水野蛍

文学少女の成れの果て。絵本と刺し子を愛する一児の母。絵本評論のうちの絵本箱という連載を…

水野蛍

文学少女の成れの果て。絵本と刺し子を愛する一児の母。絵本評論のうちの絵本箱という連載を書籍化するのが夢で、絵本のエッセイという分野の開拓を試みています。ちなみに、今年の秋中に本名で鳥影社から出版予定です。乞うご期待!

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【絵本エッセイ】うちの絵本箱#2『「スイミー」の魅力』【絵本くんたちとの一期一会:絵本を真面目に読む大人による絵本本格評論】

第二回 レオ・レオニ作、谷川俊太郎訳『スイミー』の魅力 0.はじめに 第一回を書き終えたと思ったら、もう第二回となりました。おかげさまで、第一回はそれなりに充実した内容に仕上がり、皆様にも喜んでいただけたのではないかと、安堵しております。さて、引き続き第二回では、レオ・レオニ作、谷川俊太郎訳『スイミー』を取り上げます。個人的な話になりますが、『スイミー』は、私の母がとても大切にしていた絵本で、確か私の妹が小さいころに母が買いました。私自身は、『スイミー』とは、小学校の教科書

    • 【読書感想文】宮崎尊『モリモリ受験勉強の集中講義』草思社

      夫がそろえている、夫の高校から浪人時代の英語の師、宮崎尊先生の著書の一つである。初版は1990年。もはや30年余を経ているわけだが、今読んでも遜色はない。確かに、お勧めの問題集・参考書の部分は、時代とともに古くなっているのかもしれないが、受験生の心の持ち方、道具の選び方、スケジュール管理など、いつまでも古びない立派な書きぶりである。そして、読んでいて、読み物として圧倒的に読みやすく、面白い。しかも、受験生ならずとも、受験生の親にも勇気を与えてくれる書である。娘の大学受験までは

      • 【読書感想文】ヘーゲル『精神現象学』長谷川宏訳、作品社

        ドイツ観念論の大成者ヘーゲルの処女作『精神現象学』を長谷川宏訳で読んだ。はっきり言って、私には抽象的過ぎて、一語も理解できなかった。カントの『判断力批判』は、表現が難しくて理解できなかったが、この本は、逆に訳がこなれすぎて、頭に引っかからず、言葉がすべてスルーしてしまうので、記憶に残らないのである。目次と各章のタイトルを見て、次第に精神が高昇していく様が描かれているのはわかったが、外化という常識的な理解以外に、何も理解が深まらなかった。それでも、最後まで目を通せば、いつかは何

        • 【読書感想文】鳥嶋和彦『Dr.マシリト最強漫画術』

          夫が昨年のクリスマスにプレゼントしてくれた本だが、毎日一ページずつ読んで、やっと読み終えた。夫の意図としては、私が自費出版を考えているので、出版界の動向を抑えておいたほうがいいということで、買ってくれたそうだ。ただ、実際に読んでみると、出版界というよりは、漫画界、さらには週刊少年ジャンプについての本だった。あくまで、鳥嶋編集長の長年の業績と経験から、いかにして週刊少年ジャンプの漫画家になれるかというお話が中心だった。ただ、少女期がそのままドラゴンボールの時代で、電影少女もダイ

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        【絵本エッセイ】うちの絵本箱#2『「スイミー」の魅力』【絵本くんたちとの一期一会:絵本を真面目に読む大人による絵本本格評論】

          自費出版決定!「うちの絵本箱:絵本くんたちとの一期一会」

          ついに自費出版が決定しそうです。本当は商業出版したかったのですが、実力不足でした。ともあれ、どんな形であれ、本として形にしたいという、長年の夢がかないそうで、大変うれしいです。半年くらいで出来上がりそうですが、どうか応援のほどよろしくお願いいたします。

          自費出版決定!「うちの絵本箱:絵本くんたちとの一期一会」

          【読書感想文】宮崎尊『スイスイ英単語の集中講義』草思社

          英語の堪能な夫が、昔受験生の頃に読んで大変役立ったと、娘のために買ってきた本を私が借りて読んだ。前半は動詞、後半は名詞で、3000を超える単語が網羅されている。覚え方が合理的で、語源や豆知識と共に覚えるというものである。ほとんど知っている単語であったが、宮崎先生の思い出話と共に読んでいると、ぼんやりとアメリカ合衆国の文化というものが、カルチャーショックとともに浮かび上がってくるのである。単なる単語の本ではない。一種の文化論とも読めると思った。これを読めば、機械的に覚える受験テ

          【読書感想文】宮崎尊『スイスイ英単語の集中講義』草思社

          【読書感想文】國分功一郎『目的への抵抗』新潮新書

          東京大学の哲学の先生、國分功一郎の名著である。これも夫に勧められて読んだのだが、コロナ禍における政府による不要不急の外出の制限が、個人の自由の権利の阻害ではないかと警鐘を鳴らす本である。アガンベンという著名な哲学者を援用しつつ、移動の自由の制限が最大の自由の制限なのではないかと論じている。なぜなら、移動が自由にできなくなったら、奴隷状態と同じであるからである。逆に自由に移動できれば、奴隷状態にはならない。また、行政の権限が巨大で、立法府を凌駕しているとも警鐘を鳴らしている。学

          【読書感想文】國分功一郎『目的への抵抗』新潮新書

          【読書感想文】岡田暁生・片山杜秀著『ごまかさないクラシック音楽』新潮選書

          この本もまた、夫に勧められて読んだ。私は中学生までピアノと、高校生までバイオリンを習っていただけで、音楽とは対して深いかかわりを持ってこなかった人間である。あえていえば、社会人になってから、嵐に目覚め、最近では三浦大知にはまっているくらいか。それくらい音楽には疎い人間である。しかし、一般教養として、クラシック音楽については知っておきたかったということもあるし、今でもたまにぽろぽろと娘の習っている曲を弾いてみたりして、いつかまたピアノを習ってみたいと思うくらいの気持ちはあるのだ

          【読書感想文】岡田暁生・片山杜秀著『ごまかさないクラシック音楽』新潮選書

          【読書感想文】ゲーテ著木村直司訳『色彩論』ちくま学芸文庫

          潮出版社のゲーテ全集からの文庫版である。ゲーテの自然学に関わる論文のみを集めている。ゲーテはよく知られているように、詩人、政治家、であるとともに、自然学研究者であった。その自然学は、現代の自然科学とは異なり、錬金術や神学の流れとともに位置づけられるものであり、科学というより、むしろ自然哲学である。ただ、当時の最先端の自然科学の成果も影響しており、その形態学や骨学、色彩論の生理的色彩などの学説は、今でも評価できるものであるようである。ただ、一部だけを取り出して評価するのは、ゲー

          【読書感想文】ゲーテ著木村直司訳『色彩論』ちくま学芸文庫

          【読書感想文】永野裕之『大人のための「中学受験算数」』NHK出版新書

          夫が買ってきた新書を私が借りて読んだ。私はド文系で、算数は小学生の昔から大の苦手だったが、嫌いなわけではない。今でも、高校の数学の教科書を少しずつ読み進めたりしているほどだ。ただ、センスのなさは折り紙付き。本当に苦手である。そんな私にとっては、非常にハードルの高い読書であった。ただ、まったく自力では解けない私も、解説を読めば何とかわかるので、中学入試の難問を理解できた爽快感は何とも言えないものがあった。娘には中高一貫校を受験させる予定で、私が教えているのだが、ふだん算数は〇付

          【読書感想文】永野裕之『大人のための「中学受験算数」』NHK出版新書

          【読書感想文】今井むつみ、秋田喜美著『言語の本質』中公新書

          去年の5月に出た、中公新書の一冊である。元大学の言語学の教員であった義母に薦められて読んだ。オノマトペという言葉をキーワードにして、言語の本質に迫る名著である。言語が身体に接地している立場で、人類のアブダクション理論という能力が言語の獲得と学習に大いに役立っていると位置付けている。赤ん坊とチンパンジーの比較実験の話などは大変面白い。それなりに難しいが、書き方が明解なので、まったくついていけないこともない。 「人は文なり」ともいうが、言語(ロゴス)とは人間の定義そのものともいえ

          【読書感想文】今井むつみ、秋田喜美著『言語の本質』中公新書

          【読書感想文】荒木俊馬『復刻版 大宇宙の旅』

          かの松本零士が幼いころに大感激したという彼のバイブル的書物。松本零士に私淑する理系研究者の夫が、9歳になる娘のために買ってきたのが我が家の本棚への登場の由来。もっぱら絵ばかり描いて、本もあまり読まない娘は全然読まないので、もったいないと、代わりに母親が手に取った。はっきり言って、難しかった。平易な言葉で描かれているが、当時の最先端の天文学の内容が網羅されている。文系である私にはかなりきつい。ただ、主人公である星野宙一少年と共に、スキエンシヤとファンタジヤの力でメルヘンランドか

          【読書感想文】荒木俊馬『復刻版 大宇宙の旅』

          【読書感想文】「生物としての静物」開高健

          1984年集英社刊である。夫の中学時代の愛読書で、前々から彼に勧められていたが、ずっと放置していたのを、先日ふときまぐれに手に取ってみたら、面白くて、最後まで読んでしまった。内容は、道具に関するもので、ライターから始まって、万年筆、アーミーナイフ、釣り道具など、開高健の人生の相棒と言える品々ばかりである。語り口は、非常にざっくばらんとしてラフで、戦後の窮乏とベトナム戦争従軍と釣りの話ばかりである。だが、そこに表れた飾らない人柄が、大変魅力的である。私の母などは、物は壊れるもの

          【読書感想文】「生物としての静物」開高健

          【絵本エッセイ】うちの絵本箱#12「絵が走る勇気をくれる乗り物絵本~渡辺茂男作、山本忠敬画『しょうぼうじどうしゃじぷた』~【絵本くんたちとの一期一会:絵本を真剣に読む大人による絵本本格評論】

          特集:絵が走る勇気をくれる乗り物絵本~渡辺茂男作、山本忠敬画『しょうぼうじどうしゃじぷた』~ 0.はじめに とうとう第十二号となりました。だんだん我が家に眠っているネタも尽きてきましたが、いけるところまで行きたいと思っています。応援どうかよろしくお願いいたします。  今回の『しょうぼうじどうしゃじぷた』は、どこでどのように記憶したのかわからないのですが、私の脳裏にタイトルそのものが強く刻みつけられていた作品でした。詳しい話は忘れていましたが、傑作ということだけ憶えていて、

          【絵本エッセイ】うちの絵本箱#12「絵が走る勇気をくれる乗り物絵本~渡辺茂男作、山本忠敬画『しょうぼうじどうしゃじぷた』~【絵本くんたちとの一期一会:絵本を真剣に読む大人による絵本本格評論】

          【読書感想文】エッカーマン「ゲーテとの対話」岩波文庫

          おそらく一昔前なら誰もが知っていた名著である。18世紀から19世紀初頭にかけてのドイツの大文豪ゲーテが、晩年に出会った純朴な青年秘書エッカーマンに語った、含蓄深い対話の集成。いろいろ印象深い対話があるが、私の記憶に1番残っているのは、ゲーテがとある演説で、台詞が全く出てこなくなってしまったが、落ち着き払って10分間沈黙した後、まるで何事もなかったかの如く、演説を続けて、完璧にまとめたというエピソードだ。いかにもゲーテらしい。だが、面白いのは、オリュンポスの神などとも揶揄される

          【読書感想文】エッカーマン「ゲーテとの対話」岩波文庫

          【絵本エッセイ】うちの絵本箱#11「犬が主人公の温かく愉快で深い古典的傑作~『どろんこハリー~』」【絵本くんたちとの一期一会:絵本を真剣に読む大人による絵本本格評論】

          0.はじめに とうとう十号台に入りました。思っていた以上によく続いており、自分でも嬉しいですが、これもまずは皆様の温かいご支援のおかげであり、心からの感謝を申し上げます。そもそも、自宅に眠っている絵本について思うさまを存分に展開してみようというのが、企画を立ち上げたもともとの趣旨でしたが、小特集などを含めると、かなり手広く扱っております。小特集に限っては、近くの図書館の本なども使わせていただいているので、いささか「看板に偽りあり」かもしれませんが、皆様には引き続きご愛顧いた

          【絵本エッセイ】うちの絵本箱#11「犬が主人公の温かく愉快で深い古典的傑作~『どろんこハリー~』」【絵本くんたちとの一期一会:絵本を真剣に読む大人による絵本本格評論】