ワンオーダー 〜キャッシュがないと戦えないヒーローとそれを支えるボクの話〜_16

遠くから響く、甲高い悲鳴。

それは壇ノ浦さんの声のように聞こえた。

何かあったのかもしれない。

一刻も早く、戦場へと戻りたいが、今はこの女の子を安全な場所に運ばなくてはならない。それは、ボクに壇ノ浦さんから課せられた使命である。

ぐったりとしている女の子を、誰か、信頼の出来る人の元に届けるまでは、ボクは走りつづけるしかない。

上空にヘリコプターのプロペラ音が響いている。マスコミのヘリだろうか。この惨状を全国のお茶の間に届けているのかもしれない。

見てるだけじゃ何も変わらない。今すぐここに来てこの現状を何とかしろ!

ボクは力のある全てのものに行きどころない怒りを覚えた。

「おーい、誰か、逃げ後れている人はいねーか!」

男性の声が聞こえた。助けが来たのかもしれない。

「こっちです!」

ボクは声の方に向かって走りつづける。

息は絶え絶え、心臓も破裂しそうな程、脈打っている。

果たして声の主は、体格のいい中年男性だった。

グッドタイミング。神様はいるのかもしれない。ありがとうございます。今度、賽銭に500円入れます。

500円で信仰を買えるなら安い物だ。

「この子を、お願いします!」

ボクは女の子を男性に渡す。

「お、おう」

戸惑っている男性を尻目に、ボクは回れ右して元いた場所に駆け出す。

「おい、そっちは危険だ!」

男性の制止を背に浴びつつ、ダッシュ。

走り過ぎて意味が分からなくなってきた。

少しずつEvil Demandのうなり声が近づいて来る。

それは間違いなく、ボクが戦場へと舞い戻っていることの証明だった。

壇ノ浦さんはどうなった?

ボクの脳内はそれだけである。それ以外にない。ボクが戻った所で、何になるわけでもないのに。

しかしようやく、ボクは戦場に辿り着く。

そこでボクが目にしたのは、Evil Demandの傍らで血溜まりに沈む、壇ノ浦さんの姿だった。

「壇ノ浦さん!?」

壇ノ浦さんはぴくりともしない。

ボクの悲痛な叫びに気づき、Evil Demandのたくさんの目がぎょろりとボクを睨んだ。

身体がすくみあがる。

死。

1月初旬、初めてEvil Demandと対峙した時とは比べ物にならない程の恐怖感と、死の実感がボクに覆い被さって来る。

Evil Demandが手を伸ばし、ボクに掴み掛かって来る。

「壇ノ浦さん!」

虚しく響くボクの声。

Evil Demandの醜い手のひらがボクの視界を覆い尽くしたその時、閃光が走った。



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