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知っておきたい発達障害-ADHD/ASD/SLDの特性と対応

近年、ADHDという言葉をよく聞きますが「もしかして自分も……?」「ひょっとしたら、あの人って……?」など思ったことはありませんか。

不知火塾 第4回目は琉球大学・大学院 医学研究科精神病態医学講座教授、近藤 毅先生による「成人ADHDの診察-病態に即した対応を目指して-」がテーマでした。

ADHDなどの発達障害について理解を深めたい方、対応に困っている方はぜひご覧ください。



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次回は8月4日(金)
林 輝男先生(西川病院 理事長)による
「精神障害者のリカバリーを目的とした
社会復帰支援-IPS就労支援を中心に-」です。
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成人ADHDの診断について

ADHDは注意欠陥多動性障害のことです。
近藤先生は、まず成人ADHD診療において留意すべき4Cについてお話をされました。

  • Comorbidity(併存疾患)

  • Concern(現在の困りごと)

  • Complex(劣等感の元となる過去)

  • Continuity(幼少期からの連続性)

ADHDの特性を知らずに、適応障害、不安障害、うつ病などの併存疾患によって受診する方が多いため、医療者には併存疾患の奥にあるADHDを見い出す作業が求められるとのこと。

ADHD症状よりも、仕事や生活上の問題、対人関係の不安トラブルなどの現在の困りごとに焦点を当てることが重要と述べられました。

ADHDは神経発達症であり機能が障害により、学業不振、頻回な転職、軽率なミス、時間の不遵守などがでやすく、劣等感を抱きやすいそうです。
そのため、本人の挫折体験には共感的対応が重要とのこと。

そして、幼少期からの症状の連続性がなければ、ADHDと診断すべきではないと話されます。

ADHDではさまざまな機能障害を融合する形で見かけの症状・行動を形成するため、症状よりも機能の問題と捉えた方が社会生活機能の向上へのヒントとなり得ると述べられました。

【機能障害-ADHDの困りごと3T-】
ADHDの方々の問題点として3つのTを挙げられました。

  • Task(遂行機能障害)

  • Time(時間管理障害)

  • Toleranc(報酬系の障害)

タスクに関する問題点は、仕事や学業、家事において遂行機能の障害による困難を意味しています。
タスクを始められず、始めても途中で中断したり、確認を怠ったりし、最終的にタスクが仕上がらないことも。
シングルタスク、ダブルチェックを原則とすることが大切だと述べられました。

次に、時間管理の問題点です。
時間を無駄に使ったり、約束や期限を守れなかったりするため、計画的なスケジュール立てが必要とされるとのこと。

最後に、決断と行動にも特徴があり、衝動的に決断し、即座に行動することがあるため、努力や我慢が苦手で、チームワークを乱す場合も……。

治療により改善される場合があるものの、報連相の徹底や、目標設定の共有などで、単独行動を避けるよう心掛ける必要があると述べられました。

ただし、ADHDの方々が必ずしも社会適応に問題を抱えるわけではなく、適さない職場や環境に置かれることで、社会不適応となる可能性が高まるとのこと。

その他、具体的な問診の仕方やADHDの方の特徴をわかりやすくお話いただきました。

看護師としても、根本的な問題を見逃さず、適切なアセスメントと対応が求められること、ライフスタイルや職場環境にも目を向け、個々に応じたサポートを提供することが重要だと実感しました。


ADHDの経過-併存病態と負のライフイベントの連鎖-

ADHDの方々の併存疾患の有病率と学校・社会への適応状況を10年間フォローした研究結果に基づいたお話もありました。

未治療のADHDの方々にはうつ病、双極性障害、不安障害などのさまざまな併存病態や負のライフイベントが多く見られることが判明。

そのため適応問題に直結しやすい傾向がありますが、早期発見と治療によりこれらの問題を予防できるとのことでした。


グアンファシンの薬理と臨床

成人のADHD治療において、グアンファシンは安全性が高い薬剤であり、ノルアドレナリンとドーパミンの適切なバランスを調整するためADHDの症状に効果があると述べられました。

グアンファシンを使用した双極性障害と注意欠陥多動性障害患者の症例紹介もあり、併存疾患の多いADHDの成人に適応しやすいことが理解できました。

また、成人に使える薬剤、メチルフェニデート、アトモキセチン、グアンファシンのそれぞれの違いや使い分けのお話もありました。


ASDの診断について

ASDは自閉スペクトラム症(広汎性発達障害)を意味します。
近藤先生は、ASDの問診において2つのテーマを挙げられました。

  • 診断の明確化するための問診を行う必要性

  • 社会的コミュニケーションの困難さの共有

治療方針の確立や 社会的サポート提供 の根拠としてASDの診断を明確にする必要があるとのこと。

また、ASDの方々は症状の程度が軽いほどコミュニケーションの困難さを自覚しやすく、相談が難しい傾向があるそうです。
対人関係支援に向けたカウンセリングテーマとして本人の抱える社会的コミュニケーションの困難さを共有する作業が重要とお話されました。

【成人ASDの問診について】
下記の順番で問診を行うと、自然にASDの特性を浮き彫りにできるとのこと。

  1. 苦手(困り感に焦点)と得意(生かしたい長所)-弱みと強み-

  2. 職場の対人状況(対他者)-対人関係の捉え方(恐怖・被害・怒り)-

  3. 最近の関心事(とそれに対する個人的見解)-関心の偏在と独特の認知パターン-

  4. 生活スケジュール(平日&週末)- 常同行動の存在-

  5. 苦手な五感刺激(視覚・聴覚・触覚・味覚・嗅覚)-感覚過敏の存在-

ASDの特徴は、①対人面の過敏・ナイーブさ②自己表現の弱さ③対人共感性の乏しさ④グループ内交流の苦手さの4つのグループに当てはめられ、それぞれに対するアプローチが必要だと述べられます。

そのため本人の社会的コミュニケーションの質を聞いて、どのアプローチを適用するかが重要だとおっしゃいました。

ASDへの対応を考える「働く社会人編」

ASDが社会適応の障害に直結するわけではなく、仕事内容のミスマッチや、同僚からの冷遇、上司からの誤解や批判があると社会適応の障害に繋がってくるとのこと。

【ASD者の “うつ” への対応の原則】

ASDの方々のうつ状態に対応する際の6つの原則についてのお話がありました。

ASDの方々のうつ状態に対応する際は、本人の認識を知ったうえで心理教育を行い、状況分析をすることが必須とのこと。

ASDのうつは、抑うつ性混合状態を呈することが多く、抗うつ薬が効かないことがあるそうです。

治療者の役割は良きトランスレーターとインストラクターであり、現場状況を解説し、適応行動を具体的に指示すること、行動変容の方が認知に特化する療法よりも重要であるとお話しされました。

若年ASD女性とカウンセラーとのやり取りの例やASD特性のある部下に関する相談の例もあり、非常にわかりやすいお話でした。

個別の特性を理解し、具体的な行動を指示すること、積極的に環境調整に働きかけることの大切さを実感するとともに、ASDとADHDの特性の違いや、特性の一つ一つに対する対応について深く学ぶことができました。


SLD(限局性学習障害)で訪れる子どもたち

SLDは限局性学習障害を意味します。

学習障害の成人での受診者は、ほぼいないようですが、子どもは知的な問題があると疑われて検査を受けるためによく来るとのことです。
学校では、読み書きに問題がある子どもたちを知的障害と誤解している場合があるよう。

知能は正常であるものの普通学級での学習が難しく、不安や抑うつ状態に陥り、結果的に不登校になることも……。

医師の役割は学校に特性を説明し、適切な学習支援を指導することだと述べられます。
学校には、学習障害の特性の正しい理解のための説明と同時に、本人の学習意欲を損ねないよう適切な学習支援に向けた対応の具体的指示・指導をしているのが現状のようです。

例として算数障害、書字/読字障害などの診断書の提示がありました。

教員が生徒に対してどういう対応をするべきか、時にLD児童の代弁者としての役割をしたり、年齢を考慮した将来的な支援の連続性を担保したり、対応の道理を診断書を通して具体的にご説明いただき、理解を深められました。


講座では、他にも脳機能や薬理の面からの説明もあり多くの学びがありました。

またADHDの話だけではなくASD、SLDなど幅広く発達障害について学ぶことができた講座でした。ありがとうございました。


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