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(9)5歳頃からの積読本が「本読む子」への最短ルートでした~10年前に出会ったママさんへ~

 
 お手紙、つづきです。

「家にある本で、デジタル漬けになる前に『読む』習慣を」


・・・というお話をしています。
 
  
・お手紙(8)はこちらからどうぞ。
(8)5歳頃からの積読本が「本読む子」への最短ルートでした~10年前に出会ったママさんへ~|涼原永美 (note.com)
 

 今日は、

「探偵ミルキー杉山との出会いがもたらしてくれたもの」

というお話です。

 さて、シオリさん。
私は長女が5~6歳の時、好きな児童書を見つける目的で一緒に図書館通いをしていました。

 10冊借りて、2週間かけゆっくり読んで、返却前に子どもにインタビュー&ランキングをつけてもらう・・・を何度か繰り返したのですが、その時に

 ――あ、これが図書館通いで見つけたこの子のベストワン! と燦然と輝いた本があったのです。

 それが、「ミルキー杉山のあなたも名探偵」シリーズ。
 「もしかしたら名探偵」「てんやわんや名探偵」「あしたからは名探偵」(作・杉山亮/絵・中川大輔/偕成社)・・・などのシリーズ本です。


「てんやわんや名探偵」「あしたからは名探偵」(作・杉山亮/絵・中川大輔/偕成社)


 そしてこのシリーズとの出会いが、長女の「絵本からの卒業」を決定的にしてくれたのです。

 
 今でも、ずっと感謝しています!
 まさしく我が家の「ありがとう本」。

 

 絵本からの卒業を決定的に・・・と言っても、この本、小難しい内容ではまったくありません。
 むしろ、大人も子どももワクワクしながら楽しく読める本。
 

 だから決して、難しい内容を読めるようになった・・・という話ではないのです。
 
 ーーが、この本は私が「絵本からの卒業」に必要だと思うすべての条件を満たしてくれていました

 ・・・どういうことか、具体的にお話しますね。
 
 箇条書きにしてみると、こうなります。
 
(1)   すべてのページに楽しい挿絵があり、文字と絵のバランスは半々(ページによっては絵が2/3を占めている)。だから子どもが第一印象で「おもしろそう!」と手に取れる
 

(2)   字の大きさ、行間のゆったり感が絶妙で、文章を読むより「見る」感覚。で、ありながらも、白地に黒い字、縦書きという小説の基本仕様に自然となじむことができる(カラーページもあります)。
 
 
(3)   子ども本人は「絵本」という認識でスラスラ読める(少なくとも我が家の長女は絵本だと思って読んでいました)。
 

(4)――なのに、絵本ではない! その決定的な違いは、絵も楽しみながら、文章をしっかり「読む」ことが前提の内容ということ。
 
 
 ミルキー杉山という探偵が大活躍するこの話は、1992年に第1作「もしかしたら名探偵」がスタートしてから、2023年8月現在、25作も刊行されている大人気シリーズなんです。
 
 正式なシリーズ名は「ミルキー杉山のあなたも名探偵」
  

 6年前、私が長女を連れて図書館通いを始めた時は、恥ずかしながらこのシリーズのことは知りませんでした。
 
 ですが、児童書コーナーを眺めているうちに、背表紙のタイトルにビビビッとひらめきを感じ、思わず手に取ったのです。

 その時並んでいたのは「あしたからは名探偵」「どんなときも名探偵」「てんやわんや名探偵」・・・の3冊だったと思います(区民センターの小さな図書室だったので)。
 
 長女が謎解きやクイズ好き・・・というのもあったのですが、ほとんどが私の直観。手に取り、数ページめくっているうちに、いつの間にか私が夢中になっていました。
 
 この本、1冊に3つほどの事件が収録されているのですが、それぞれが「事件編」「解答編」に分かれています
 
 どれもミルキー杉山が住む街を中心に巻き起こるユーモアたっぷりの事件なのですが、事件編にちりばめられたヒントをしっかり頭に入れないと、解決することができません。犯人をあてたり、消えたものを探したり、ふしぎな事件の真相を考えてみたり・・・。
 
 「ぜんぜん、わからないな~」と観念して解答編をめくってみると、ミステリー好きなら「あれが伏線だったんだ!」と思わず感心してしまう丁寧な謎解きが待っていたり、意外な展開に唸って(笑って)しまったり

 「そうだったのか! では、もういちど事件編から・・・」と、必ずと言っていいほど読み返してしまいます。
 
 そんなわけで長女に「これ読んでみる?」と聞いたところ、「絵が可愛いし、おもしろそう!」という反応だったので借りてみたのでした。
 

 そうして親子ですっかり夢中になり、結局数カ月間の図書館通いで長女がいちばん気に入った本がこれでした
 何度インタビュー&ランキングを繰り返しても、これが上位にくるのです。

 
 謎解き特有の「最初から読み返したくなってしまう」構造も、長女が文章を読むことに慣れるポイントのひとつだったと思います。
 

 ――読み返して、理解して、自分で納得する

 これは人から与えられるものではありませんし、親が無理に与えようと思っても難しい。

 子どもが自分で得る喜びなのだと思います。
 
 
 「ミルキー杉山のあなたも名探偵」シリーズ、対象年齢としては「小学校中学年から」とあるのですが、ほぼすべての漢字に読み仮名がついていますし、内容に興味を持つことができれば年長さんでも、1年生でも楽しく読めると思います。
 
 そしてまた、何冊も刊行されているシリーズものという点もワクワク感が持続できた理由のひとつ
 読んでも読んでも「まだ読んでいないものがある!」と思えることはファンにとっては喜びですし、「またミルキー杉山に会える」・・・夢中になっている時の長女はそんな気持ちだったのでしょう。
 

 そうしているうちに長女は、「文章を読んでワクワクする」という時間を積み重ねていきました。
 
 本人は、「勉強している」とか、「能力を向上させている」という実感はないまま「読む」習慣を身に付けていたのです。
 

 そして子どもが「読む」習慣を身に付けると、今度は
「もう少し字が小さくて、文章の長い本」に移行していっても、
内容さえおもしろければ子どもはすんなりと受け入れることができる
んです。

 ただしこの時期の本選びは、無理をせずに挿絵が多い(何ページかでもある)ものがいいかなと思います。


 数枚でも挿絵があると、子どもはそのイメ―ジを頼りに想像力を膨らませながら文章を読むことができますし、それを繰り返すうちに、挿絵がほんの数枚でも大丈夫になっていきます。
 

 そうして我が家は、「ミルキー杉山のあなたも名探偵」シリーズを、大きな図書館から取り寄せたり、買ったりしながら手に入るすべての刊を読み切った後、次のシリーズ本へと移行していきました。
 
 これを繰り返すうちに、長女はどんどん長い文章が読めるようになっていったのです。
 
 子どもの可能性って、素晴らしいものです。
 
 そしてその可能性を引き出す「本」が、私は大好きです。
 


 補足になりますが、このシリーズの素晴らしいところをさらに付け加えるなら、「文章と絵」のパワーバランスの絶妙さだと思います。
 

 当たり前ですが、絵本はどうしても絵がメイン。
 小説や、対象学年が上がった児童書は文章がメイン。――するとこの間で子どもは揺れ動き、本がわりと好きな子どもでも文章メインの本へスムーズに移行できない場合があると思うんです。
 
 というか、絵本を卒業していきなり「文字ばかり」の本を読ませようとすると、難しそう! と思って敬遠されてしまいます。
 
 ところがこのシリーズは、しつこいようですが、最初は絵本だと思って読んでしまう(?)のです。ところが、文章をしっかり読まないと、おおしろさがわかりません。だから、しっかり読みます。すると、「おもしろかった!」「そうだったのか」という感想が得られます
 
 
 
 現在小学6年生になった長女は、今では大人と同じ小説を読むようになり、ミルキー杉山と事件を追いかけていたころの自分を思い出せるか出せないか・・・くらいにまでなってしまいましたが、私にとってこのシリーズは、今でも宝物です。
 
 
 ――さて、シオリさん。
 
 これはあくまで我が家の例。

 子どもの好みはそれぞれなので、興味に合わせて「これなら読める!」という文字の大きの、挿絵もいっぱいの、楽しい物語をさがしてみてくださいね。
 きっとたくさん、ありますよ!
 

 そして、子どもが自分自身で「読むおもしろさ」を実感すると、「人に読んでもらう」ことから卒業します。――読み聞かせ、お膝からの卒業です。
 

 ゲームや動画視聴に夢中になって「読み聞かせから卒業」し、
読書というものの位置づけが家庭で曖昧になってしまうのではなく、
「本は自分で読んで楽しいもの」という実感を子ども自身が持つことで卒業してもらうのが、親子共にいちばんいいこと
だと思います。
 

 ーーさてこの後、小学1年生から2年生へと成長していった長女の「読むスイッチ」を切らさないように私がいろいろ悩んで選んだのは「謎野真実」という科学探偵シリーズでした。
 
 そうして「ミルキー杉山のあなたも名探偵」シリーズや、「科学探偵 謎野真実」シリーズが我が家に登場し、これらが徐々に、次女にとっての積読本になっていくのでした・・・。
 

  お手紙、つづきます。
 
 
〈本読んで雨の日過ごせる君はもう世界を手にした7歳の夏〉



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