見出し画像

読書感想文 勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること

いつ読んでもすばらしい。
示唆に富む内容だ。

一流アスリートの脳を分析した知見をまとめた書。

興味深い実験結果が数多く紹介されている。
一例として、好調時の選手がしばしば口にする「道具が身体の一部のように感じる」という感覚を神経レベルで解明しようとした実験を紹介してみたい。


受容野(ペリパーソナルスペース)の拡大について

受容野(ペリパーソナルスペース)とは、
一個体の外界で生じた刺激に対し、感覚処理系の細胞が反応できる空間範囲を指す。
それはあたかも、身体がシャボン玉のような膜ですっぽりと覆われており、膜の内側の空間で起きたことは、即座に察知できるようなもの。

漫画ハンターハンターの世界での「円」のようなものだと捉えてよいであろう。

ニホンザルに道具の使用を学習させることで、この受容野(ペリパーソナルスペース)に変化が起きるかどうかが調べられた。
道具使用前のペリパーソナルスペースは、あくまで腕が届く範囲だった。
それが道具を使えるようなった後では、道具が届く範囲までをも自分のテリトリーとして認識したのだ。

つまり、道具が身体の一部のように感じるという感覚は、感覚処理系の細胞内で実際に変化が起きていたということ。

しかしながら、どんな道具でも良いわけではない。
あくまでも常日頃から練習し、トレーニングしている道具であることが大切なポイント。

テニスプレイヤーの場合は、テニスラケットを持つと身体の一部のように脳が認識することができる。
一方で卓球のラケットでは、テニスラケットのような効果は発揮されないそう。

オーラをまとっているなんて表現をするが、そのような人は道具を使う使わないにかかわらず、実際に自分の身体よりも広い空間を認識しているのであろう。
そして、誰もが修行によって拡大させることができるはず。


この実験を読んで、日常生活でもペリパーソナルスペースを広げることができるのではないかと思った。

わたしの親戚の叔母は、ビニールハウスでパセリを栽培している。
毎日管理しているビニールハウスに入ると、パセリから声を聞こえてくるらしい。
「暑い、喉が渇いた」など。
もちろん実際にパセリが喋っているわけではない。

しかしながら、毎日パセリを育て続けることで、微妙な温度変化や湿度に敏感になった結果だと思う。


同様に、家庭内での異変、会社内でのトラブル、友人の変化など、日々他者の気を察知することで、実際にペリパーソナルスペースは広がっているはず。
帰属意識と言い換えても良いのかもしれない。

自分以外の目線で物事を見ることはめちゃくちゃ大切だと改めて思った。


フロー状態と前頭前野について



また、フロー状態についての言及も興味深かった。
フロー状態時は、前頭前野の活動が低下し、感覚を司る脳部位の活動が増加している。
超一流アスリートがパフォーマンスを行っている最中、普段前頭前野は活動していない。

極度の緊張でパフォーマンスが落ちている時に前頭前野は活発になる
自分の動作、動きに意識が向いてしまい、結果的に前頭前野の活性化に繋がっているようだ。

この結果から考えられることは、
前頭前野を鍛えることが大切とよく言われるが、いわゆるフロー状態下では鍛えられていないのだ。


前頭前野を鍛えるためには、本書でも言及されている限界的練習を取り入れることが非常に大切。

自転車を毎日乗り続けて、20年後にアスリートになれるかといえば、そうはならない。
同じ強度で目標なく取り組んでいる限り成長はない。
それと一緒のようなもの。

超一流アスリートは、練習をする際に、明確な目標を掲げ、取り組むべき課題に集中し、第三者のフィードバックをもらうことで練習の質をあげている。
この意識づけを行うことで、前頭前野を活発にさせていると考えられる。

つまり、あまりにも習慣化しすぎて、なにも感じなくなってしまっている状態は、効率がさほどよくない。
常にちょっとの苦痛、努力は必要。


そう考えると、トップレベルの選手は毎日そういうトレーニングを行っているわけで、改めて偉大さを感じることができる。

この記事が参加している募集

読書感想文

最近の学び

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?