休学し留学して、目一杯勉強してから帰国後に就活をして学部卒で社会に出るつもりでした(留学に関しては以前の筆者の記事にそのことが記されています)がCovid-19の感染拡大により帰国を余儀なくされました。その影響か、不完全燃焼な感が拭えず、就活を続けるか迷った結果大学院に進学を目指すことを決意したという運びです。そもそも日本の就活はスタートは早期化する割に終わる時期は変わっていないので、通算すると在学期間の半分ほどを就活に使わざるを得ないという本末転倒な状況です。これに対して違和感を感じている学生は少なくないのではないでしょうか。

3. 研究大学院よりも広く学べそうだから

 さて、大学院進学を決意したものの、どの大学院にしようかと選ぶ段階でもかなり迷いました。具体的には「研究科or公共政策大学院」「研究科だとすればどこ?公共政策大学院だとすればどこ?」というところです。
 一般的に大学院と言えば、研究科のことを指します。修士論文の執筆が絶対条件で、研究のための指導教官がつき、授業を適度に取りつつも主に研究が生活の芯になるだろう場所です。
 前提として私は博士課程に進学するつもりもなく、研究者を志すわけではありませんでした(それは研究者ポストの少なさに起因する、職業としての不安定さが理由です、僕は人生をそこまでのリスクに晒すつもりはありませんでした)。加えて「問いを作り出す能力」を自分は優れているわけではないなとも感じていました。こうして、研究者として生きていく能力、覚悟、気概がないことが明らかになった一方で、もう少し学問と向き合ってみたいという想いから、「研究」も「勉強」もできる大学院という公共政策大学院を選んだわけです。

 余談ですが、研究科として進学候補に挙げていたのは、北海道大学法学研究科と名古屋大学国際開発研究科の二つでしたが、いずれも受験には至っていません。また、公共政策大学院の中でも北海道大学を選んだ理由は、政治学系の教員が充実していたことと、実家から通えて経済的負担が少なかったことの二つがメインとなります。

2. 合格するまで

 具体的に院試受験を決意したのは、夏季試験のちょうど一年前くらいです。政治学分野で受験することを決意したのはいいものの、体系的に学んだことはなかったので、入門のために新書を読んで概要をつかんでから、分厚い教科書と格闘して論述力を身につけていくというスタイルを取りました。また、3月までTOEICの勉強を、4月からは卒業論文の準備を並行してやっていました。

 では、実際に使った本(のURL)と共に振り返っていきます。

まず最初に「公共政策大学院目指すなら、公共政策学なる分野のこと少しは知らなきゃ」と思い、読みました。この本によると、ある社会問題に対する処方箋が政策であり、それは法/経済/政治/技術など様々な切り口が求められる学際的な学問である、といった趣旨のことが書かれていた。概要を掴めただけでも参考になりました。

次に、政治学/行政学/国際政治学のイントロダクションとして、それぞれ新書一冊ずつ買って読んだ。

この本は政治学における色んな議論をざっくり学べた点でよかった。

名著らしいので買ったが、この本は最初に読む本ではなかった。

 この本は、教科書のようなタイトルを掲げながら教科書的な記述ではなく、筆者のメッセージがビシバシ伝わった。教科書ではないが、この本に出会えてよかったと思う。ちなみに、この本を読んで僕は官僚という進路を選択から外した。

 これら一通り読んでからは、本格的に教科書を使って読み込んではメモを取り、記述の練習をするサイクルを回していった。使った教科書は以下の通り。
 この有斐閣の『政治学 補訂版』は、政治学の主要な議論はもちろん、国際政治や行政学など裾野の部分も解説しており、包括する範囲が広い。辞書的にも使えるので重宝した。

 国際政治は、同じく有斐閣の『国際政治学』と迷ったが、公共政策大学院に合格した人のブログで頻繁に紹介されていた下の本を使ってみた。歴史を丁寧に説明することで理論を導出するという、非常に有用な一冊。練習問題もついており、結果的にはこれと上の本の2冊体制で乗り切った形となる。

  行政学は真渕本か迷って西尾本にしたけど、正直合わなかった。個人的には記述の抑揚がなく頭に入りづらかった。今思えば、曽我本もよかったかもしれない。実際に読んでみて合うか合わないかを決めることを強くお勧めする。

 これらの参考書を中心に過去問を解いたり手を動かすこと中心に対策を行なってきたが、過去問で出題されている分野が有斐閣の『政治学 補訂版』で一部カバーされていなかったので、急遽買い足したのが、粕谷祐子(2014)『比較政治学』なのだが、結果的にはこれが大正解だったように思う。粕谷先生はフィリピン政治の研究者というのもあってか、新興国特有の権威主義体制に関する議論を欠かさず載せているあたり非常に好感触だった。また、各分野の主要な研究や学説を欠かさず紹介してくれていて、優れた参考書だと思う。

  ここからは、サブの参考書を紹介する。
 ゼミで輪読したのが本書。コロナ対応には権威主義(=独裁)の方が有効なんじゃないか、と実しやかに言われる中、権威主義体制とは実際にどのような特徴を持っているのかを理解することができた。一般書扱いだが論拠はしっかりしており、非常にお勧めな一冊である。

 

 大学院の先輩と読書会で使ったのが本著。日本学術会議所属の宇野先生の著作で、「そもそも民主主義って何?」というシンプルかつ根本的な問いに対して、主に歴史や思想の観点から論じている。民主主義って、ベストではないけどベターな政治体制だと思った。


また、かつてラテンアメリカ政治の集中講義を受講したときに先生からお勧めされていたのが本著。主に新興国研究における政治学の主要議論を、制度的要因/構造的要因/アクター的要因の三つから論じており、非常に実用的。

 また、地方自治系や地方政策などに疎かったため、かなり有名な報告書である本書に目を通してみた。人口減少に起因する地方の衰退は、信じられないスピードで進んでいる。だが残念ながら、歯止めは全くかかっていない。


 他には、北大法学部の政治学系教員の論文に目を通したりしていた。当時は最善を尽くしていたつもりだが、今思えば対策不足だった。とりあえず、合格できてよかったと思う。

3. 合格してから

 合格してからは、基本的に卒論を執筆しつつ、遊んでいました。卒論が終わってやっと、読み溜めた本を消化できるようになった感じです。ここでは、それらの本を紹介していきます。

  衆院選前に大学図書館に購入リクエストを出したのに手元に届いたのは衆院選の後だったのは残念だったが、この本も選挙というものの理解を助けてくれた。また、プシェヴォスキの著作は日本語で読めるものが少ないのでその点でもお勧め。
 具体的には、選挙にできることとできないことを実証的に明らかにしている点が素晴らしい。何か重要な政治的決定をする時、選挙という方法を使えば、少なくとも流血を伴う事態にはならないと主張している。これは実際そうで、平和裡に権力の移譲がなされずに苦しんでいる国は多くあるので、守っていかねばならない仕組みの一つなのではないだろうか、と思わされた。なお本著は「だから選挙は素晴らしい!選挙に行こう!」と啓発するような意図はなく、あくまで理詰めで読者にわからせている、という感じがして、個人的に好き。


選挙とは、良い政府、合理性、正義、発展、平等など、私たちが望むものを何でも与えてくれるメカニズムではなく、異なる選好を持つ人びとが何らかのルールに従って争いを処理する場にすぎない。p.167

 

法学は全くの門外漢なので、まずは憲法と思って、いつかの新聞のコラムで鋭い指摘を寄せていた木村草太氏の新書を手に取ってみた。憲法は政治を縛ることのできる上位の制度であると同時に、人類の歴史の積み重ねなんだと実感した。内容はそんなに覚えてないのだが含蓄のある一冊なのでまた読み返したいと思う。クロ現の国谷裕子氏との対談もあり、読みやすさもある。

 

  あと、学部最後の授業で中東政治の集中講義を受けたんだけど、その時に読んでみたのがこちら。中東を理解する入門書で、文が上手で退屈せずに読めた。にしても、欧州発祥のの国民国家(Nation State)概念ってかなりエゲツない歴史を生み出してるなと、中東という地域をみて思う。


 あと、中東欧に関しても全く疎かったんだけど、友人の勧めでこれを読んでみた。多様な民族を内包する地域において国家を建設しようとすることの難しさやその根深さは日本に住んでいては中々知ることができない。でも無関心でもいられない。良書です。


 あと、統計やデータの勉強をしようと思って読んだのがこの2冊。数学やデータの勉強は、英語と一緒で地道に継続していこうと思っている。


4. 終わりに

 程なく授業が始まり、就活も始まってくる。今年度はとことん忙しい一年になると思うが、生活習慣はなるべく崩さず余暇の時間も忘れずに、淡々とやるべきことをやっていこうと思う。同年代はもう働いているし、学生気分ではいられないね。
 それと、一ヶ月ごとに月の振り返りレポートをnoteで書いてみようと思っています。では。







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