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“ビジュアルブランディング”見えない何かを探す冒険:前編

デザイン顧問としてビジュアルをゼロから産む。そんなプロジェクトの中での、アートディレクターのアタマの中は...


その1 芯を探す

『クライアントと共に、相談と提案を繰り返して「何を伝えたいのか」「どう見せるか」を掘り下げ絞り込んで行き、最終的にはハードへの展開から印刷物までトータルに見据えた最終アウトプットに落とし込む...』

VI(ビジュアル・アイデンテティ)を生み出す過程を、AD(アートディレクター)の立ち位置から100字以内で書けと言われたらこう表現できるかもしれない。(もちろん過程の一部ではあるが)

ビジュアルを生み出すにあたって、この文章は間違いではないけれど、この行間で何を考え、どう動いたのかを書いてみたい、そんなふうに思った。


タイトルのような「冒険」というほどスケールのあるものではないかもしれないが、ワークフローや仕事の進め方と一緒に走っている「デザインの引き金」「頭の中」などの言葉にしにくいものを言語化してみようと思う。


会社の変遷は人の一生とシンクロするのかもしれない。
1948年の創業から、この会社は2020年に社名を変え、全てのビジュアルを一新した。
戦後すぐ電話交換機の事業から創業したこの会社は、そこから情報ネットワークの構築を利用した、遠隔監視・制御の分野に進み、今、さらに音声・情報・制御技術を基に、ネットワークの“マルチベンダー対応”や“モバイル機器(特にスマホ)”を利用した自社オリジナル製品の開発に取りんでいる。

この会社の大きな変化のタイミングに立ち会えたのは、人生に何度もない貴重な機会だったと思う。

今までに、パンフレットをはじめデザインツールの作成の際にはお声がけをいただいていた。
その度に、「この会社の要望、気持ちには全力で応えたい」と思わせてくださる会社だ。

まずは、先行してウェブサイトのメインビジュアル構築のお声がけをいただき、キックオフは秋の終わり。取り組みが始まった。

ビジュアルの発想は、本当のゼロからは始められない。まずは、できるだけ材料を集め、深く考え感じるところから。

この会社の創業の様子、変遷、業界での今の立ち位置、これからのビジョン 。それらを聴き、それからその内容を一度、線で、あるいはテキストで、形にする。
そして、時折描いた内容を見ていただきながら、言葉と言葉にならない何かを共有する。

この時間は、「ヒアリング」という言葉よりも、傾聴と紡ぎ合いという表現する方がしっくりくるかもしれない。

もちろん、対面で聴いたことだけではなく、貴重な資料もベースにさせていただく。

社長に在任されてから、毎年発信を続けているその年の経営方針。
創立記念日には社員と家族に向けて綴るメッセージ。

その文章には、会社は規模の大小ではなく、流れを捉えて動くことが大切、とあった。

ステークホルダー、働く社員とその家族に向けた真摯なメッセージを読みながら、「この会社が発信すべきはどんな姿(ビジュアル)なんだろうと考える。

考えながら、いただいた想いとビジョンを形にするために鉛筆を持つ。


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書いている時は考えは文章化しない。頭に湧き上がる単語を形にしていきつなげていく。パースやデッサンの狂いはここでは気にしない。

手を止めず書いていくと、勝手に生まれた図形からヒントが出てくることがある。橋の曲線、虹の曲線。ある地点からある地点を結ぶもの。

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この絵は、私にとって、ここからずっと、この会社のビジュアルを考えるための「芯」となった。

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その2  光を探す

ビジュアルを創りながら、考える。
ネットワークってなんだろう。情報ってなんだろう。制御ってなんだろう

人の生活、工場での生産、商業施設で普通に人が交わり、安全に過ごす、
それらを目に見えない力で守り時には助ける。
水や空気と同じで、生きるために欠かせない力。

そして、人は動く。パソコンに縛りつけられ働くスタイルもどんどん変わっている。

そして一方。そういう変化の中で、この会社の「らしさ」ってなんだろう。

スマートフォンはあらゆる常識を変えてきた。
管理する対象を、動きながら見守ることができる。
情報を携帯できる事。
これはまさに電話交換機のプロフェッショナルであるこの会社のエッジといえる。


「周回遅れでトップ」という社長の言葉はずっと頭の中から離れなかった。
街をつなぐ。未来をつなぐ。未来へつなぐ。

会社名の中にある、「N」の文字が、街をつなぐ波形に見えた。
描き続けているラフの中のいろいろな曲線のイメージがつながる。



ビジュアル作成の佳境にはいったのは3月。
その頃は、日本が、世界が、信じられない状況を迎えていた。
毎日テレビから、SNSからコロナの情報が悲鳴のように流れる。


窓の外が灰色に感じられるそんな毎日の中で、
まさに、こんな状況でも人や情報を結びつけるのはネットワークだと感じた。なくてはならない存在。日々変わる状況の中で挑戦し続けなければならない仕事。

形あるものを作ることに対して、希望の光を探すように、メインビジュアルを創った。
これは作成途中のモックアップ。

塗り白イラスト 2

ビジュアルは言葉なしに見る人に刺さらなければいけない。

しかし、
その根底に流れるものを当事者同志がしっかりと共有していなければやがて崩れていってしまう。
だから、コンセプトは文章にする。

『街、学校、病院、工場、オフィス。
全てに必要とされるネットワークを、柔軟な対応と高い技術力で構築する企業であることを表現しました。
目に見えないネットワークで繋がれた社会のイメージに、
社名とネットワークの「N」をビジュアル要素として配置し、拓かれる通信の未来を示唆。
日々進化する企業であり続けるイメージをブルーグリーンのテーマカラーで象徴しています。』

コンセプトは一つでも、その表現の切り口はこの3つの要素の活かし方で全く違う表現に変わる。
逆にコンセプトがしっかりと存在すれば、表現は柔らかく変えられる。

ビジュアルを作成する時に欠かせない要素として


●色


●形


●質感


が、ある。


最初からその切り口を一つに絞らず、事業やビジョンと乖離しないことをベースに、複数の見せ方を提案する。
色については、ブルーの精悍さと成長をブルーグリーンの主色で表し、機能的な補色や類色を設定。
形、質感は、街、つながる、などのワードをベースに、シンプルな抽象化を進めた表現と精密な表現と思い切ってハンドライティングにふった表現に。

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先にデータとして送り、打ち合わせの日がきた。
社長の入室。表情はわからない。提示されたものが要望にあっているかどうか、即座に判断される。
その場の空気が厳かに感じられる。緊張。
「案を拝見しました。全て、素晴らしい」という言葉をいただいた。
この時のビジュアル提案は、一貫して、プレゼンテーションというよりレゾナンス(共鳴 呼応)を求めてのアウトプットだったと思う。



最終0401_アートボード 1 のコピー

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「私たちが期待した以上のものを出してくれた」という嬉しい言葉をいただき、結果、ウェブサイトには全てのビジュアルを使うことに。
創り出す時に全体重を乗せて生み出したビジュアルだ。全てを活かしていただくのは嬉しい。

メインビジュアルの確定を経て、サイト内のアイコン、ビジュアルの方向性が統一され、サイトが完成となった。




日新ネットワークス株式会社 webサイト(サイト作成:株式会社ノイ様)
https://www.nisshin-networks.co.jp/

後編に続く>

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