兼業・副業のルールからフィンテック、デジタル広告まで。意外と身近な未来投資会議(第39回)

はじめに(未来投資会議とは?)

 本日(6/18)の安倍首相の会見において「未来投資会議を拡大し、幅広いメンバーの皆さんに参加頂いて、来月から議論を開始する」といった言及がありました。

 『未来投資会議』とは、内閣総理大臣を議長として、日本の成長戦略や構造改革を議論する官民対話の場として設定された政策会議体です。平成28年(2016年)から開催されており、現時点で39回に及びます。

 設置根拠をみると、下記のようにあります。

日本経済再生本部の下、第4次産業革命をはじめとする将来の成長に資する分野における大胆な投資を官民連携して進め、「未来への投資」の拡大に向けた成長戦略と構造改革の加速化を図るため、産業競争力会議及び未来投資に向けた官民対話を発展的に統合した成長戦略の司令塔として、未来投資会議(以下「会議」という。)を開催する。会議は、「日本再興戦略2016」(平成28年6月2日閣議決定)における「第4次産業革命官民会議」の役割も果たす。

 ポイントとしては「産業競争力会議及び未来投資に向けた官民対話を発展的に統合した成長戦略の司令塔」という部分で、官民の連携に力が入っている点が特徴的です。テーマは非常に幅広く、例えば『Society 5.0』といった成長戦略のコンセプトの議論から『デジタル市場のルール整備・フィンテック/金融分野の法制の見直し』(第33回)、『地銀・乗合バス等の経営統合・共同経営について』(第26回)といった個別具体的な規制改革についても論点となっています。実際に、この政策会議体で打ち出されたコンセプトが政府の政策の指針になっている事例も多く、その議論結果が報道されることも多々あります

 メンバーは以下の通りで、内閣総理大臣をはじめとした経済政策に関わる閣僚と、企業経営者を中心とした民間議員の対話の場、という性質が見て取れます。

未来投資会議 議員名簿(令和元年 10 月 25 日現在)
議 長 安倍 晋三 内閣総理大臣
議長代理 麻生 太郎 副総理
副 議 長 西村 康稔 経済再生担当大臣
兼 全世代型社会保障改革担当大臣
兼 内閣府特命担当大臣(経済財政政策)
同 菅 義偉 内閣官房長官
同 梶山 弘志 経済産業大臣
議 員 高市 早苗 総務大臣
同 萩生田 光一 文部科学大臣
同 加藤 勝信 厚生労働大臣
同 竹本 直一 内閣府特命担当大臣(科学技術政策)
同 北村 誠吾 内閣府特命担当大臣(規制改革)
同 金丸 恭文 フューチャー株式会社代表取締役会長兼社長 グループCEO
同 五神 真 東京大学総長
同 櫻田 謙悟 SOMPO ホールディングス株式会社
グループ CEO 取締役 代表執行役社長
同 志賀 俊之 株式会社 INCJ 代表取締役会長
同 竹中 平蔵 東洋大学教授、慶應義塾大学名誉教授
同 中西 宏明 一般社団法人日本経済団体連合会会長、
株式会社日立製作所取締役会長 執行役
同 南場 智子 株式会社ディー・エヌ・エー代表取締役会長

第39回 未来投資会議のテーマ(副業・兼業からフィンテック、デジタル広告、ポストコロナまで)

 未来投資会議のテーマや議論内容は、首相官邸Webサイトで公開されています。先行して議事資料が公開され、追って議事要旨などが公開される形です。最新の第39回(6/16)の未来投資会議のテーマは以下の内容でした。

兼業・副業の促進
フィンテック/金融
デジタル広告市場
今後のウィズコロナ、ポストコロナ時代の成長戦略の立案に向けた方向性

 すでに資料と「総理の一日」にて安倍首相の報道陣への発言が公開されているので、大枠で内容を把握することができます。

副業・兼業における「労務管理」問題解消への動き

まず、第一のテーマ「副業・兼業」について、安倍首相の発言は以下のとおりです。

兼業を希望する労働者は、近年増加傾向にあり、ウィズ・コロナ、ポスト・コロナ時代の働き方として、兼業など多様な働き方への労働者の期待が更に高まっています。他方で、実際に認められる人数は横ばい傾向にあり、働く人の目線に立って、環境整備を行うことが急務です。この会議では、兼業先の労働時間の管理が煩雑であるとして、労務管理責任の在り方について、ルールを整備すべきとの御意見が出ました

ここでいう「兼業先の労働時間の管理が煩雑」といった課題の詳細は配布資料によって確認できます。

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 現状では、副業・副業における労働時間は「通算して管理する」ことになっています。つまり、A社を本業として、B社・C社で副業した場合でも、労働時間には、B社・C社での労働時間も加算されるため、トータルでの労務管理を行う義務が、A社に発生する、という現状があります。過労死の原因となる過重労働の防止のためにも、労働者の健康管理は非常に重要な義務ですが、その点を重視する企業ほど、副業に対して慎重になってしまう、と課題提起されているわけです(なお、割増賃金などは、先行する業務を把握している後から契約した事業者に支払い義務がある、とされています)。

※この点、詳しくは厚生労働省による副業・兼業の促進に関するガイドラインQ&Aなどでも事例を追って触れられているので、興味のある方はガイドラインも参照してみて下さい。

労働基準法第 38 条では「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」と規定されており、「事業場を異にする場合」とは事業主を異にする場合をも含みます。(労働基準局長通達(昭和 23 年5月 14 日基発第 769 号))

 この問題に対して安倍首相は以下のように発言しています。

 今般、兼業先での労働時間の把握について、新たに労働者からの自己申告制を設けることとし、本業の企業の責任を明確化します。また、本業の企業が兼業先の影響を受けないで、労働時間や割増賃金の管理ができるよう、ルール整備を図りたいと考えます。加藤厚生労働大臣は、この会議での議論を踏まえ、労働政策審議会の審議を進め、早期に結論を得てください。

 具体的な対策は資料において下記のように提示されています。

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 つまり、今後の通達などにも依りますが、兼業における条件として、A社(本業)の所定労働時間を踏まえて、B社(副業先)の時間を規定すること、および、所定労働時間を超えた場合は、B社での労働時間短縮をさせることができる、といったルールが一般化する可能性があります。またB社(副業先)での労働時間において、労働者が嘘をついていた場合、A社(本業)は責任を問われない、といった免責がセットになるのもポイントでしょう。

 この議論は今までも厚労省を中心に議論されてきたものですが、こうした具体的な議論に対して、首相からメッセージが発せられる、というのが未来投資会議の特色でもあります。そしてまた、規制改革などを中心に、比較的早期に現実化することが多いのも注目に値する点です。

全銀ネットへの直接接続でキャッシュレス決済がより普及する?(フィンテック分野)

次いで、安倍首相の発言は金融システム、フィンテック分野に続きます。

 第二に、金融システムについて、議論を行いました。新型コロナウイルス感染症の影響で、キャッシュレス決済を利用する方が更に増加しています。他方で、振込手数料の高さが、キャッシュレス決済普及の障害となっています。このため、銀行のみが参加を認められている、全銀システムについて、キャッシュレス事業者が直接参加できる道をひらくとともに、40年以上不変である銀行間手数料について、合理的な水準へ引下げを図りたいと考えてます。麻生金融担当大臣は、具体的な検討を進めてください。

 まず、振り込み手数料への言及はメディアなどでも報道されました。資料にもある通り、全銀システムへの接続が銀行のみに限定されている点を踏まえ、全銀システムへキャッシュレス事業者が直接接続できれば、銀行間の送金における払込手数料が減額される、というメリットを指摘しています。

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 より具体化した方向性が下記のスライドです。全銀ネットや銀行のコスト構造への課題感が示されています。

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 なお、この問題は、公正取引委員会からも指摘があり、すでに全国銀行協会会長は、全銀ネットの公開について「年度内に方向性」と発言しています。また、未来投資会議での課題提起についても検討すると述べていることが分かります。

全銀協会長、送金インフラ開放「年度内に方向性」(日経)**
 全国銀行協会の三毛兼承会長(三菱UFJ銀行頭取)は18日の記者会見で、金融機関どうしの送金インフラである「全銀システム」をフィンテック企業などに開放することについて「年度中をメドに何らかの方向性を出す」と述べた(中略)安倍晋三首相が政府の未来投資会議で引き下げを求めた銀行間手数料については、個別の銀行どうしの交渉が前提とした上で「全銀協も当局と議論を重ねて進め方を整理する。全く新しい仕組みを考える必要がある」とした**。

デジタル広告は、公正性・透明性を問われる流れ

 第三のテーマ、デジタル広告について、安倍首相の発言はこうです。

 第三に、デジタル広告市場の在り方について、議論しました。デジタル広告費は、日本の広告費全体の3割を占めるまでに成長しており、その健全な発展を図るためには、取引内容の公正性の確保や透明性の向上が大切です。菅官房長官及び西村経済再生担当大臣を中心に、具体的な対応の検討をお願いします。

 やや抽象的なので、資料の方を参照してみましょう。

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 冒頭に「プラットフォーム事業者による寡占化」による「突然のルール変更」「取引内容の不透明性」「閲覧数の水増し対策」が具体的に挙げられています。次スライドも含め、対応の方向性が列挙されていますが基本的には「透明化」「公正な競争」、一般消費者による情報のコントロールなどが続きます。

 なお、この点は、政府の「デジタル市場競争会議」でより詳しく議論がされており、政府の大きな方向性としてある「(巨大IT)プラットフォーマー企業」への対応の一環として「デジタル広告」も特に対象とした、と言えるでしょう。なお、これ以前に「ネット通販」「アプリストア」が規制対象事業として検討されています。

巨大ITのネット広告、価格開示義務化へ 政府が規制案(朝日新聞)
 政府は16日、「プラットフォーマー(PF)」と呼ばれる巨大IT企業への規制の一環として、ネット広告の価格の開示や第三者による表示回数などの測定を義務づける方向で検討することを決めた。広告主やメディアなどから不透明だとの指摘があり、透明性や公正性の改善を図る狙いだ(中略)5月に成立した新法「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律」で、ネット通販とアプリストアに続く3番目の規制対象事業に加える可能性がある。(益田暢子)

ウィズ・コロナ、ポスト・コロナの議論はこれから

 最後に、安倍首相はウィズ・コロナ、ポスト・コロナという切り口で、この夏以降の検討課題について議論したことを述べています。

 最後に、ウィズ・コロナ、ポスト・コロナ時代の成長戦略について、この夏以降の検討課題について、意見交換を行いました。今回の新型コロナウイルス感染症の拡大の中において、この未来投資会議の中で、既に議論をしてきた社会の動向性について、こういう方向性について進んでいくべきだという課題について、正に現実に様々なことが必要となったわけであります。テレワークもそうでありますし、オンライン化を進めていく、あるいは、データの活用重視等々もそうなんですが、そうしたものを実際これからいかに加速度を上げて進めていくか、ということが求められているのだろうと思います。

 具体的に民間議員から出された意見が「ウィズコロナ、ポストコロナ時代の成長戦略の立案に向けた 各民間議員の意見」資料です。

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 3スライドに渡り、非常に様々な内容が記載されていますが、今後、これらの内容は、未来投資会議やその他政策会議にて議論されていく可能性が高いテーマ、といえます。ポイントとしては「ウィズコロナを強く意識した対応」("デジタルトランスフォーメーション"や"人の往来とリアルワールドの再開")に加えて「ポスト・コロナでも変わらず日本の政策課題」が列挙されていることです。
 特に「労働」や「教育・研究」については、裁量労働の拡大や労働市場流動性への言及、大学教育や初等教育改革について意見が述べられています。この点は、2020年以降の日本の労働・文教政策を考える上でも重要な指針になると思われます。

未来投資会議の今後

 冒頭の安倍首相の発言(「未来投資会議を拡大し、幅広いメンバーの皆さんに参加頂いて、来月から議論を開始する」)については「検討体制」に述べられた、以下の方針も含んだものと思われます。

コロナ危機に対する今回の対応を検証する部会、アフターコロナ社会の構想を検討する部会を、未来投資会議に設けるべき。【竹中議員】
○ 産学官の実際の行動変化をひき起こし、優先すべき施策の社会実装を促進するためには、「なぜこれまでできなかったのか」という要因分析と、それを踏まえた規制改革やインセンティブ(ディスインセンティブ)設計に力を入れていく必要。そのためにも、未来投資会議と経済財政諮問会議・規制改革推進会議の連携が重要。【小林会長】

 経済財政諮問会議については、過去に記事でも触れていますが、国の経済財政政策についての政策会議です。

【『経済財政諮問会議』資料を読む】コロナ対策としての『デジタルニューディール』(あるいは、辻褄合わせとしての『アフターコロナ』?)
 『経済財政諮問会議』とは内閣府設置法18条を根拠に設置されている政策会議で、総理大臣をトップとして、国の経済財政政策について財務大臣や経済政策担当大臣など関係閣僚と日本銀行総裁、民間議員らで構成されています。

 官民対話の場である未来投資会議と経済財政諮問会議の連携は「具体的な課題の社会実装を早める」という政府の方向性を強める可能性があります。その是非については様々な議論がありますが、身近な問題においても、規制改革や変革が加速する可能性が大きい、といっても良いでしょう。

 国の政策会議というのはどうしても遠くに感じますし、メディアでも概要しか報道されないことが多いのですが、このように意外と身近なルール変更、または、自分たちに関係あることが議論されている、というのはもっと知られてもよさそうです。

 興味のある方は「経済財政諮問会議」の資料もぜひ読んでみて下さい。

【『経済財政諮問会議』資料を読む】ちょっと先の未来を考え、動くために

以上


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