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デザイナーが行うリサーチ業務について。

みなさん、こんにちは。デザインと写真の事務所「サンポノ」の江口です。本日は、デザイナーがリサーチを行うときに、どんなことをしているのかを書こうと思います。

はじめに。

私の事務所サンポノでは、ブランディングやWebサイトのリニューアルなどのご依頼をいただいた際、いきなり制作することはありません。クライアントのヒアリングをしている最中に、施策や制作内容の見立てはある程度立っていますが、その見立てが正しいのか、それとも違った角度の考え方があるのか、クライアントが見つけられていない課題はあるのかなどを調べる必要があります。

私たちデザイナーは、クライアントを外から客観的に見ることができる人でもあるので、その特徴を有効活用することで、クライアントの抱えている課題を、本質的に改善するための提案が可能となります。有意義な提案をするために、その時々で適したリサーチ方法を選択し、実施しています。

デザインリサーチの種類

デザイナーが行うリサーチにもいくつか種類があります。フィールドワークなどの現地調査、アンケートやインタビュー、競合調査、図書館でのレファレンスサービスや論文検索など、その時々で必要と思われるものを選び、実施しています。それでは、それぞれの特徴について見ていきましょう。

フィールドワーク

現地調査とも呼ばれるフィールドワークでは、クライアント企業に赴いたり、地方へ出張したり、店舗に訪れたりします。工場を持っている場合には、工場も見学させてもらい、実際にどういう工程で製造されているのかを見る以外にも、工場に勤務している方々の雰囲気や考えていることなどを窺います。ブランディングをご依頼いただく担当者は、本社勤務のホワイトカラーの方や経営者が多いですが、そうではない方々のことを考慮できなければ、インナーブランディングまで成功させることは難しくなるからです。

他にも、クライアントが地方企業である場合は、そこへ出張に行きます。現地で得られる情報はとても多く、また、リアリティのある情報が手に入ることで、現地の人々が抱えている課題や、ユーザーが望むものなどが、よくわかります。また、今はオンラインミーティングが普及しましたが、クライアントが「取るに足りないから言わなくてもいい」と思っていた情報が、実は役に立ったということもあり、そういったものが手に入りやすいのも、現地調査の特徴です。

アンケートやインタビュー

アンケートやインタビューには大きく分けて三種類あります。それは、アンケートやインタビューの対象者を、クライアント企業内にするか、ユーザーにするか、不特定多数にするかです。

特にブランディングをする際には、クライアント企業内にいる方々に実施します。会社の現状や将来をどう思っているかや、ストロングポイントやウィークポイントなどを質問します。質問への回答を整理して考察することで、会社のVMVC(ビジョン、ミッション、バリュー、クレド)やパーパスが見えてくるので、これらの策定や改定する際に役立ちます。

製品やサービスについて回答を得たいときには、ユーザーや不特定多数の人々へ実施します。改善して欲しい点を聞いたり、満足度を調査したりします。ユーザーへの調査は、自社の製品やサービスのことを自社で宣伝するよりも、他人を介して発信された情報の方が信頼性を得やすいというウィンザー効果もあるので、いい回答はWebサイトに掲載するなど、別の活用方法も出てきます(もちろん、掲載には回答者の許可を得る必要があります)。

不特定多数へのアンケートの実施は、回答者の数を増やして、より確度の高い考察が可能となりますが、一方で、回答への真剣度は下がるので、回答内容の信頼度は下がる可能性があります(これはα係数と呼ばれ、算出することが可能です)。

他にもアンケートやインタビューで、注意しなければならない点があります。回答するのが、企業内の人であれ、ユーザーであれ、人は回答する際に仮面を被るものです。質問によって、普段は考えていなかったことを発見できる一方で、あまり気にしていないことを「気にしている」と言うなど、大袈裟に言うこともあります。それは、大して望んでいないことでも、改善して欲しいこととして挙げるなど、枚挙にいとまがありません。

論文でアンケートを用いる場合は、回答の妥当性と信頼性を高めるために、サンプル数やサンプルサイズを増やしますが、これが難しいビジネスの現場では、回答内容を考察する人の経験に頼ることになります。アンケートの配布やデータの整理、数値の算出はアンケート会社に依頼することになりますが、少なくとも、考察者は、統計学を習ったことがある人が望ましいと思います(ちなみに、私は学生時代に習いました)。

競合調査

競合調査は以前の記事でも書いたので詳細は割愛しますが、各社のデザインを調べたり、実際のサービスや商品を使ってみる以外にも、IR情報や四季報を読んだりします。IRでは、その企業の経営状態が分かる他、これからの戦略まで記載されているので、とても勉強になります。


レファレンスと論文検索

最後に紹介するレファレンスサービスと論文検索は、ぜひ覚えて欲しいリサーチ方法です。レファレンスサービスとは、リファレンスサービスとも呼ばれ(レとリの違い)、図書館で働いている司書の方に、自分が調べたい内容を伝えて、関連する書籍や論文を紹介してもらうサービスのことです。あまり知られていないサービスですが、本に関する専門家である司書の方々に手伝ってもらえるので、とても助かります。仮にその図書館にないものであった場合は、蔵書として扱っている図書館を教えてもらうこともできます。

論文検索では、「CiNii(サイニィ)」というWebサービスを使います。CiNiiは、論文や図書などの学術情報を検索できるデータベースサービスです。簡単に言うと、論文や図書を見つけるための検索サイトと言えます。試しに、「マーケティング 購買意欲」とCiNiiで検索してみてください。これらに関する内容で研究されている論文のタイトルが表示されます。その後、国会図書館へ行って、論文を読みます。そして、論文には必ず、参考文献や引用文献が記載されているので、関係すると思われる文献をさらに調べるという流れです。

CiNiiを使用する注意点を挙げると、調べたいものが漠然としていると表示される文献も多く、探し出すのが困難になることです。そのため、先にレファレンスサービスによって、司書の方から文献を教えてもらって、その文献を読んでから、論文を検索する流れが望ましいです。

この方法をお勧めする理由は、知識や情報というのは、しっかりしたものを積み重ねることで、はじめて利用価値が生まれるからです。ネットにある情報がすべて怪しいとは言いませんが、SEOのために書かれたものなど、情報としての価値が低いものが多いのも事実です。知識や情報も、しっかりと研究して書いてくれたものや、専門家の方がその存在を教えてくれることで、効率よくクオリティの高いものが手に入ります。

論文や書籍を読むのは、歴史を調べるのにも役立ちます。地域や工芸品の歴史を調べるのもいいですし、Fintech企業であれば、貨幣の歴史を調べることで、人間の生活と貨幣の関係性が分かり、現在のサービスに役立てることだって可能です。是非、みなさん、図書館を利用してみてください。

おわりに。

いかがでしたでしょうか? 以前にも競合調査は書きましたが、今回はその他のリサーチ方法についても書きました。それぞれ一長一短がありますが、得られる内容も異なりますので、案件に合わせて組み合わせて用いることになります。得られた情報を基に考察をして、デザイン施策の方向性を決めて、制作に入ります。是非、みなさんも活用してみてください。

記事を読んで、サンポノの仕事に興味を持ったら、是非、ホームページをご覧になってください。それではまた次回お会いしましょう。


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