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意見交換会をやってみた!

昨年の秋から、映画・映像の制作現場で働く女性たちに声をかけて意見交換会を始めました。気の利いた名前も思いつかず、わかりやすく「映画と女性ネットワーク」の「意見交換会」と題しています。

秋には子育てをしながら働いている女性たち、2月には子の有無は問わず、10名ほどの方々に集まってもらって3,4時間に渡りざっくばらんに意見交換を行いました。初めましての人も多い中で、安心して話せる場作りというのは意外と難しく、まずは最初にグラウンドルールを確認してスタートするようにしています。

2回やってみて、なかなか好評だったので、3ヶ月おきくらいに開催していく予定です。というのも、この2年映画業界に現れた様々な取り組みを内外で見ている中で、女性たちが気兼ねなく言いたいことを言える場が必要だなと感じたから。そして、「求められていること」は、もうほぼ出揃っていますね。

 ・長時間労働の是正/子育て可能な働き方
 ・セクハラ、パワハラ、マタハラ予防/起きた時の対策
 ・適正な賃金/定額働かせ放題✖️
 ・人手不足/人員に余裕がない
 ・契約書を結び、条件を明確化する
 ・キャリア、技能の尊重

1回目に子育て中の女性スタッフで話した時には、「現場に保育所を」求めているという声はほぼありませんでした。「保育所に預けられる労働時間を」求めているのです。そして子どもが熱を出したりしても、やりくりできる「余裕のある人員やスケジュール」を求めています。
赤ちゃんは大きくなり、小学生になり、中学生になります。保育所でカバーできるのは数年。母親のキャリアの断絶が起きないような、柔軟な働き方で映画制作の経験を積み重ね、自己実現したい、それだけです。男性がこれまで当たり前のようにやってきた、やっていること。
一般企業では労働力確保のため対策が行われている、当然のことですが、このことの大きなハードルに映画制作に関わる女性たちはぶち当たっています。

パートナーと育児担当を交代制にして交代で現場に出ている方、シッターさんをフル稼働して働き続ける方、現場には出られずバックオフィスの仕事に移る方、早朝深夜保育に対応してくれる長時間保育が可能な園の地域に引っ越す方など、様々な立場で、様々な思いを意見交換で聞かせてもらいました。

また、スタッフとしてキャリアを積んだ先で、女性がメインスタッフとして起用されにくいことも問題です。”男性たち”がスタッフィング権を握っている時点で、そもそも女性の可能性が著しく閉ざされてしまうことを、肌身で感じています。

映適設立から1年…

映画制作での自分の夢や希望を叶えたい、自分の好きな楽しい仕事を続けたい。そうした声を聞いて、前述の「求められていること」がどうして解消しないのかを、ずっと考えています。「映適」がその一助となるのかなと期待していますが、設立から1年、2024年3月現在、どうやらそんなにすぐには変わらないようです。

・映連加盟の大手製作の作品でも、映適申請しない作品がある。
・申請作品でも、事前の契約書・発注書提示がない。
・映適へのホットラインがスタッフに周知されていない。
・ガイドラインに沿った時間が守られていない。

最近聞いた色々…

これらのことを知った時はがっかりを通り越して、呆れてしまいました。
まあ、映適申請したからといっても、映適ガイドラインに定められている労働時間では、保育所に預けられる時間では到底ないわけですが…。撮影に入ってしまったら、母親どころか父親だって、子どもと遊ぶ時間も取れないようなスケジュールです。

映適ガイドラインから算出した労働時間(毎日の準備と片付けは2hの”みなし”)

黒船なんて言われた配信作品たちもすっかり日本スタイルにローカライズされてしまって、長時間撮影も6日連続撮影も当たり前。しかも撮影は半年続くこともザラ。若いスタッフも疲弊してしまっています。

なぜこんなことになっているのか。

映画撮りすぎ問題

2023年 (令和5年) 全国映画概況http://www.eiren.org/toukei/img/eiren_kosyu/data_2023.pdf によると、2023年の邦画の公開本数は676本(アニメーション・ドキュメンタリー含む)です。
このうち実写作品は500本弱として、ここにNetflix、Disney+、Amazon Prime、Huluその他プラットフォームの大型作品、地上波・深夜ドラマ作品、コンテンツ動画なども加えると、膨大な作品数…。この量が作り続けられていることがそもそも、不思議でなりませんね。それに、あまりにも多くの作品が公開されるため、全然追いきれない…。

慢性的な人手不足に、この2年くらいで拍車がかかり、先日は仕事で「足がついてりゃ誰でもいい」という言葉を耳にしました。そんな状況で生み出す作品のクオリティについては言わずもがな。

『SHOGUN 将軍』が海外製作であったり、『忍びの家 House of Ninjas』が日本の監督メインでは撮られなかったこと、『PERFECT DAYS』の制作母体がCMプロダクションで映画のスタッフがあまり入っていないことなども、この状況を照射しているように思います(しょんぼり)。

しかしこのガリガリに痩せ細った状況でも映画を撮る。
意地でも撮る。なんでか撮る。なぜなら、俺らが撮りたいから…。

そう、大将でいたいから…。

先日、国立映画アーカイブの特集「日本の女性映画人(2)――1970-1980年代」にて、『映画をつくる女性たち』熊谷博子監督(2004)を観ました。女性監督の進出が始まった頃、女性監督たちが直面する様々な困難は、今も変わりません。その中で自分の作品を生み出すために、言葉を尽くし、奔走する先人たちの姿が感動的でした。

そして、昨年末出版された北村匡平氏、児玉美月氏共著の「彼女たちのまなざし」を読んだ後、意見交換会を共にしている友人とこんなことを話していました。

なぜ、女性たちはこうした”エッセンシャルな”作品を生み出し続けているのに、大半の男性たちは”ただ作られた映画”をこんなにたくさん生み出してしまうのだろうね、と…。ビジネスとして、商品としての映像作品を量産しないといけないとしても、あんまりだねと。

それは「映画を作りたい」のではなく「監督(プロデューサー)でいたい」という人がいるからなのだろうと、ずっと感じています。専門の職人としてでも、作家としてでもなく、「監督(プロデューサー)でいたい」ということ。それは、日本の映画制作の形が、徒弟/上下関係で構成されたピラミッド型であることとも関係があるかもしれません。一度お山の大将(組長)になったら、山を降りたくない。
そして、案外誰でも組長になれる。

日本では、欧米や中国のように映画を専門的に学んだエリートでなくても映画監督・映像の演出家やプロデューサーになれます。撮ったもん勝ち。そうして組長になれたら、そうあり続けるために、作品を作り続ける。この2年、性加害で逮捕されたり、問題が懸念されたりしている監督・プロデューサーの多作ぶり(そして、どうやって大将になったか)を…思い浮かべてみてください。

ワーワー言おうぜ

映像作品の増加で女性監督の活躍の場も広がっていると感じます。でも、こうした組長たちがあまりにもたくさんいて、予算の大きい枠をぐるぐる回している。その状況は簡単には変わらないのだろうとも思います。そして、そういったボーイズクラブで転がしている作品に、もはや魅力を感じないという女性監督の声も聞きます。

きっとこれから、そんな窮屈なところから飛び出していく女性たちもどんどん
増えていくと思いますが、今目の前の状況を変えていくために、声を上げられる場を作りたいなと思って意見交換会を始めました。

前回は、ポストイットトークをやってみました。実現可能かは置いておいて、”こうなったらいいな”ということをとにかく書いてみようと。改善点やポジティブな願望も、口に出さなければ向こうからはやってきませんし、そもそもそうした思いを表出することすら躊躇してきた気がします。あるいは、押さえ込まれてきたようにも思います。

ポストイットトークの一部

ワーワー言って、うるせえなって思われるかもしれないけど、ワーワー言わなきゃ変わらない。このままじゃ嫌だと思ったなら、言うしかないなと。私がこうした気持ちになったのも、パワフルで魅力的で、最高にかっこいい女性スタッフたちが周りにたくさん居て、その活躍をこれからもスクリーンで観たいと思ったからです。

まだまだぼちぼちサークル感覚ではあるのですが、意見交換会参加に興味がある方は、eigatotowomen@gmail.comまでご連絡ください。様々な立場の女性の声を聞いていきたいと思っています。


前回のコラムはこちら↓

映適についてワーワー言っているコラムはこちら↓





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