大田栄作

エッセイを基本に

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最近の記事

肩を組んだあとで全裸と寝た高円寺の酒

焼き鳥はうまいし酒に合うし大体深夜でもいけるし昼からでも構わない、という事実を疑いたくない。  家から歩いて1時間半くらいなのでよく高円寺に夜散歩へと出かけるのだけれど、歩きすぎかもしれない。そしてあの街は大概酔っていて何やらおかしな人がいる確率が高いし、高円寺ってこういう街だよなって幻想をギリギリ事実として体験させてくれると思う。峯田になれなかった人がたくさんいる。金もないので持ってきたチューハイを左手に持って純情商店街から少し外れたあたりを歩く。たしかにそこはフォトジェニ

    • 池袋HUB、よくわからない甘い酒

      もうあれは23時を回っていて、普通ならば飲み会が終了するような時間だった。平日、どうしても次の日は仕事だ。だからこそ彼女から2軒目の誘いがあった時には飛び上がるほど嬉しかった。あぁ、まだもう少しこの人と一緒にいられるんだなと思った。人もそんなにいない池袋の街角、とにかくこんな時間から飲める場所を探して(24時間やっている場所はあるけれど、そういうことではきっとない)このなんでもないけれど妙に都会な街をさまよった。なんかもう、一杯だけでも飲めればいいんですけどね、そう言われた時

      • フロムナウオンだと?

         親友が死んだ。というか死んでいたらしい。しょうがないのでわざわざ関西まで出向いてやった。とてもぶっきらぼうで失礼な話だが、そうとでも言ってやらないとこれはどうにもならない。いつ死んだのかさえも知らない(聞かなかった)が、要するに間に合わなかったらしい。元はといえば学生時代に半同棲に近いことをしたり、やってはいけないいくつかのことを一緒にやったりする仲だった。好きだった。青春の象徴だった。そんな人が死んだ。訃報を知ってなりふり構わず俺は駆けつけたので、当然金勘定なんかできてい

        • 春と夏と秋と冬のオートマティスム

          カムチャツカの熊とのあっち向いてホイに敗れて取り憑かれた田中の夢は、ウルトラソウルをシタールで完コピすることだった。それならばインドにでもいけばいいのに。それはそうといえども、いったい我が家の住人はどこへ行ったのか、もう5兆年も帰ってきていない。スーパーの買い物袋が有料化されて2日、エコバッグを意地でももたない我が家では、5万円の余計な出費となった。1枚5円のレジ袋が1万枚貯まったので、銀のエンゼル1枚と交換させて欲しい。何がなんでもこれを成し遂げようと思う。街に、人が、居な

        肩を組んだあとで全裸と寝た高円寺の酒

          夕暮れカモメ東雲の街に着く

           冷たい人がいる。雨は降っていない。去年ちょっとだけやったバイトの源泉徴収票が今頃送られてきていて、そうか世の中もうすぐ年度末だもんね、と納得する。学生だった年度が終わる。レンタルショップで借りたい作品だけが借りられていて、ままならないなぁ、と思う。    三宅唱監督の映画、「きみの鳥はうたえる」を久しぶりに見た。 「やっぱり誠実じゃない人なんだね」 「あ、そうだ、ゴムもってる?」 石橋静河が飲む角ハイボールの350ml(濃い目じゃないほう) コンビニで買うブラッ

          夕暮れカモメ東雲の街に着く

          記名された青

           厨二病の匂いがする。  ちょうだいよ、水でいいからさ。練れた柔らかい笑顔でさっき買った200円近くする無駄に良さげな水を君が強請った時、僕はもう疲れ果てていて、よくそんなに元気な表情筋を持っているね、と死ぬ手前の顔で返したと思う。冷房をつけているのに毎度の如く暑いこの部屋で情事を重ねることが何度あっただろうか。いい加減に冷房の設定温度を28度から下げることを覚えてもいいだろうに、頑なに熱気が充満したラーメン屋のような部屋でマイ・ブラッディ・ヴァレンタインを流している汗ばん

          記名された青

          この世界をぶっ壊して汚部屋を創造する

           汚部屋。この言葉はいつ頃から使われるようになったのだろう。昔ならゴミ屋敷のレッテルを貼られていたであろう汚い部屋を、なんとなくコミカルに、けれどもその負のイメージは損なうことのないように作り出された概念なのだろうか。  世の汚部屋の程度はさまざまで、自称汚部屋の人からちょっとこれはどうにもなりませんねという人まで、沢山の汚部屋がある。Twitterでそんなタグが流行ったこともあったようにも記憶している。これはつまり、自らの「汚部屋」を全世界に解き放つことは、選択的に汚部屋

          この世界をぶっ壊して汚部屋を創造する

          Pure Japanese、それは、もう、ンッヴっ

          フジオカが舞う、フジオカが闘う、フジオカが跳ねる、フジオカが悶絶……  空前絶後の戦闘エアロビクス映画、「Pure Japanese」を久しぶりに見たと思う。あれは確か2025年のことだから今よりか少しだけ前の話で、日本人俳優のでーん・フジオカがプロデュースする映画があるとか無いとか言われて、半狂乱になりながら全裸でブルーレイを鑑賞した。2020年代の前半に起こったアレのせいで、映画はかつてのように予算をかけられなくなったから、この映画にかかった予算は435円だったと言われ

          Pure Japanese、それは、もう、ンッヴっ

          『よそおい』巻頭言

           かつて製作した同人誌、『よそおい』の巻頭言が出て来たのでこちらにアップします。    追いかけてくる。  他者が。  世間が。  私が̶。  私たちは装うことから逃れられなくなった。これは服装や儀礼だけの問題ではない。Instagramに顕著な視覚的S N S (これにはもちろん、TwitterやLINEも含まれるし、S N Sそのものが視覚的であるとも言えるかもしれない)の隆盛により、私たちの多くは「映え」ることを強烈に求められ、そのために装いを強化する必要性に駆られ

          『よそおい』巻頭言

          みんな誰かのことを忘れてしまうね

           一体いつから春だと言うのだろう。寒の戻りというにはいささかぬるく、しかし冬というには暖かい日々が続いている。気がつけばもう3月も末ごろで、九州では開花宣言なんかも行われているようだ。第一、開花宣言だとか前線だとかいって持て囃される花は桜ぐらいで、それはもう流石としか言いようがない。そうか、今年もそんな季節が来ましたか。    去年の花の頃といえば、入院が始まったくらいで、世の中に絶望していた時期でもある。あの頃きっと1年後にこうして文を紡いでいる自分など想像もできなかった

          みんな誰かのことを忘れてしまうね