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~エンパシー(感情移入)~(だいたい2000字小説)

私には小さな頃から変な癖があった
ハッキリと気がついたのは中学の頃
付き合った彼と廊下を歩いていた時
すれ違った女の子がチラッとこちらを見た
その瞬間、私は彼に聞いた

「今すれ違った子と二人で会った?」
「はぁ?何言ってるの、そんな事ある訳ないよ」

数日後、私から彼にお別れを言った
そして、その後彼はあの時にすれ違った子と付き合った

そのあとの私の人生は本当に辛い毎日だった
声が聞こえるのではない
何となく感じる……と言った方が正しいだろう

高校に入るともっとひどくなり、集団での行動が難しくなってきた為、心療内科に通う事になった
「エンパス(empath)」
私は初めてその言葉を知った

人並みはずれて共感力が高く、生まれながらにして人の感情やエネルギーに敏感

あぁ、確かにそうなのかもしれない
とりあえず、原因がわかっただけでも心が軽くなった気がした
エンパスの人は気をつけないとうつ病になりやすい

人がしてほしい事や求めている事がわかってしまうが、どうしてもそれをやりたくない相手もいる
恋のライバルなどに対しては当たり前だがやりたくない
しかし、そのライバルが悲しみ辛い思いをすれば、こちらも同じ思いをした
それを避ける為に、私はいつも自分から去った

もう、この頃になると他人の幸せな気持ち、辛い気持ちが自分の中で入り交じり何だかわからない精神状態になっていた

他人の幸せな気持ちは、私を不幸にした
他人の辛い気持ちは、私を悲しみの中に落とした
聞きたくない声(正確には聞こえてはいのだが)は頭の中に次から次へと入ってくる

成人になり、就職をしたものの、どうしても心がついて行かれなかった
仕事は3カ月で辞める事になった

私は幸せになれないのだろうか、そもそも幸せとは何?
実際の人との付き合いがダメならばと、映像の世界に行ってみた
映画やドラマを観ていて気がついた
映像の世界も今の私には無理だ
感情が次から次へとあふれ出し、辛さが増した

次に私は音楽に切り替えた
これならば……と考えたがそう、うまくはいかなかった
曲を作った人の感情がダイレクトに心に響く
ただ、今までよりも感情のコントロールは出来た
最初の頃はクラシックなどよりも、童謡などを聴いた
懐かしく心から癒された

街は苦手、人混みが嫌いだ
そう思っても、どうしても外に出ないといけない日はやってくる
街ではクリスマスソングが流れていた
こう言った感じの曲は比較的楽だ
しかし、人混みがあまりにもひどかったので、スマホのボリュームをMAXにして外の音を遮断した

(早く用事を済まして帰りたい……)

横断歩道で立ち止まっていると、急に肩を叩かれ驚いた

肩を叩いた男性は指で下を差した
コートのベルトの片側が、道のすれすれまでだらんと垂れ下がっている

「えっ?あっ!」

焦った拍子に片方の耳からイヤフォンが外れた
一気に雑音が入り込んで来た
私は焦ってパニックになりそうだった

するとその男性は言った

「こっち見て。僕の声に集中して」

優しい音色のような声で私にずっと話しかけて来た
心が自然に落ち着いて、雑音が聞こえなくなっていた

「あ……ありがとうございます」
「僕も同じだから」

彼はそう言うとニコリと笑った

「同じって?どう言う事です?」
「言葉の通り……僕もエンパスなんだ」

私は同じ症状の人と初めて出会った
しかし、彼は街の雑音など全然気にしていない様子だった

「気にならないのですか?」
「気にしはじめたら、憂鬱になるよ。コツがあるんだ」

コツ……私はそれがすごく気になった
横断歩道が青になり、私達は話しながら歩いた
用事も彼は付き合ってくれた
私達は止まることなく話をし、自然と笑い声にもなった

「それで!?それで!?」
「だから、額の中心に神経を集中させて……」
「うんうん」
「街を歩いたりする時は、自然や無機質な物に集中する。もちろん、車とか人とかに気を付けて」

帰り際に彼は私の連絡先を聞いた
もちろん、迷うことなく承諾した

数日後、私達は再び会った

彼と一緒にいるのはとても心地よかった
そして、何よりも外部の心の声が私の中に入ってこない
見たくないもの聞きたくないものに気がつかなくて済むのはとても幸せだ

(幸せ?)

私の中に幸せと言う言葉が初めて生まれた
今まで避けて来た物、手放してきた物、それが自分自身の「幸せ」だった
彼との出会いが幸せのサインだとしたら、それに気づいたのは私のエンパスのせいなのだろうか

何か月かたった頃、彼からプロポーズを受けた
その彼の中からは疑いもない本物の気持ちしか見えなかった

私は彼に尋ねる

「本当に?本当に私でいいの?」

彼は言った

「本当に、本当に君がいい」

そして、続けた

「君しかいないんだよ。そんな事わかっているでしょ」

私は小さくうなずいた

二人は結婚した
結婚式にはたくさんの友人や知り合いを呼んだ
私は外の声に耳を傾けた
聞こえて来た「声」は何の疑いもない、二人の幸せを願う光であふれていた

「聞こえるかい?君にも」

「ええ、ものすごく大きく!私達を祝福している気持ちであふれてるわ」

私も本当の幸せを手に入れた
それは彼との出会いだけではなく、自分の為に喜んでくれる人達の心の声だった

「本当に最高だわ」

※これは、フィクションです。
エンパスは病気ではありませんが、あまりにも心が辛い場合は専門家にご相談ください


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