【オンライン診療・遠隔教育の今後】新型コロナウイルス感染症対策に関する特命タスクフォースとそのメンバー

はじめに(昨今の情勢と特命タスクフォース設置の背景から)

 コロナウイルス対応の一環として、2020年4月13日から初診からのオンライン診療が時限的に解禁されました。

オンライン診療での初診がスタート…新型コロナ感染拡大の特例措置で

 長らく、日本医師会を中心に反発が多く、規制の多かったオンライン診療ですが、3月末の経済財政諮問会議を皮切りに、新型コロナウイルスの特例措置として、大きく前進したことになります。3月末時点の報道では、このオンライン診療についての規制緩和策の策定は規制改革推進会議特命タスクフォースが当たる、とされています。

 興味深いことに本タスクフォースの検討対象にはダイレクトに『コロナウイルス』に関わるオンライン診療の他、『遠隔教育』に関する規制緩和も挙げられています。すでに休校措置などで日々の子どもたちの勉学に影響が出てきているように、教育分野も、まだまだオンライン化、遠隔化にはそぐわない規制などが残る現状があります。そのような、医療・教育分野の喫緊の課題に対して、規制緩和の観点から議論検討を進めるのが『新型コロナウイルス感染症対策に関する特命タスクフォース』ということなのでしょう。

 オンライン診療や遠隔教育の今後を考えるためにも、このタスクフォースでの議論対象や参加メンバーを、現行の発表資料から簡単に整理してみます。

 下記が特命タスクフォースに関する最初期の報道記事です。

 院内感染防止へオンライン診療 電話の初診解禁も 政府検討・新コロナ(時事通信)
 安倍晋三首相は3月末の経済財政諮問会議で、オンライン診療などに関する規制緩和策の策定を指示。これを受けて2日、政府の規制改革推進会議の下に設置された特命タスクフォース(議長・小林喜光三菱ケミカルホールディングス会長)の会合が開かれ、具体的な検討が始まった。来週中にも緩和策を取りまとめる。

 この特命タスクフォース(TF)は4月2日に発足し、すでに内閣府の規制改革推進会議のウェブサイトに、第一回の議事次第、資料が掲載されています。

新型コロナウイルス感染症対策に関する特命タスクフォース 議事次第

 なお、オンライン診療・服薬指導だけでなく、遠隔教育についても検討対象となっています。

1. オンライン診療・服薬指導について
2. 遠隔教育について

オンライン診療について

 まずオンライン診療については事務局(=政府サイド)から下記資料が提示されています。

新型コロナウイルス感染症の拡大防止のためのオンライン・電話による診療・服薬指導の活用について

  大きいポイントは、やはり初診のオンライン診療解禁でしょう。

風邪等の急性疾患の患者や受診歴のない患者についてもオンライン診療・電話診療の実施を可能とすべきではないか。

 『風邪等の急性疾患』や『受診歴のない患者』という風に、コロナウイルスに限った例示ではない点から規制改革という姿勢を感じますが、4/13時点で特例的に解禁されている現在を踏まえどういった議論がされるかは興味深いです。特例的とはいえ、初診診療が許可されているということは、誤診などのリスク面はかなりクリアできている、と考えられるため、今後は『恒久化』を前提とした課題が主にになると考えられます。後述の日本医師会の反発などに対して、どこまで説得的な議論ができるか、がポイントになりそうです。

 オンライン診療については、医師の職能団体であり、政治勢力としても有力な公益社団法人 日本医師会(日医)からも、強く懸念が表されており、コロナウイルス対策以前からも様々な議論がなされてきているだけに、今後の展開に注目です。

コロナ重大局面で「オンライン診療」に猛反対、日本医師会のズレた認識
日医が根拠としているのは、医師法20条の規定。同条は「医師は、自ら診察しないで治療や処方箋を出してはならない」と定めており、これを踏まえて日医の今村聡副会長は「医療の大原則は医師と患者の信頼関係に基づく対面診療にある。オンライン診療はあくまでも対面診療の補完であり、利便性のみで安易にオンライン診療が行われるのは不適切」と主張している。

遠隔教育について

 遠隔教育については下記のような論点が事務局から提示されています。


1 ICT 環境の早急な整備
新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、登校できない児童生徒が自宅等において端末を利用してオンラインでの授業が受けられるよう、可能な限り早期に端末が手元に届き通信環境も含め利用できるようにすべきではないか。


 リモートが一般化するほど、自宅にオンライン環境や適切な端末がないことは、大きなデジタルデバイド(デジタル環境の格差)に繋がります。これは、学校が『端末管理・貸出』、学校設置者である地方自治体が個別の家庭にまで『無料ネット環境』を提供できるのか? という非常に悩ましい問題でもあります。

 その他の論点も、遠隔教育と法制度という観点では、非常に興味深いです。先述のICT環境については勿論ですが『教師設置基準』『同時双方向』『単位取得数の制限緩和』などは今後の遠隔教育の普及、重要性に大きな影響を与える検討と思われます。オンライン診療が『短期的に重要な課題』とすれば、遠隔教育は休校期間が長引くほどに国民からの声が大きくなる『中長期的に重要な課題』であり、政策としての具体化もそう遠くないのでは、という印象です。


2 遠隔授業における受信側の教師設置基準の見直し
児童・生徒が自宅から ICT で行う学びについては、受け手側に教師が不在となるが、この場合であっても正式な授業に参加しているものとして認められるようにすべきではないか。
3 遠隔授業における「同時双方向」要件の撤廃
児童生徒が時間や場所の制限を受けずに学び続けられる環境を整えるため、授業の内容に応じ「同時双方向」以外のオンライン上の教育コンテンツを使用した場合についても正式な授業に参加しているものとして認められるようにすべきではないか。
4 遠隔授業における単位取得数の制限緩和
高校、大学における遠隔授業の単位取得数の算定について、柔軟な対応を行うようにすべきではないか。
5 オンラインカリキュラムの整備
児童生徒や学生が自宅等で学習を進められるように、オンラインカリキュラムの充実を図るべきではないか。
6 オンラインでの学びに対する著作権要件の整理
デジタルの資料配布を原則許諾不要・補償金とする改正著作権法について、これを即時に施行するとともに、令和3年度からの本格実施に向けて補償金負担の軽減のための必要な財政措置を講じることについて検討すべきではないか。

 このうち『6 オンラインでの学びに対する著作権要件の整理』については、すでに4/28に施行を前倒しが決定しており、補償金については著作権者団体である『授業目的公衆送信補償金等管理協会』が2020年度は特例的に0円とする発表を行っています。一方で、今回のコロナウイルス対策を機に遠隔教育の本格化が進めば、2021年以降の財政的な措置などは継続的に議論が必要となりそうです。

【新型コロナ】本当は有償だけど…オンライン授業、著作物使用初年度0円に
授業目的公衆送信補償金等管理協会(SARTRAS=サートラス)は、情報通信技術(ICT)による授業で他人の著作物を使用した場合の「補償金制度」について、4月内の立ち上げを決めた。初年度に当たる2020年度は補償金を0円とする。


 なお、この『特命タスクフォース』メンバーは下記の方々となっています。
 もともと、内閣に設置された規制改革推進会議の議員として関連するワーキンググループメンバー、若しくは、同様に内閣に設置された未来投資会議の関連する領域の方がメンバーとなっているようです(経歴などは筆者追記)。

小林 喜光
『内閣府規制改革推進会議』議長
三菱ケミカルホールディングス取締役会長
高橋 進
『内閣府規制改革推進会議』議長代理、経済学者。
 住友銀行等を経て、日本総合研究所、民間初の内閣府政策統括官など。
大石 佳能子
医療・介護WG座長
株式会社メディヴァ代表取締役。医療介護分野のコンサルティング。
日本生命、マッキンゼーを経て、メディヴァ創業。
菅原 晶子
医療・介護WG委員
経済同友会常務理事。2014年には厚労相の大臣補佐官を経験。
大槻 奈那
雇用・人づくりWG座長
マネックス証券 執行役員、金融アナリスト。大学教授など。
夏野 剛
雇用・人づくりWG委員
株式会社KADOKAWA取締役、株式会社ドワンゴ代表取締役社長CEO
N高等学校 理事。
金丸 恭文
未来投資会議議員
フューチャー株式会社 創業者、代表取締役会長。
翁 百合
未来投資会議 構造改革徹底推進会合「健康・医療・介護」会合会長
株式会社日本総合研究所理事長

 各々のメンバーの役職だけでも議論の方向の参考となりますが、すでにウェブサイトに掲載規制改革推進会議や未来投資会議での発言を調べると、より理解が深まると思います。

 コロナウイルスの終息及び経済への影響はまだ先が見えない状況ですが、コロナウイルスによってより強く顕在化している社会課題について、これを契機に大いに官民で議論されることで、大きく規制緩和・規制改革が進む可能性があります。もともと、規制や利害関係の調整、実行推進が難しかったが、コロナウイルスで『変わらないといけない』と誰もが実感しているからこそ、期待がかかるところです。
 新たな事業機会を検討する上でも、本タスクフォースに限らず、規制改革推進会議や未来投資会議の今後の動きに注目していきたいと思います。

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