春と夏と秋と冬のオートマティスム

カムチャツカの熊とのあっち向いてホイに敗れて取り憑かれた田中の夢は、ウルトラソウルをシタールで完コピすることだった。それならばインドにでもいけばいいのに。それはそうといえども、いったい我が家の住人はどこへ行ったのか、もう5兆年も帰ってきていない。スーパーの買い物袋が有料化されて2日、エコバッグを意地でももたない我が家では、5万円の余計な出費となった。1枚5円のレジ袋が1万枚貯まったので、銀のエンゼル1枚と交換させて欲しい。何がなんでもこれを成し遂げようと思う。街に、人が、居ない。無人の街を1人歩く。どこかの偉い人が三密を避けるために放ったビームの影響で人口が1000分の1以下になった街で、ただただ生きている。私は死ねない。私は、絶対に死ねない、と思う。こんなに静かな街を一人で散歩するのは重大なコンプライアンス違反でしょう、生活的に。だからおいでよコモドドラゴン。時速500キロでゆっくりと、ノロノロと近づいてくる博多弁のお兄さんとは、分度器を半分ずつ使う仲良しだった。春。

 愛される怪獣だった固定資産税サウルスが、どこぞの星雲からやってきた大きな宇宙人に倒されてしまったのは記憶に新しい。そのヒーローめいた壊し屋さんも年度末の警察組織の末端構成員には勝てず、赤切符を切られた。移動式オービスに映り込んだ巨体。かち割り氷にレモンシロップをたっぷりかけて、恋人が使ったスプーンで食べる。日差しとセミの声が鬱陶しかったのは去年までの話で、今年はそこそこうまくやっていけるような気がするんだ、と虫除けスプレーとSPF280の日焼け止めを手にしながら言う。海辺でターニングマニューバ。うっすらと空に尾を引く雲の下で、今晩のお食事を賭けたビーチバレーと、明日の天気を占うリフティングが行われている。30000回できたら明日は晴れだからと声援が飛ぶ、6回で終了したから明日は雨。夜更けにそんなに美味しくないヨーグルトをじっくりと食べて、そんなに好きじゃない人とあまり楽しくないベッドタイムを過ごしただけでこんなに汗を掻くのはおかしいじゃないか。おかしいじゃないか。夏

午後5時55分の帰り道に騙されてはいけない。きっと隣にいる共犯者は私ではなくアイスクリーム(148円)のことを気にかけているだけで、それは鬱陶しいくらいに繰り返されるバドミントンでもバドワイザーでもない。ただ少し溶けたアイスクリームが食べたいだけだ。肌寒い研究室の窓から飛び出したハッカ飴はもうどこに行ったのかわからないし、曲がり角にあるオレンジ色のミラーに映り込んだ三つの人影はきっと私とあなたと火事場泥棒に違いない。ゆっくりと注いだ炭酸水をグラスの中で少し眺めたら、さっきの地縛霊のお姉さんがニコリと微笑んだ。もうそろそろ家に着くから、私は共犯者にアイスクリームを渡さないと決めて少しずつ歩調をずらす。ほんの少し、微細に、ゆっくりと距離が開く。ちょうど声が聞こえなくなったあたりで彼女は消えてなくなったから、もうそれはそれでかまわない。余ったラムネで門出を祝う。秋。

絆創膏を貼りっぱなしにして眠った時、それを剥がした後の匂い、眠れないから流した音楽。塩素の匂いが濃いプールで初めてのことを教わった時からまだそんなに時間が経っていない気もするし、数え切れないほどの時間がたったのかもしれない。傷ついた木製テーブルの上に飛び乗ってコンテンポラリーダンスをたった1人で踊っていたら見事に落ちて足がもげた。仕方がないからちょっといい絆創膏で手当てした。もったいない。後2枚しかない派手なデザインのやつだったのに。同級生のアリゲーターガーとトーテムポールに軽く一瞥をくれた後、安くて美味しい塩ジャケ定食を食べるために新幹線に飛び乗った。知らない街でとりあえず下車をしたら今時誰が使うのかわからない暖房器具とチーズカレーまんを支給された。コンビニエンスストアのレジの横に置いてある大量生産されたやつよりも美味しくなくて、これは一体誰が作ったんだろうと思いながらもしょうがないからあと4つくださいと言ってみる。屋上の水分が弾け飛んだ空の色は緑色で、そういえば空を見上げたのはいつぶりかと考えたら時間がなくなった。帰りは歩く。もう戻れない並木道っていうフレーズは、どこかで聞いたことがある気がする。冬。

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