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毎月一本、オリジナルの短編小説を発表しています。 日常に彩りを加えられる様な作品を志しています。 それと「えいがひとつまみ」というブログも運営しています。 ちょっと変わった映画考察が読めるブログです。是非ご覧下さい! https://eigahitotsumami.com

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短編小説【やがて滅びる国の民へ】後編

      16   トキの耳に届くのは馬の荒い息遣いと、木の車輪が土を削る音だけだった。どれだけの時間が過ぎたのか見当も付かなかった。 後手に縄で縛られ目隠しもされていた。 それでも隣にミミが眠っているのが分る。 その小さな背中の上下の動きだけが、トキの心を何とか落ち着かせていた。頬に微かな風を感じる。目元の布を越す明かりが段々と薄れ、 日が暮れてきているのだろうとトキは思った。 双子の娘2人と役人住居の簡素な部屋で昼食を取っている時だった。 広場の方から大きな爆発音が聞こ

    • 短篇小説【やがて滅びる国の民へ】中編

              10   ヨギがその男に差し出せるものは白い封筒の手紙以外に無かった。 護身用の短刀も旅籠に置いてきていた。 夜明けの森の中で、今ヨギは「赤目」と向かい合っている。 その男は見た所20代後半位で長い髪を後で束ねていた。 目の周りは赤く隈取られ、鼻から下は白い布で覆われていた。 背は然程高く無かったが、がっしりとした体躯は一見して鍛え上げられた人間である事が分かる。 何故ここにいるのか、その理由を明かすのが一番安全であろうとヨギは考えた。 「この手紙は私の弟のテ

      • 短篇小説【やがて滅びる国の民へ】前編

                1   その列車は、国境の町まで463人の若い兵士達を乗せて干ばつ地帯を東に向かっていた。 この季節の砂漠には何の前触れも無く砂嵐が起こる事がある。 ついこの前も、ヨギは砂嵐の為に列車の中に2時間も閉じ込められたばかりだった。 代わり映えのしない景色を窓からずっと眺めていると、 今にもまた空まで覆う砂嵐が襲ってくるのでは無いかと、 ヨギは内心ひやひやしていた。 4人掛けの座席の斜向かいには盲の老人が杖を持って座っていた。 列車の揺れに時折躰を捩っていたが、 始

        • 短編小説【遠い町と転調する虹】後編

                  6   昨夜遅くまで降っていた雨が上がり、雲間からは陽が差し込んでいた。 町の環状道路から東の方角に大きな虹が見えた。 ディズニーランドへ行く予定がまた長野の祖父の家へ変更になった事で、 朝からふてくされていた翔の3つ年下の妹・茅もその虹を見て機嫌を直していた。 翔の父親の隆が運転するフォレスターの後部座席の窓から、 俺と翔もその大きな虹を眺めていた。 「今日の徹君の試合第2試合だよな、そろそろ球場に入った頃かな。要、テレビで応援しなくていいのか?」 ハンドル

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        短編小説【やがて滅びる国の民へ】後編

          短編小説【遠い町と転調する虹】前編

                             1 ダイニングテーブルに突っ伏す形で、いつの間にか眠ってしまっていた。 遠くで電話が鳴っている様な気がして目を覚ました。 ばあちゃんの話し声が聞こえる。 着ていたTシャツの背中が汗で濡れていて気持ちが悪い。 頭が酷くボンヤリとしていて、自分がどこにいるのかも よく分からなかった。聞こえるのはばあちゃんの電話している声と、 シンクにボタボタと垂れる水滴の音だけだった。 体が鉛の様に重たく感じて、指を一本動かすのにも苦労した。 勝手口の明り

          短編小説【遠い町と転調する虹】前編

          短編小説【黄昏時に、面を打つ】

                                         1   「休みの日とかは何してんの?」 その日、職場の先輩に聞かれて答えに窮してしまった。 まさか面を打ってるとは言えない。 多分相手はリアクションに困ってしまうだろう。 「映画とか観たりしています」 だから咄嗟に答えたが、それは満更嘘でも無い。 私の住む町には今時珍しい名画座が細々と生き永らえていて、 2週間毎に「アラビアのロレンス」とか「ベン・ハー」なんかを掛けたりしている。私は先週の休みには「雨に唄えば」を朝

          短編小説【黄昏時に、面を打つ】

          短編小説【あいつの空似】

                            1 またあいつの空似を見た。今年すでに3人目だ。いくら何でも多過ぎる。 カウンターで瓶ビールなんか飲んでやがる。 私に何か言いたい事があるのなら、直接おまえが来いと思った。 じっとその横顔を睨んでいたら、視線に気が付いたその空似は気まずそうに背中を丸めた。それを見てまた訳も無く腹を立ててしまう。 その空似にしてみれば本当にとばっちりだったろう。 少し気の毒になって店を出た。 2月の北風が頬を刺し、コートの襟を立てて足早に駅へと向かう。 あ

          短編小説【あいつの空似】

          短編小説【やわらかい月】後編

                            9   夜中に目が醒めて、そこが病院では無く自宅の寝室である事に気が付くと 美咲は何故か落ち着かない気持ちになってしまった。 手術が無事に終わって経過も順調という事で、 一昨日退院して新小岩のマンションに戻って来た。 巧の運転するアウディA3で自宅に着いた時、 美咲は何年も留守にしていた我が家にやっと帰ってきた様な気がした。 実際は2週間の入院だったのだが、 何かが以前と変わってしまった様に感じたのだ。 冷蔵庫のカステラには見事にカビが生え

          短編小説【やわらかい月】後編

          短編小説【やわらかい月】前編

                            1   先ず始めに目を疑った。次に何かのドッキリかと思った。 直ぐに思い直して何が起きているのかを必死に考えた。 初台にある小さなギャラリーで偶然目に止まった1枚の絵を前にして、 三崎巧は立ち尽くしてしまった。 以前一緒に仕事をした事のある装丁家の企画展の為に午前中からそのギャラリーを訪れていて、ふと隣の展示室で名前も知らない画家の展示をしているのが気になって覗いてみたのだった。 いくつかの風景画の前を特に気に留めるでもなく通り過ぎた。 他

          短編小説【やわらかい月】前編

          短編小説【風に針を落とす】

                    1    山が燃えていると聞いて、居ても立っても居られず家を出た。 ばあちゃんのママチャリで必死に漕ぎ出す。 去年から密かに吸っているハイライトのせいか、 直ぐに息が上がってしまう。19歳の夏。 これ以上大切な物を無下に失う訳にはいかない。 山が燃えているのなら、 それを撮っておかなければ俺は生きている意味が無い。 ああ、大学になんか落ちるんじゃなかった。 俺はこんなにも若さを無駄使いしている。 誰に咎められている訳でもないが、明らかに去年より歳を取った身

          短編小説【風に針を落とす】

          短編小説【つまさき】

                                   1   【つまさきが光に触れる。そこはあなたのゆくさき。 わたしのゆびさきはドアノブに掛けられたまま。ドアは開かれない】 母の恐らく人生最後であったろう、 その言葉はスーパーのチラシの裏に頼りない筆跡で書かれていた。 牛肉100グラム230円。レタス1玉160円。卵1パック120円。 その日の安売り目玉商品が透けて見える。 何かの引用だろうか。 あまり本を読む人ではなかったはずだ。 それとも詩を書くような趣味があったのだろうか

          短編小説【つまさき】

          小説書きます。

          noteで始める創作 皆様はじめまして。ころっぷと申します。 まずは、noteで何をしたいのかと言いますと、 小説を発表したいのです。 2022年の4月から「えいがひとつまみ」というブログを 書いているのですが、 それとは別に自由な創作をしたいという想いを持つようになりました。 ブログでは映画の考察記事を書いています。 映画の一つの見方を提案出来ればと思い、 感想・レビューとはちょっと違った独自の見解を書いています。 基本的に読む人の為になる様な記事を心掛けているつもりです

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