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うつ病の再発防止の鍵-抑圧された感情の処理とは

不知火塾 第3回目は 不知火病院理事長 徳永 雄一郎先生による「再発防止を目的としたうつ病治療」がテーマでした。

うつ病は再発率、慢性化率の高い難治性の疾患です。

再発防止に興味がある方、うつ病患者との関係性構築に悩んでいる方近年の患者の変化を知りたい方はぜひご覧ください。


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次回は7月28日(金)
琉球大学 近藤 毅先生による
「成人ADHDの診察-病態に即した対応を目指して-」です。
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徳永先生は1989年に日本初の、うつ病専門治療病棟「ストレスケアセンター・海の病棟」を設立されています。


1.ストレスケアセンター・海の病棟の設立

不知火病院HPより

うつ病専門病棟であるストレスケアセンターは設立にあたり、光の変化、風の流れ、雨の音を感じられるように、つまり人間の五感を刺激することを計算されたそうです。

不知火病院HPより

4人部屋には3か所の出入り口を設置。個人空間と共有空間の調和と、人間が緊張しない距離を考えた設計になっています。

個室と大部屋の中間体としての特徴をもち、1人の空間を閉じたり開いたり、気分に応じて自ら調整できる空間になっているようです。

2つの予想外の出来事

【①統合失調症とうつ病患者の変化】

徳永先生が、ショッキングだったと語られたのは、統合失調症の患者をストレスケアセンターに移したときの出来事です。

それまでは症状が安定していましたが、ストレスケアセンターに移ると症状が悪化。閉鎖病棟に戻すと症状は安定したそう。

一方で、うつ病患者においては、ストレスケアセンターで早い回復がみられたとのこと。
うつ病は、一定の状況下において症状が軽減することが判明されたと話されます。

精神疾患の種類によって病気の回復に繋がる病室の構造が異なることは非常に興味深いお話しでした。

【②患者アンケートでの驚き】

8年間にわたる研究のもと以下のことが判明しました。

・自然を体感できた人ほど高い回復度が得られた。
・医師以上に看護師の評価が上位になった。

設備だけでなく、医師、看護師から守られているという安心感・安全感が患者にとって重要だと感じました。


また、職場ではまじめで几帳面な方が、家庭での評価が低いこともあるようです。
おそらく職場では感情を抑制し、その反動として家庭では攻撃的な行動が出現するのではないかとのこと。

社会や家庭での感情の処理のアンバランスさを指摘されました。
再発防止には行動を規定する未処理の感情の処理が必要だとお話しされます。


2.言語による治療の困難性と感情の処理

設立から30年間。最も大きな変化は、言語による治療が困難な患者の数の増加だと伺いました。

どのうつ病にも共通しているのは、過去の成長過程で感情が抑圧されて未処理のまま残っているということです。

患者が感情を適切に処理できるようになるには、特に女性の看護スタッフとの関係性から生まれる安心感や安全感が重要とのこと。

感情の処理には攻撃性の表出も含まれます。

そうなると、攻撃を受けたスタッフの精神バランスも崩れ、看護師がうつになったり退職したりすることもあったそうです。

徳永先生は、看護師らの患者から受けた経験が、患者の人生を変えるきっかけとなり、生きる希望を高めることに繋がったことを、明確にフィードバックをしてスタッフのケアをされていらっしゃいます。


症例提示と再発防止

講座では、患者の症例が紹介されました。

治療の過程で、ある出来事をきっかけに患者の攻撃性が出現。

抑圧された感情の表出に注目し分析したところ、医療スタッフとの関係性から安心感が生まれ、感情の表出に至ったのではないかという結論に。

スタッフが変わらない態度で受け止めていくことで、患者にとって感情を表出しても関係が悪化しない経験となりました。

抑圧された感情を安心して表現できるように、関係性を構築をしていくことの重要性を実感した症例の紹介でした。


入院中の抗うつ剤の減薬・断薬

ストレスケアセンターの入院時より抗うつ薬なしでの治療、退院時までに断薬、減薬に成功したデータの発表もありました。

・1年後の再発率減薬でも顕著な変化なし
・自殺企図、希死念慮の患者もストレスケアセンターにて安定する
・昼間の孤独を感じる患者がストレスケアセンターで回復する 
・自殺企図、希死念慮の患者もストレスケアセンターにて安定する
・昼間の孤独を感じる患者がストレスケアセンターで回復する

データからわかったこと

こうしたデータから、安心感・安全感の提供で症状は軽減する可能性があるとのこと。

患者の回復には、環境の提供が大きく関わり、安心感や適切なケアの提供が再発防止や患者の症状改善に繋がると感じました。


3.時代の変化と精神疾患の多様性

時代の変化に伴い、うつ病と発達障害の混在が顕著になり、若年層ほど発達障害の傾向が強く出ているとのこと。

最近の若年層の傾向としては一見、深刻な症状はみられないけれども、実は希死念慮や強い身体症状があることを指摘されます。

身体症状は小・中学校時代から出現しているけれど、自身の変化に鈍感な傾向があり、気付いていないことも多いそう。

さらに、最近の発達障害が混在したうつ病にも、身体症状にも注目する必要があると指摘されました。

不知火病院・クリニックでは、身体症状を含めた独自の不知火式ストレスチェックを実施されています。

患者本人の話だけではなく、細かな身体症状のチェックや観察が大事だと学びました。

続けて、幼児期から抑圧された未処理の感情がうつ病に関連しており、感情の処理によって行動に変化が生じると話されます。

発達障害との関連性も指摘され、感情の処理が人格の発達に影響を与える可能性が示唆されました。

近頃、人格の発達が未成熟の人が多く、不安も、うつ状態も未成熟であれば、身体症状や未成熟の感情表出や行動が起こる可能性があることも指摘。

徳永先生は治療の難しさを実感されていました。

看護師として患者の感情の処理と関係性構築に着目し、個別のケアプランやアプローチを考える重要性を再確認することができました。また、患者の未成熟な感情や行動に対して理解をもって柔軟に接していくことの大切さを考えさせられました。


まとめ

・うつ病の回復には種々の要因がある
・再発防止には、抑圧された感情の処理が必要
・行動を規定するのは感情である
・時代が変化し、病態も多様化

講座資料より

徳永先生の、治療と実践の積み重ねに裏打ちされたお話しを聞くことができた貴重な講座でした。
ありがとうございました。


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