『よそおい』巻頭言

 かつて製作した同人誌、『よそおい』の巻頭言が出て来たのでこちらにアップします。


 


 追いかけてくる。
 他者が。
 世間が。
 私が̶。
 私たちは装うことから逃れられなくなった。これは服装や儀礼だけの問題ではない。Instagramに顕著な視覚的S N S
(これにはもちろん、TwitterやLINEも含まれるし、S N Sそのものが視覚的であるとも言えるかもしれない)の隆盛により、私たちの多くは「映え」ることを強烈に求められ、そのために装いを強化する必要性に駆られている。そうしなけれ
ば、世間からの「監視」と「処罰」から逃れられなくなった。
 装いを置くと書いて装置と呼ぶ。私たちは、あらかじめ置かれた現代社会という巨大な装いの中で生活している。他者から遅れぬように「映え」を追い求め続け、常に世間から
の「監視」と「処罰」から逃れ続けるためには〈よそおい〉
(他所を追うこと/装うこと)こそが不可欠なこととなった。〈よそおい〉から逃れるための企ては「生まれてこない方が良かった」という反出生主義さえも生んだ。
だからこそ、思想や出生、職業も異なる12人が、それぞ
れのよそおいについて語る場所が生まれた。本書はよそおい
の場所〈他所〉である。この本は混沌とした時代にすべてを飲み込んでしまう装置としての〈よそおい〉の足音を強烈に感じながら、それでも書く必要があると信じる者たちの楽園〈パライソ〉だ。

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