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【『経済財政諮問会議』資料を読む】ちょっと先の未来を考え、動くために

はじめに(この国の未来の最新資料)

 『経済財政諮問会議』資料を読む、という記事も2本目です。前回は【『経済財政諮問会議』資料を読む】コロナ対策としての『デジタルニューディール』と題して、コロナを契機に既存の成長戦略を推進し経済成長を目指す「デジタル・ニューディール」についてまとめました。

 本日(2020年4月27日)に行われた第6回の経済財政諮問会議のテーマは大きく2つで、政府からの緊急経済対策と有識者からの提言から成ります。すでに報道にある通り、デジタル化などについてかなり具体的なメッセージを打ち出したものもあります。

首相 テレワーク推進で押印など慣行見直し指示(NHK)
そのうえで「特に、テレワークの推進に向けて、押印や書面提出の制度や慣行の見直しについて、緊急の対応措置を取りまとめ、順次、実行してもらいたい」と述べ、規制改革推進会議で緊急の規制緩和策をまとめるよう関係閣僚に指示しました。
一方、安倍総理大臣はリーマンショックのあと、日本では技術革新への投資が停滞したとして、ITや医療分野などへの投資の促進に積極的に取り組む考えを示しました。

 この『経済財政諮問会議』資料は、まさに本日発表されたもので、この4月の状況を目一杯反映した、いわば『現在進行中』の国家戦略の議論が描かれています。さらに、前回提言に対して、今回の資料は政府としての具体的な方策や『今、話題になっていること』を意識した提言が多い印象があります。

 そのため「ちょっと先を考えるためのフレームワーク」として参考になる構造「具体的な政策のイメージ」が多々言及されています。個々人としては、具体的な政策のあり方に注目しつつ、それを受けて『政府は何を考えているのか/考えていくのか?』『個人のチャンスに結びつけられないか?』という問いを立てる上では、参考となる資料です。

 今回もその観点で「経済財政諮問会議」の資料を読んでいきたいと思います。

第6回会議資料の全体像

 政府からの発表は『新型インフルエンザ対策』の更新として「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策 ~国民の命と生活を守り抜き、経済再生へ~」という閣議決定資料が発表されています。「閣議決定」内閣法6条に「第六条 内閣総理大臣は、閣議にかけて決定した方針に基いて、行政各部を指揮監督する」と定められており、本件に限らずですが、ダイレクトに「この国の行政の指針」となるものです。

 有識者による提言緊急提言 ~感染症の長期化・再発と経済変動に備えるために~」「未来への変革に向けて(サステナビリティ、イノベーション投資)~リーマンショック後の低成長を繰り返さないために~ 」という2本で、前者は、まさに「ポストパンデミック」「アフターコロナ」「ウィズコロナ」に応じた直接的なアクション、後者は「その世界でも国際競争力を失わないために」というより幅広いテーマが言及されています。なお、提案者は第5回会議と同様の有識者メンバーとなっています。

竹森 俊平(慶應義塾大学教授、経済学者)
中西 宏明(経団連会長、株式会社日立製作所取締役会長)
新浪 剛史(サントリーホールディングス株式会社代表取締役社長)
柳川 範之(東京大学大学院経済学研究科教授、経済学者)

 なお、合わせて経済財政諮問会議の議員である黒田 日銀総裁からも日本銀行の方針資料が提出されていますが、詳細な報道がなされていることもあり今回は割愛します。

新型コロナウイルス感染症緊急経済対策(今、政府が考えていること)

 まず、本日、政府から公開された「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策 ~国民の命と生活を守り抜き、経済再生へ~」は「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」(令和2年4月7日閣議決定)のアップデート版で、今までも状況に応じて更新が続けられています。時間が経過するほど、具体的にどのような政策に結びついたか、を列挙しています。

 以下に本文は非常に長くA4換算で50頁近くありますが、合わせて概要版が発表されています。

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 この中で比較的報道されるのは「緊急支援フェーズ」の感染拡大防止策や雇用の維持・事業の継続、次いで「V字回復フェーズ」における「リモート化等によるデジタル・トランスフォーメーションの加速」あたりでしょうか。

 前者の「緊急支援フェーズ」については連日の報道とほぼ同内容のことが説明されているため詳細は割愛しますが、

 特に、世間のビジネスパーソンの関心の強い「デジタル・トランスフォーメーションの加速」としては、具体的に下記の政策が挙げられています。

資料34頁より引用
・ 働き方改革推進支援助成金(テレワークコース)の拡充(厚生労働省)
・ テレワークマネージャーによる相談体制の拡充(総務省)
・ テレワーク等のための中小企業の設備投資税制(経済産業省、総務省、厚生労働省、農林水産省、国土交通省)【再掲】
・ 大学等における遠隔授業の環境構築の加速による学修機会の確保(文部科学省)
・ 大学等における遠隔授業の環境構築の加速による学修機会の確保(文科学省)
・ EdTech導入実証を含む遠隔教育・在宅教育普及促進事業(経済産業省)
・ 授業目的公衆送信補償金制度の早期施行(文部科学省)
・ 遠隔健康相談事業体制強化事業(経済産業省)【再掲】
・ 在宅学習・在宅勤務・オンライン診療等を後押しする光ファイバ整備推進(総務省)
・ マイナンバーカードを活用した住民票の写し等各種証明書のコンビニ交付の促進(総務省)
・ Jグランツ(オンライン補助金申請システム)の機能拡充等(経済産業省)
・ 中小企業デジタル化応援隊事業(経済産業省)
・ 労働力不足の解消に向けたスマート農業の導入・実証(農林水産省)
【再掲】
・ インフラ・物流分野等におけるデジタル・トランスフォーメーション(令和5年度までに小規模を除く全ての公共事業についてBIM/CIM23活用へ転換等)を通じた抜本的な生産性の向上(国土交通省)等

 この中でも「オンライン診療」「遠隔教育」については過去にも記事でまとめました(【オンライン診療・遠隔教育の今後】新型コロナウイルス感染症対策に関する特命タスクフォースとそのメンバー)が、それ以外にも各省庁の関連する政策が列挙されています。

 ただ、すべてが新たな政策ではなく「コロナを契機に新たに掲げられた」というよりは「既存政策を加速する」「既存の税制や助成金を活用する」というものも多いことに注目です。

 例えば、特に「サプライチェーン改革」は国家的な戦略が色濃く出ている内容です。マスクや医療資材の不足から、幅広く「一国依存度が高い製品・部素材について生産拠点の国内回帰等を補助」「レアメタルの確保・備蓄」と言及しています。敢えてこのタイミングで言及する点は、本当にマスク等の不足の課題の解決を意図している面や、国内製造業の回復支援的な面もあるにはあるでしょうが、「コロナを契機に」という掛け声を通じた既存政策の加速化を意図している、と読み取れる内容です。

資料31頁より引用
新型コロナウイルス感染症の拡大の影響により、マスク等の衛生用
品も含めた我が国のサプライチェーンの脆弱性が顕在化したことを
踏まえ、複数年にわたる取組により、国内回帰や多元化を通じた強固
なサプライチェーンの構築を支援する。具体的には、一国依存度が高
い製品・部素材について生産拠点の国内回帰等を補助
する
(中略)
加えて、一国依存度が高い部素材の代替や使用量低減、データ連携
等を通じた迅速・柔軟なサプライチェーンの組替え等、サプライチェ
ーン強靱化に資する技術開発を行うとともに、レアメタルの確保・備
蓄を進める

 サプライチェーン対策のための国内投資促進事業費補助金(経済産業省)
・ 医薬品原薬等の国内製造拠点の整備のための製造設備の支援(厚生労働省)
・ 海外サプライチェーン多元化等支援事業(経済産業省)
・ サプライチェーン強靱化に資する技術開発・実証(経済産業省)
・ 東アジア経済統合研究協力(サプライチェーン強靱化・リスク管理等)(経済産業省)
・ 生産拠点の国内回帰等を踏まえた企業のRE10021等に資する自家消費型太陽光発電設備等の導入による脱炭素社会への転換支援(環境省)
・ 希少金属(レアメタル)備蓄対策事業(経済産業省)
・ 中小・小規模事業者への感染症対策を含むBCP(事業継続計画)策定支援(経済産業省)

 今後、更に新たな経済対策が追加される可能性は高いとは思いますが、一方で、短期間で対応せずを得ない現段階では「元々、進めようとしていた政策をフル活用することで、どうにか対応できないか?」と考えざるを得ないことは念頭においておく必要があります。

 政策の連続性という観点でも、新型コロナウイルス感染症のパンデミック以前からある社会課題を解決する、という観点でも、この傾向はあまり変わらないことが推測されます。このことは「東日本大震災」の復興政策からも類推できることで、前回記事でも触れました。災害復興や緊急経済対策にこそ、利益誘導が強すぎないか? 本当に成果があったか、という後日の検証が重要なことは、一有権者としては意識したい点です。

 なお、この「既存政策の加速」という傾向は次に触れる有識者からの提言にも言えます。

「緊急提言」は何を提言しているのか?(デジタル化、歪みの解消、マクロ経済発展)

有識者からの「緊急提言~感染症の長期化・再発と経済変動に備えるために~」は、端的にいえば以下の3本柱です。
 
 まず、今、緊急で必要な支援を届けるための「デジタル化」「オンライン化」の推進です。

1.今次緊急経済対策の効果を早期に国民に届けるために
 「迅速な支援に当たっては、活動自粛の中での窓口等の混雑に加え、対面原則、書面交付原則等が、壁になっており、柔軟な対応が喫緊の課題である」
「多くの支援策が対面、押印、書面を原則としている(別紙参照)。添付書類を含めた手続き面の簡素化を徹底し、同時に、雇用調整助成金をはじめオンライン手続き(電子ファイル送付や押印省略)を選択できるようにすべき」

 この中では「押印(はんこ)」問題が報道などでも多く触れられていますが、本提言では「対面」「書面」も合わせて強く指摘されており、押印だけでなく「なんでも紙に記入して、役所に持参し、職員の目視確認を受ける必要がある」という慣習は、一定の強制力を持って改善に進むのではないか、と思います。

 これは、2020年4月6日に、自民党の「行政改革推進本部規制改革チーム」が安倍総理に向けて行った「新型コロナウイルスに対応するデジタル規制改革について2つの緊急提言」にも共通しています。詳しくは提言本文に譲りますが、以下に引用した「徹底的な点検・見直しの対象となるもの」は、今後の規制改革において指針になるのでは、と思います。

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 例えば「現場・店頭での専門家の常駐/配置要請の原則」の点検・見直しは、オンライン診療や服薬指導が特例的に認められていることを念頭に置くと、薬局における薬剤師や登録販売者などに及ぶのではないか? と考えられます。「原本原則」は電子契約を、「現金原則」はキャッシュレスを、という風に、従前の推進との結びつきも強い指針です。

2. 厳しい中にある国民生活、企業活動における、負担、不便の軽減を
 新型コロナウィルス対策本部から提唱されている「人との接触を8割減らす 10 のポイント」の実現の重要な鍵はオンラインの活用にある。ただし、オンラインの活用に当たっては、以下のような不便や負担を一刻も早く解消していく必要がある。併せて、こうした取組を通じて、国民の連帯感を
高めつつ、社会変革を促す必要がある。

 本項ではオンライン化・デジタル化を推進する上で生まれる不足や歪みの解消を提言しています。例えば、テレワークにおける言及です。

〇 テレワークの推進に向けて ~押印・書面の手間を省き、労働者の困惑を解決する~
(略)
- テレワークを質の高い働き方として定着させるため、労働時間管理がなされない等の理由によって、人件費の抑制(自宅での残業代、割増賃金カット)や雇用調整に結び付くことのないよう、厚労省で推進状況をフォローすべき

 テレワークに切り替わるにつれ、徐々に話題になっている「労働時間管理の難しさ」から、一律に残業代・割増賃金を減らす管理しにくい雇用形態の雇用調整を行う、といった労働者に不利に結びつくことがないように、テレワーク(リモートワーク)の定着をフォローすべき、という提言です。これは、コロナを契機とした体験から「リモートでも行けるんじゃないか?」と感じた多くのビジネスパーソンにとっても期待される提言ではないでしょうか。

 その他、インターネット上でも話題となった「運転免許証の更新」「株主総会」「マイナンバーと銀行口座の結びつけ」といった課題が言及されています。

休業・失業中の教育訓練講座の多くがオンライン化されておらず、事実上、停止状態にある。オンライン化を促し、能力向上の歩みを止めないようにすべき
運転免許更新時の講習など、各種資格の取得や延長に係る講習等についても、オンライン講習を認め、業務の停滞を避けるとともに、再開後の大混雑、業務滞留を避けるべき
株主総会の開催には、決算書類の事前送付を WEB 開示で代替できるようにするとともに、今次対策でも明記したように、インターネットでの株主総会の開催の普及を図るべき
- 米国のように納税登録口座への自動入金をも可能とするため、マイナンバーカードの普及加速とともに、マイナンバーカードを使ってマイナポータルに、オプト・インで所得、銀行口座を直ちに結びつけ、迅速な公的給付を可能とすべき。また、マイナンバー自体を銀行口座と紐づけできるよう今年中に結論を出すべき

 特に最後のマイナンバーの銀行口座紐付けについては今年中という期限を区切った提言であり、給付金実務で予想される混乱と合わせて、議論が進むのではないか、と思います。

3つ目が「国際協調」と「大胆な経済政策」です。

3.内外経済の大変動を乗り越え、持続的な成長に回帰するために
- 世界的な危機の下では国際協調が何より求められる。治療薬・ワクチン開発を含め感染症対策を最優先に取り組むのみならず、マクロ経済運営、国際貿易・投資の維持・拡大、サプライチェーンの再構築、途上国支援など、先進各国の国際協調が不可欠。日本がこれまで築いた国際的なリーダーシップを今こそ発揮し、世界経済の危機を乗り越えていくべき
- 日本経済においては、感染症収束後、日本が取り残され円高・デフレの悪循環に決して戻ることのないよう、消費・投資の両面からの大胆な民需誘発策を今から検討すべき。また、世界経済の今後の動向如何によっては、躊躇なく、機動的なマクロ経済運営を実施すべき

 これはある程度オーソドックスなマクロ経済政策への提言ですが、どちらかといえば「世界経済の発展」「日本の持続的な成長」という、新型コロナウイルス以前からの目標・課題で出遅れないように、という確認的な言及といえるでしょう。

 このように「緊急提言」は、短期には緊急支援の効率化のため、強くオンライン化・デジタル化を、次いでオンライン化・デジタル化を含めた対策で生まれる課題・歪みの解消を、最後にマクロ経済政策を再度強調する、という形で構成されており、我々が個人としてポストパンデミック後の社会、アフターコロナ、ウィズコロナを考える上でも参考となる構成と論点を示している、といえます。

「リーマンショック後の低成長を繰り返さないため」に(既存政策との連続性)

 先に述べた「緊急提言」に加えて、有識者からは「未来への変革に向けて(サステナビリティ、イノベーション投資)~リーマンショック後の低成長を繰り返さないために~」という資料も提出されています。こちらは「緊急提言」と比べると、より長期的な視野での提言であり、既存の政策との連続性、既存の社会課題の再確認、といった形に読めます。

 まず、端的にいうと「リーマン・ショック後の投資停滞の反省・悪影響」を述べた上で「デジタル化やグリーン化、サステナビリティなど未来を先取りする投資」の推進を提言しています。

 1.未来を先取りする投資の促進
リーマンショック後、企業の設備投資は世界的に停滞した。元の水準に戻るまでにアメリカで2~3年、日本や欧州では5~6年を要しており、その後の世界的な「長期停滞」につながったとも言われる。しかし、そうした中にあっても、欧米諸国は研究開発投資に資金を回し、早期に(1~3年程度)回復させた。一方、日本企業の研究開発投資は回復までに時間(5~6年)を要しており、その後のイノベーション力の低下につながった。
リーマンショック後の投資停滞を繰り返さず、日本経済をデフレと低成長に戻さないよう、デジタル化やグリーン化、サステナビリティなど未来を先取りする投資を重点的に推進し、今後の回復の起爆剤とすべき

 以降で触れられている「企業のデジタル・トランスフォーメーション、
特に中小企業のデジタル化支援
」や「5Gの設備投資支援」「ポス
ト5Gの技術開発支援」「beyond 5Gを見据え、グローバルな官民連携で戦略的な取組」「地球環境に資するバイオテクノロジー投資、高性能蓄電池・水素技術など基礎研究結果を社会実装する投資」
といった内容は、新型コロナウイルス以前からの重点政策を指しており、この潮流を止めないことを重視していることが伺えます。また方法論としての「産学連携」や「官民連携」、「オープンイノベーション支援」「国際展開」なども、同様に以前から重点化されているワードであり、改めてその重要性の確認をしています。

 実際にはすでに大企業のスタートアップ投資の抑制などが報道されつつあり、本提言の懸念通りになりつつあります

大企業スタートアップ投資「減らす」9割、協業後退も(日本経済新聞)
 大企業のスタートアップ投資が減速しそうだ。デロイトトーマツベンチャーサポート(東京・千代田)のアンケート調査によると、大企業の投資子会社などの9割が2020年の投資を19年より減らす意向を示した。新型コロナウイルスの感染拡大で本業の業績が悪化しているためだ。近年は大企業が国内投資をけん引しており、影響は大きい。外部の技術を自社の開発に生かすオープンイノベーションが後退する可能性もある

 実際の業績悪化、景気後退は如何ともし難いところですが、だからこそ、こういったスタートアップ投資やオープンイノベーションには、政策的な支援が強まる可能性があります。当然、持続的な取り組みを志向する大企業の投資子会社やベンチャーキャピタルもあるため、そういった勢いが失われないような政策的な支援は期待されます。この点は、2019年末に打ち出されたベンチャー投資への税優遇制度など、既存の政策との連続性も考えやすいところです。

ベンチャー投資した企業、株式取得額の25%控除へ(朝日新聞)
政府・与党は6日、企業がため込む現預金を投資に回すために検討してきた、ベンチャー投資への税優遇制度を固めた。大企業が一定要件を満たしたベンチャー企業に1億円以上投資した場合、株式取得額の25%を法人税の課税所得から差し引く。

 なお、残り2つの提言は、より従前の政策の強化、別途記事にまとめた「デジタル・ニューディール」的な思想が強い提言です。つまり「アフターコロナ」でも既存の成長戦略の貫徹、国際競争力の維持強化を求めています。具体的なワードとしては『スマートシティ』や『MaaS』、『スマートメーター』『エネルギーレジリエンス』『(国土)強靭化』などが挙げられています(繰り返しになりますが、これらは新型コロナウイルス以前からの重点政策であり、突然、新概念が生まれた訳ではありません)

2.デジタル時代に要請されるゼロエミッション~将来の競争力と参入可能性を左右~
世界はデジタル化とともに電化(エレクトリフィケーション)が進む。データセンター等の立地では、電力コストだけでなく、電源のゼロエミッションを重視する世界的な企業も出ておりサステナブル投資はデジタル社会への投資であるとともに、世界の投資資金の流れから日本が取り残されないための、また、世界の中での競争力を左右する投資であることを認識すべき
3.デジタル化・グリーン化を通じた地域への投資促進
デジタル化やグリーン化といったサステナブル投資は、地域への投資促進にも貢献する。エネルギーの地産地消の取組は分散型エネルギーシステムの構築を通じて地域に投資を呼び込み、富と雇用を生む。災害時のエネルギー・レジリエンスにも資する。さらに、海外への資金流出を抑制し、国際情勢にも強靭な経済社会構造の構築にもつながる。

 ただ、新型コロナウイルスの危機意識を重ねると『日本、特に地方への投資促進』『海外への資金流出の抑制』また、感染症以外への災害対応というのは、今まで以上に強調されるポイントかもしれません、

 例えば、短期的には、新型コロナウイルス克服した国・地域への投資が強まっている傾向が言及されています。

焦点:盛り上がる「韓国買い」、封鎖なしのコロナ封じ込めを評価(ロイター)
新型コロナウイルスが世界で猛威を振るう中、韓国株式市場が他の主要市場をしのぐ目覚ましい回復をみせている。債券市場にも資金が流入している。こうした「韓国買い」は、同国が政府の対応で新型コロナ危機を他国より早く、力強く切り抜けるという期待が背景にある。

 もちろん、今後の再流行の可能性などを踏まえる必要はありますが『新型コロナウイルスから早く立ち直る国・地域はどこか?』そして『投資先として魅力的な国・地域はどこか?』というのは重要な論点になっていくでしょう。提言に基づけば『投資先として魅力的な産業を擁する国・地域に、日本はなれるのか?』とも言えるでしょう。これは個人としての身の振り方でも参考となる見方ではないでしょうか。

終わりに(非連続的な革命か? 既存政策の加速する契機か? そして自分は何をするのか?)

 以上が、4/27に発表された第6回経済財政諮問会議の内容の簡単なまとめとなります。

 いわゆる『アフターコロナ』や『ウィズコロナ』を考える上で、現在の状況を『今までの世界とは非連続的な革命』と捉えるか『既存政策を加速する契機』と捉えるか、濃淡はあれど見方の違いがあります。

 少なくとも『経済財政諮問会議』の資料を見る限り、政府の資料という性質上、かなり『既存政策を加速する契機』が色濃いことは繰り返してきました。

 楽観的に見れば『既存の政策は、案外、新型コロナウイルス以降にも通用し、国民、政府、自治体、企業の意識が変わったことで、岩盤規制や習慣が見直され、実行が加速していく』かもしれません。

 例えば、今回大きな話題になっているデジタル化・オンライン化は長らく志向されてきました。森総理が国会の所信表明演説で『電子政府化』や『インターネット博覧会(インパク)』を提唱したのは2000年、今から20年前です。しかし、20年経っても、この国では『書類は紙』であり『ハンコを押す必要』があり『国民ひとりひとりに、オンラインでお金を届けることも出来なかった』のです。それが今、急速に変わろうとしています。その意味では、同じく、少子高齢化で成功のビジョンが見えにくい『地方創生』も新型コロナウイルス以降の世界と連続性をもって検討すれば、新たな可能性が見えていくるかもしれません。

 悲観的に見れば、まだ、政府は『今までの世界が続く』と考えているように見えます。もしくは『どういった部分が、どのくらい変わるか?』ということまでは、まだまだこれからの先、といえます。例えば、仮に今後『オンラインでの商取引や行政手続が強く志向され、リモートワークが当たり前のようになった世界』での『スマートシティ』や『MaaS』はどうあるべきか、といった具体的な検討は、今後より緻密に行われる必要がありそうです。そして、そういった検討や実証実験、事業化は、政府というより、民間、つまり企業やNPO、大学、個人に依るところが大きいはずです。そういった、『非連続的な』民間の発想をすくい上げ、政府が積極的に促進するような姿勢を、改めて強める必要があると考えます。

 企業のイノベーション理論に『両利きの経営(Ambidexterity)』という考え方があります。要は『知識の探索』と『知識の深化』を経営レイヤーで高度にバランスをとることが必要だ、という考え方です。

イノベーションが止まらない「両利きの経営」とは?(日経ビジネス)
 「両利きの経営(Ambidexterity)」の詳細についてはぜひ拙著を読んでいただきたいのですが、その基本コンセプトは「 まるで右手と左手が上手に使える人のように、『知の探索』と『知の深化』について高い次元でバランスを取る経営」を指します
(中略)
 ところが現実には、目先の収益をあげるには今業績のあがっている分野の知を「深化」させる方がはるかに効率がよく、他方で「知の探索」は手間やコストがかかるわりに収益には結びつくかどうかが不確実であることが多いものです。したがって、企業には「知の探索」を怠りがちになる傾向が組織の本質として備わっています。このことで知の範囲が狭まり、結果として企業の中長期的なイノベーションが停滞することを、経営学では「コンピテンシー・トラップ」と呼びます。

 緊急性が求められる新型コロナウイルス対策では、政策の連続性を重視し、確実かつ安定した政策の執行は重要でしょう。一方でその先、つまり「新型コロナウイルス以降の世界において『今までの政策を加速=深化』させるだけで良いのか?」という問いは、漠然と多くの個人が感じていると思います。

 少なくとも、現時点での経済財政諮問会議の資料では『加速=深化』というモデルが色濃く示されています。

 いずれにしても、今後、個人としての未来を考える上では、いわゆる『保守・革新』といった思想的なスタンスではなく、今回の経済財政諮問会議の資料で示された『既存の政策の連続性に対してどう考えるか?』といった問いで、自分のスタンスを捉えてみるのも良いかもしれません。個人のアクションとしては、『加速=深化』の動きに参加・参画していくこと、自分が重視する『加速=深化』あるいは『探索』的な政策を支持すること、あるいは民間において『探索』的な動きを具体化(事業活動、研究、発言)することが考えられます。

 簡単なまとめですが、皆様が踏み込んで考える材料となれば幸いです。


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