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「学びの質」を高める授業改善と教師の支援としての発問

いよいよ来年度「小学校学習指導要領」が全面実施され、「主体的・対話的で深い学び」の実現(「アクティブ・ラーニング」の視点からの授業改善)に向けた小・中・高等学校の新たな教育課程が始まります。この「主体的・対話的で深い学び」を促すには、教師が児童生徒にさまざまな目的で関わり、効果的に学びを支援していくことが必要です。英語の授業におけるこうした「支援」、特に「深い学び」をどのように促すかについて考えます。(『英語情報』2019創刊号より)

1.「学びの質」に着目した授業改善に向けて

「何ができるようになるか」
(育成を目指す資質・能力)

「何を学ぶか」
(教科等を学ぶ意義と、教科等間・学校段階間のつながりを踏まえた教育課程の編成)

「どのように学ぶか」
(各教科等の指導計画の作成と実施、学習・指導の改善・充実)

「子供一人一人の発達をどのように支援するか」
(子供の発達を踏まえた指導)

「何が身に付いたか」
(学習評価の充実)

「実施するために何が必要か」
(学習指導要領等の理念を実現するために必要な方策)

中央教育審議会、平成28年12月「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)」より

今回の学習指導要領改訂において、児童や生徒自身が「学びの意義を自覚する手掛かり」を見いだし、「身に付けるべき資質・能力や学ぶべき内容などの全体像」を分かりやすく見渡せるような「学びの地図」としての役割を果たすように、右の6つの視点からその枠組みの改善が行われました。

このうち⑶の「どのように学ぶか」という視点は具体的な児童生徒の学びの姿に関わり、「主体的・対話的で深い学び」の実現を目指すものです。学習指導要領改訂に向けた審議のなかで、一時「アクティブ・ラーニング」という用語に注目が集まり、児童生徒をペアやグループでアクティブに取り組ませる学習活動(言語活動、観察・実験、問題解決的な学習等)を含めることが、授業改善で求められる指導や学習の「型」であると捉えられ、表面的で狭い意味での指導法や技術の改善に終始してしまうことが懸念されました。そのため、児童生徒が「学習内容を深く理解し、必要な資質・能力を身に付け、生涯にわたって能動的(アクティブ)に学び続けるようにする」には、「学びの質」を高める授業改善の取り組みを活性化することが必要であるという思いが、この「主体的・対話的で深い学び」に込められています。

2.「主体的・対話的で深い学び」と教師の支援

「答申」によれば、「主体的・対話的で深い学び」は、学びの本質として重要な、3つの固有の視点に分けられます。これらのうち、「主体的な学び」と「対話的な学び」については「アクティブ・ラーニング」として目指されてきたものと重なるところがありますが、特に「学びの質」に着目した授業改善の特徴が濃く読み取れるのは「深い学び」の視点です。「学習指導要領「総則編」」によると、「深い学び」には、教科ごとの「見方・考え方」※を働かせることが必要です。この「見方・考え方」は、各教科等の特質に応じて「どのような視点で物事を捉え、どのような考え方で思考していくのか」を表すものであることから、それを児童生徒に自由に働かせるようにすることには、その教科等を担当する教師の専門性が発揮されるのです。

※「外国語によるコミュニケーションにおける見方・考え方」は、「外国語で表現し伝え合うため、外国語やその背景にある文化を、社会や世界、他者との関わりに着目して捉え、コミュニケーションを行う目的や場面、状況等に応じて、情報を整理しながら考えなどを形成し、再構築すること」と表されています。

3.学びの支援としての教師発話

上記を踏まえ、「学びの質的な深まり」に注目した授業改善を行うためには、教師が「主体的・対話的で深い学び」の目指すものを十分に理解したうえで、児童生徒一人一人の興味や関心、能力や適性、発達や学習の課題などを踏まえつつ、英語教員としての専門的知識・技能を生かしながら「学びに関わっていく(=支援していく)」ことが求められます。

例えば、言語活動を行う際の支援としては以下の5つのようなものがあり、学習者の実態や学習過程における必要性に応じて柔軟に工夫しながら、学習過程のあらゆる段階で行うことが可能とされています。

話す速度を落としたり、一度にたくさんの情報を伝えるのではなく分けて伝えたりする(「聞くこと」)

理解が難しい語彙や表現が含まれている場合に簡単なものに書き換える(「読むこと」)

対話の例を示すため教師が実際のやり取りを見せる(「話すこと[やり取り]」)

発表の事前準備として、グループで話し合わせたり、アウトラインを書かせたりする(「話すこと[発表]」)

書く活動を行うに当たって有用な語彙や表現を示す(「書くこと」)
書く活動を行うに当たって有用な語彙や表現を示す(「書くこと」)
など

高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説「外国語編 英語編」より

このように、活動の認知的負荷への配慮や学習過程の調整などさまざまな支援の形があるなかで、英語の授業を担当する教師が自身の専門性を生かしながら行うものとして重要なのは、やはり学習対象でもある「ことば」を用いて児童生徒の学びの深まりに関わっていくことだと私は考えています。授業において教師は、学習事項の提示、説明、発問、指示、理解の確認など、さまざまな目的・意図で児童生徒に語りかけたり、問いかけたり、やり取りを行ったりします。しかし、ペアやグループでの児童生徒の自主的な活動を尊重するあまり、教師が「ことば」で働きかけを行うことに対して消極的になっているように感じられることがあります。確かに、児童生徒の活動「量」を増やすという観点からは、教師の指示や発言の「量」を最小限にしようと意識することは必要かもしれません。しかし、「深い学び」の視点からは、教師が「ことば」による支援を積極的に行い、児童生徒の思考プロセスにしっかりと関わることが大切なのです。この「積極的」とはもちろん、単に「頻度が高く」「量が多い」ことを指すのではなく、学びの目的や児童生徒の習得状況に応じて「適切な」支援を「常に考え、調整しながら」組み込むという意味です。

教師発話のうち、授業運営のための指示や雰囲気づくりに役立つ賞賛など「決まった表現」であるクラスルーム・イングリッシュの使用は、まだ既習の語句や表現が非常に限られている小学校の「外国語活動」や「外国語」でも有効ですが、これだけでは「学びの質的な深まり」につながる教師発話とは言えません。私が注目したいのは、教師が児童生徒の「主体的・対話的で深い学び」を引き出すために、どのような「問いかけ」を行うのか、すなわち「発問」の効果的な利用です。

4.「発問」をしっかり機能させるために

教師の「発問」は学習目標や児童生徒の学びの状況に応じて、意図的に目的を持って計画され、授業の流れのなかで適宜修正しながら行われるものです。単元や学習内容のまとまりのなかで、いつ、どのタイミングで、どのような形式の問いかけをするかまで、十分に検討されていなければなりません。すなわち、教材や児童生徒に対する教師の理解が、発問の有効性に影響します。授業計画を立てる際には、一連の発問をどのように組み立てて児童生徒の内容理解や言語活動の質的な深まりを促すかを、しっかりと検討しましょう。予想される児童生徒の答えごとに、それをしっかりと受け止めてどのように反応(リアクション)するかまで考えておきたいものです。教師の「発問」が効果的に機能しているかを振り返るための視点には、以下のようなものがあります。

発問が、しっかりと児童生徒に理解されているか

問い自体が簡潔で明瞭であることも重要ですが、児童生徒の様子に応じて、答えを考えさせる前に「何について問われているのか」「何が求められているのか」を互いに確認させることが必要です。答え方についても、常に児童生徒に口頭で表現させるのではなく、答えの選択肢を与えて選ばせたり、答えを各自書き出させてからペアやグループ内で共有してコメントし合ったりするなど、発問の目的や内容、形式に適切なほかの方法を組み込むことにより授業の流れに変化をつけることもできます。

【例】 Do you understand this question? / Is this question clear to you?
(Do you have) any question about what you have to do?
児童生徒が発問を理解したあとに、十分に考える時間を設けているか

教師が発問をする前に、答える児童生徒を指名する場面を見ますが、これではほかの児童生徒の考える意欲を奪ってしまいます。「発問 → クラス全員が考える時間の確保 → 答える児童・生徒の指名」という順番に留意します。また、ペアやグループ活動を意識して、発問後にすぐ「ではペアで話し合ってみましょう」という指示が出されることがありますが、まずは児童生徒が「それぞれ自分で」考える時間を与えることが重要です。各自が自分の意見や考えをまとめておけば、ほかの児童生徒の発言に対して、自分の考えと比較して類似点や相違点といった観点からコメントを続けやすくなります。

【例】 Now, think about this (question) by yourself first. 
I’ll give you three minutes.
発問の種類のバランスは良いか

読んだり聞いたりしたテキストに含まれる情報を問う「事実発問(factual questions)」や、直接述べられていない情報に関わる「推論発問(inferential questions)」など、発問の種類のバランスが保たれているかを確認しましょう。「事実発問」はテキストの表層的な理解にとどまるという指摘がありますが、内容理解の基礎として重要です。「推論発問」はテキストの情報からどの程度推論可能かによって認知的負荷が変わるため、「何をどこまで推測させたいのか」など、その目的を十分に検討しておくことが大切です。また、Yes / Noで答えたり、選択肢から答えを選んだりする「クローズド・クエスチョン(closed question)」よりも、答えを限定しない「オープン・クエスチョン(open question)」の方が、児童生徒の深い思考を促すだけでなく、答えのなかから学びの状況に関する情報をより多く引き出すことができます。

【例】 As a reader, what do you think is the most important message from the author?
Why did this happen? Is this clearly stated in the text?
発問に対する児童生徒の答えにしっかりと耳を傾けているか

これは児童生徒一人一人に応じた指導の基本です。良い答えや発言には“Excellent!” “That’s right!”などと、賞賛をはっきり示しましょう。児童生徒の不安を和らげるための表情やジェスチャー、相づちや声かけなども大切です。答えの内容だけでなく、語彙や構文など表現についても細かい部分まで聞き取り、適切な対応を行います。期待とは異なる答えが出た場合にも、発問を繰り返したり、より分かりやすい表現に言い換えたりして、もう一度考えるように促します。児童生徒が伝えたいことを適切に表せない場合には、別の表現への言い換えを考えさせたり、具体例を挙げるよう促したりすることもできます。

【例】 I’ll put it another way. [Let me put it another way.]
Can you rephrase it? / Can you think of any examples of this?

発問は、ある程度難易度の高い語句や表現を習得してからでないと導入できないわけではありません。小学校高学年でも、何度も音声で慣れ親しんできた表現を別の場面で想起し、活用しながら対話の継続の仕方を学ぶSmall Talkなどの言語活動に組み込むことができます。

例えば、「好きなスポーツ」についての対話のなかで、“I like baseball.”という児童Aの発話に対して、教師はまず“Oh, you like baseball. Nice. (Me, too. I like baseball.) ”とリアクションしますが、これに続ける問いかけを、目的に応じて以下のように変えることができます。

⑴同じ児童Aに対し “Can you play baseball?” と問いかけ、「別の既習表現の理解と産出」を促す

⑵別の児童Bに対し、児童Aとの対話と同じ「トピック」(野球)を引き継いで “How about you, B? Do you like baseball?” と問いかけ、そこから新たな対話を始める〔返答がNo. の場合はトピックのカテゴリーを広げ “No, you don’t. O.K., then, what sport do you like?” のように続ける〕

⑶別の児童Cに対し “How about you, C? What sport do you like?” と問いかけ、児童Aと同じ「構文」(I like ....)を用いた発話を引き出す

⑷同じ児童Aに対し “Why?” や “Can you tell me more?”と問いかけ、「前の発話を補う詳細な内容」(野球が好きな理由)を “(Because) I can run fast.” “(Because) it’s exciting!”といった既習表現で引き出し、対話の「内容の深まり」を促す

このように、引き出したい内容や既習表現に応じて発問を変えながら次々と児童に問いかけることにより、学習内容の定着や、即興的な応答を促すことを目指します。さらに中学校や高等学校段階になれば、語句や表現も豊かになり始めるため、読んだり、聞いたりしたことの「より深い理解」を確認する発問を行うことができます。

【発問例】
《テキストの要点》
What is the main idea of this text? / What do you think is the most important part of the author’s message?

《テキストの概要》
What is this text about? / Can you summarize the text?

《書き手の意図》
What is the aim [intention, purpose] of the author? / Why did the author write this passage? / What does the author want you to understand? / What does the author want to tell you most?

《読み手(聞き手)にとっての要点》
What did you learn from this passage? / As a reader, which sentence [part] is the most important?

これらは一般的な発問例ですが、個々のテキスト内容に応じて「より深い思考」へと導くために、具体的な発問を考えて取り入れることが大切です。

教師が児童生徒とやり取りをするなかで投げかける「ことば」が、「主体的・対話的で深い学び」を実現するために周到に計画された一連の発問であり、それらにより形成的な学びの見取りが行われていくような授業改善に取り組んでいくことが、新課程目前の今、求められています。

ゆっくりで構いません。児童生徒の「ことば」を丁寧に聞き取り、それを受け、目的を持った「問いかけ」をしてみることから始めましょう。


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池田 周(いけだ・ちか)
愛知県立大学外国語学部教授。英国ウォーリック大学博士課程修了。博士(英語教育・応用言語学)。小学校英語教育学会愛知支部理事。文部科学省「小学校の新たな外国語教育における補助教材の検証及び新教材の開発に関する検討委員会」委員を務めた。主な研究テーマは、外国語としての英語リテラシー習得、小・中・高等学校を通じた外国語教育のあり方、国語科と外国語科の連携。小・中・高等学校で幅広く教員研修やセミナー・ワークショップなどを行う。