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【読書感想文】石原あえか『科学する詩人ゲーテ』

2010年度のサントリー学芸賞受賞作品で、私が師匠とを仰ぐ先生の出世作である。今は東大の先生をしていらっしゃるが、まだ慶応にいらっしゃったころの作品である。一言。文献学の泰斗でいらっしゃる。調べたことばかりというあらずもがなの不満もあるが、等身大のゲーテの姿が、当時のあらゆる社会状況をくまなく執拗に調べ上げることで、自然といきいきと浮かび上がってくる構図になっている。こんないかめしくもなく、オリュンポスの神として祭り上げられているのでもない、身近なゲーテは初めてだ。私自身は、エコの意識が高すぎて、反自然科学にまでなりかけた、若気の至りによる『色彩論』の研究であったが、石原先生は、淡々と当時の自然科学とゲーテとの距離を推し量られている。もちろん、文学研究も怠らない。美学的にはものたらないが、なかば科学史の視点も交えた実証的な研究としては、大変意義ある成果であろう。今後の先生のご研究の成果をなお期待したい。

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