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「日本映画制作適正化機構」を知る【その1・成り立ち】

2023年4月に、”映画制作現場の環境改善”に取り組むとして「日本映画制作適正化機構」略して「映適」の設立が発表されました。映画に関わるすべての人が安心して働ける未来を目指し、ガイドラインを策定し審査機能を有するといいますが、実際に映画の現場で働いている人たちには2023年秋現在、あまり浸透していない様子…。
私は、2021年末からこの「映適」の取り組みをウォッチしてきたものですから、ちょっと深掘りして、いいところや問題点をわかりやすくまとめてみたいと思います。
2024/04/05追記:映適HPにも「FAQよくある質問」がUPされました。補足としてぜひお読み下さい。 https://eiteki.org/contact_us/#faq

画期的な三者協約

「映適」の成立した詳しい経緯は、経産省発表(R5年6月)のこちらの資料に詳しいです。2年以上にわたる成立までのプロセス、どのような話し合いがなされたのかを知ることができます。非常に長いのでここでは経緯を端折りますが、今後折りに触れていきます。

この「映適」は
・"映連" 一般社団法人 日本映画製作者連盟
・”日映協” 
協同組合 日本映画製作者協会
・”映職連”  
日本映像職能連合
「三者協約」によって成り立っています。

この三者が、日本映画の制作環境改善に取り組もうと同じテーブルについたこと自体が画期的だ、すごい、と2023年3月29日の「日本映画制作適正化認定制度に関する協約調印式」にて壇上に立つ方々が折りに触れ口にするのですが、何がすごいのか、詳しくない人にはサッパリわかりません。

そこで、ちょっとよく見ていきます。

こちらは協約調印式の模様(映適HPより)
ちなみに、25人中女性は2人です。


"映連" 一般社団法人 日本映画製作者連盟とは

東宝・東映・松竹・KADOKAWAの大手4社による「映画製作事業の健全なる発展を目的」とした団体。米アカデミー賞に出す日本作品の選考や脚本賞の城戸賞をやったり、業界団体として各省庁への働きかけなんかしているみたいです。

役員はこちらの皆さん。

HPより。全員男性ですね。

日本映画界にはこうした業界団体が色々あるので、おまけで紹介させてください。


一般社団法人・映画産業団体連合会(映団連)
映画文化、映画芸術及び 映画産業の発展を図るための社団法人、日本の大手映画関連会社36企業により構成。
なるほど「映画の日」とか、映画の振興的なことをやっているんですね。

映団連HPより。2022年12月1日。
『ドライブ・マイ・カー』が表彰されたようです。
両脇の若い女性お二人は、松竹の俳優さんでしょうか。

で、役員がこちら。

HPより。全員男性ですね。

あれ…
だいぶ役員が映連と被っていますね。あっ、事務局長も同じ人なんですね。住所も同じだ。

それからユニジャパン。映画祭開催や、映画の海外展開支援をしているところ。

女性が一人。ここは東宝の松岡さんがトップなのか〜。へ〜。


続いてVIPO(特定活動非営利法人・映像産業振興機構)エンタメコンテンツ関連の国の委託事業なんかを一手に引き受けています。映画だけでなく、いろんな企業や大学のエライ人が理事に入っていますね。ここは松竹迫本さんが名誉理事。東宝島谷さんが幹事理事。どこも映連4社から役員が入っています。

高津装飾の社長さんが入っているのが現場の人には
興味がひかれるところ。女性は二人です。

ちょっと「映適」から脱線してしまいましたが、機能や成り立ちは違うものの、この映連4社というのが映画業界の様々な団体において影響力があるというのがよくわかるかと思います。あと男ばっかり。

もちろん、理事職なので影響力を単純に判断できませんが、映画業界の動向に影響を及ぼす団体がどんなことをするか決めていくのはこの方々なわけです。聞くところによると、業務を担うところにも、理事に人が入っている会社より社員が出向してくるのだとか。私の友人でも「VIPOに出向して一年間全然分野の違う仕事してるよ〜」という人がいました。

他にも全興連外国映画輸入配給協会映画演劇文化協会などの団体がありますが割愛します。色々見てみると面白いです。


”日映協” 協同組合 日本映画製作者協会とは

ここは、いわゆる「制作プロダクション」の協会です。最近、会長がスターティングメンバーの一人である新藤次郎さんから、オフィス・シロウズの押田さんに代替わりし、理事も刷新されました。
色々な制作プロダクションの社長が理事を務めています。映画の仕事をしている人なら、前に仕事したことあるな〜という名前がHPの加盟会社一覧には並んでます。

そうですね、全員男性です。

日本映画の歴史を超ざっくり見てみると、撮影所システム崩壊後、1970年代から映画業界は独立プロや他業種参入で戦国時代状態になりたくさんの制作プロダクションが生まれたんですね。

この日映協は、独立プロでもドカンとお金が集められたり、メディアミックスで次々に映画が大ヒットしたバブル時代が終わり、制作プロダクションが各社の下請けとして機能することが常態化した1995年に生まれています。小さい制作プロダクション同士手を取り合って、まとまろうという事ですね。

具体的には、映画製作期間中の傷害保険の共同加入などの共済保険制度が利用できたり、制作に関わる法制度の変化に対応するべくワーキンググループを動かしたりと、活発に活動されています。

つまり、商流としては「映連」の下請けにあたる会社の集まりということになります。基本的には頼まれようが持ち込もうが、一つの企画(案件)について出資側から「この予算内でこれを制作してね」と言われ、それを作る立場なわけです。


”映職連”   日本映像職能連合とは

それから、もう一者が映職連です。こちらは、
協同組合 日本映画監督協会 (理事長 本木克英)
協同組合 日本映画撮影監督協会 (理事長 浜田毅)
協同組合 日本映画·テレビ照明協会 (会長 望月英樹)
協同組合 日本映画·テレビ録音協会 (理事長 志満順一)
協同組合 日本映画·テレビ美術監督協会 (理事長 竹内公一)
協同組合 日本映画·テレビ編集協会 (理事長 只野信也)
協同組合 日本映画·テレビスクリプター協会 (理事長 山内薫)    
協同組合 日本シナリオ作家協会 (理事長 佐伯俊道)

という映画の各職能別の協同組合、8団体の集まりで任意団体です。
普段はそれぞれの協会での活動をしていますが、時々「確定申告の勉強会」「著作権の勉強会」などをやっていました。その他詳しくはHPを。

ここは、制作プロダクションが実際に映画制作をするにあたって現場で実際に走り回って働いている主にフリーランスの現場スタッフが入る協会です。「協同組合」となっているんですが、一般的なイメージの「労働組合」ではなく、賃上げの団体交渉やストを主導するところではありませんが、権利関係の交渉などは行なっている団体もあります。
あくまでも助け合うための協会として、各協会では機関誌の発行や交流会、勉強会等を行なっています。

ただこの映職連加盟団体の存在について、現場では知らない人もかなり多いです。助手が入れる団体もありますが、基本的にはある程度キャリアを積んでメインスタッフになった人が、任意で入るところです。

任意なので…
例えば監督協会。会員をこちらのリンクからすべてみることができますが、「知ってる映画監督すっくな……」という状態です。若手の映画監督はほとんどいません。女性監督も全然入っていない。
どの協会も月会費3500円程度と高額ですし、入るメリットがないと思った人は入っていないんですね(ちなみに監督協会とシナリオ作家協会員は、文芸美術国民健康保険に入れて、健康保険料がメチャメチャに安くなるということをコッソリお知らせします)。

そして、この8団体では、助監督、制作部、衣裳、メイク、装飾小道具、APなどなど、映画制作の大事な部門がいくつも抜け落ちているという状態です。

スタッフや職能団体のジェンダーギャップなどの諸問題は下記にまとまっていますので、ぜひどうぞ。

そう、この映職連の立場は、映連からすると孫受けの受注者にあたるというわけです。トヨタ自動車・デンソー・町工場みたいな感じでしょうか、規模が全然違うけど。。。

画期的?な三者協約

さて、この「映適」をやろうということになるまで、この3団体は親しく話し合うというような関係ではなかったわけです。当然ですね、仕事上の利害がある間柄ですし、大手映画会社が持っている力(金)が圧倒的に強い。

しかし、劣悪な労働環境による若手の離職と、配信系での爆発的案件増加で、深刻な人手不足に陥っている映画業界をなんとかしなくてはいけないということで、経産省が介入しつつこの三者が話し合いを二年以上(二年…)続け、「映適」ができたというわけです。
きっと、これまでプロダクションもフリーランスも自分たちのことで手一杯、必死でやってきて、まとまって映連に意見を伝える機会もなく、映連も下請けにお任せで映画を作っていたけれど、労働環境について何かやらないといけない社会の雰囲気になったんですね。

三者のご挨拶はこちらから読めます。

大変でしたね。
これが画期的かどうかは、映画を観る人にとってはどうでもいいことではありますが…。

ーーー
この、三者の間にある力関係というものを、無視して「映適」というものを語ることはできません。同じテーブルについたとしても、絶対に対等ではないからです。そして、現在の「映適」事務局は映連4社からの出向社員によって運営されています。住所も映連と同じ。えっ。

こうしたことを踏まえて、これから「映適」が持つ機能・ガイドラインについてわかりやすく解説しつつ、深掘りしていこうと思います。よかったらどうぞお付き合いください。

映適HPより。女性は…

続く…↓


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