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情のボタンではなく「英語のそこのところ」第84回

【前書き】

 今回、投稿するエッセイは7年前の2015年7月16日に水戸市の「文化問屋みかど商会」のファクシミリ配信誌に掲載されたものです。時節にそぐわない内容はご容赦ください。
 我々Native Japanese Speakerは感情が優先されることが多いですが、Native English Speakerはやはり利得を優先する人々です。このあたりを意識するだけで、Native English Speakerのマネージメントは上手く行くものですよ。(著者)

拙著「英語の国の兵衛門」のkindle版を出版しました。

2008年に株式会社メディア・ポートより上梓され、その後同社の解散により入手不可能になり、みなさんにはご迷惑をおかけしておりましたが(一時は、古本が2万3万ぐらいで取引されていたようで。いやはや、私には一銭も入りませんが_| ̄|○)、kindle という形で復活させることが出来ました。
これを機にぜひお手に取ってみてください。

最新刊!  
「英語の国の兵衛門」「英語のそこのところ」の作者徳田孝一郎の作った英語テキスト「English Sentence Maker 実践英語・英会話力養成テキスト9 形容詞とその仲間たち2(関係詞)」販売中!

 前巻の「形容詞とその仲間たち」で形容詞・不定詞の形容詞的用法・分詞を取り上げ、様々な表現をするスキルを身に着けていただきましたが、今回は、文で名詞を飾りたいときに使う関係代名詞・関係副詞です。
「質問をしてくる奴=私たちにいくつかの質問を頼む少年たち」
「あいつらがする質問=少年たちが私たちに頼むいくつかの質問」
と言った日本語を英語にする手順をすっきり身に着けることができます。

【本文】

 今日は7月16日で、「藪入り」もしくは「後の藪入り」と言って、昔、丁稚奉公や女中をしていた人が実家へ帰ることを許された日だそうです。
 お盆の行事を済ませた奉公人に、お休みをあげる日だったそうですが、そんなことも、もう昔でとんと薄れている習俗だったりします。わたしだって、山本周五郎や池波正太郎の小説で知った言葉で実際に、
「ああ、今度の十六日から藪入りだ。おふくろ様と親父様に江戸のお土産はなににしようかな」
なんて指折り数えて床に就いたことはない。まぁ、わたしはもともとそんな殊勝な人間ではないんですが。
 でも、この「藪入り」が年末年始の休暇や、夏季休暇の帰省ラッシュのもとになったと聞くと、なるほどなぁっと思っちゃいます。正月とお盆は実家に帰らなきゃならないという強迫観念はこんなところからきてるんですね。

 Native English Speakerにも、この手のいっせいに実家に帰るという時期があるのかと訊いたことがあるんですが、まるでそういうことはなく、長期休暇はそれぞれの仕事の都合に合わせてとるというのが普通。祝日でもないのにいっせいに休みをとるというのは、彼らにとっては奇異なことのようでした。
「そんなところでも、みんなと一緒になりたいなんて、ほんと日本人って仲良しなのねぇ」
ってあきれたような、感心のされ方もしたりする。
 ええ、ええ、そうですよ。こうやってまとまって動くから、一つ目標が定まれば、助け合って大きな効果を生むことができるんだ、と言い返すわけですが、そんなことを言っている自分自身は、大学卒業以来正月もお盆も帰省することなく二十年ほどたってしまいました。進学塾や出版社みたいな仕事をしていると、どうしても世間様と仕事のピークがずれてしまって、みなさまがお休みの時が、仕事時ということになってしまうんです。で、「藪入り」が終わったころ、お客様のご迷惑にならないところで休みを取らせていただく。
 でも、こういうクライアントに迷惑をかけないように休むという感覚は、日本に来ているNative English Speakerの講師にはあまりないみたいで、平気で突然長期休暇をとりまぁ~す、なんて言ってくる輩がごまんといたりする。

「そうえいば、徳さん、オースティンが来週の水曜から1ヶ月アメリカに帰るって伝言があったよ」
 Didoが、接客から帰ってきた徳田に世間話をするように話しかけた。
「あっ、そう」
 徳田は気軽に聞き流す。
「そうかぁ、アメリカに帰省かぁ、オースティンも日本が長いからなぁ」
「そうだね。3年ぶりだとか言ってたな」
「だいぶ日本が長いね……」
 と、徳田の動きが止まる。
「ねぇ、Dido、オースティンって、品川のオースティン?」
「そう、品川のオースティン」
 なにか問題が? と血色のいい幸せそうな顔でDidoが答える。
「先週、○△商事の講師に決まったオースティン?」
 トラブルの予感に徳田は蒼くなっている。
「ああ、そうだね。帰ってきたら、○△商事のレッスン頑張るって言ってたな」
「Dido! それを早く言え!」
 徳田は、電話に飛びついた。

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