「魔法の一言」のウソ

 本屋に行くとたくさんの「魔法の言葉」「魔法の一言」など、「これを言えば、思い通りになる」というような内容をうたう本を見かけます。もちろん著者は「たった一言で思い通りになる」なんてことは思っていないだろうと思います。また、「言葉」が重要なものだということは、その通りであると考えられます。
 しかしながら、「一言で思い通りになる」ということは危険な発想を生むし、それを期待した読者は「思い通りにならないではないか」と落胆することになるでしょう。

関係づくりこそ、重要

 「この人の言うことなら間違いないだろう」「この人のお願いなら聞こう」といった気持ちになったことはないでしょうか?それはなぜでしょうか?「魔法の一言」があったからでしょうか?いえ、違います。
 その人との「関係性」だからこそ、そのような気持ちになったのです。一言にこだわるのではなく、「関係性をいかに築くか」にこだわってほしいのです。

どのように築くか

 では、関係性とはどのように築けばよいのでしょうか?それがわかるためには、すでに関係性が築かれている人たちの事例を第三者の視点で分析することが重要です。

同じ目標を持ち、共に働く

 Aさんは、新しい職場に就きました。そこである先輩と一緒にプロジェクトを進めることになりました。Aさんははじめ、「うまくやっていけるだろうか?」と不安でした。先輩は、自分で決めるだけでなくいつもAさんに相談して、意見をもらい、取り入れながらプロジェクトを進めていきました。プロジェクトが終わる時には、Aさんの中で、先輩との間の言葉にならない絆のようなものを感じるようになっていました。

 この事例では、どうしてAさんと先輩の間に絆が生まれたのでしょうか?
 それは、プロジェクトの中で「同じ目標を共有し、それに向けて【共に】働いてきた」からです。もし先輩が、上に立つ人間として振る舞い、命令だけしていたらどうでしょうか?おそらくこのような関係になっていません。
 このような、相談しながら事を進めていくような関係をアドラー心理学では【横の関係】と言います。横の関係とは、「友達になれ」ということではありません。先輩は先輩という【役割】がありますが、【人間の価値としては対等】という意味です。
 逆に、上の位置から命令するような関係を【縦の関係】といいます。このような関係を築くと、Aさんは、従順になるけども主体性のない働き方になります。もしくは、先輩に対して復讐をするでしょう。縦の関係を築いて、関係性が良くなることは、まずありません。

人のために働く

 世間を見渡してみると、多くの人が、お金のために働いているように見えます。また、社会的地位を得ることが目的の人がいるようにも見えます。皆さんは、非常にお金にがめつい人を見た時、社会的地位にしがみついている人、社会的地位を得るために他の人を蹴落とすような行為をしている人を見て、どう感じるでしょうか?腹が立ったり、眉間に皺が寄るほど嫌悪感を抱いたりふる人もいるかもしれません。
 そのような働く目的をもっていると人と良い関係性を築くことは難しいかもしれません。そのような目的を持っていると、他人が「仲間」ではなく、「道具」に見えてくるので、よい関係が築けるわけがありません。結果的に不幸になるでしょう。
 この社会はよく観察してみると、人間が協力し合って成り立っています。私が着ている服は誰かが作ってくれていますし、私が食べる食事は誰かが野菜や動物を育ててくれています。もっともっと深く考えれば、野菜の肥料や動物の食事を作っている人もいるし、それを運んでくれている人もいるし、その施設を建設している人もいるわけです。私たちは、自分1人の力だけで生活を成り立たせることは不可能なのです。
 そのように考えると、今日私が働くことは、誰かのためになっているのです。私が今日生きることは誰かを生かすことになるのです。職場の狭い世界でもそのように考えてみるとどうでしょうか?「同僚のあの人のために、この仕事を丁寧にしてあげよう」「同僚のあの人が疲れているように見えるなぁ、一声かけておこう」と行動が変わってくるはずです。そうした行動をしているうちに、関係性もより良く築かれていくはずです。

終わりに 周りの幸せが私の幸せ

 究極的に見ると、自分の周りの人々が幸せにならなければ、私自身も幸せにならないのです。家族の中に不幸そうな顔をしている人がいたら、本心から幸せだと感じられないでしょう。そう考えると、自分の力を最大限に使って、周囲を幸せにすることが、最終的には自分も幸せになるのです。
 良い「関係づくり」をして、あなた自身も幸せになっていただきたいと思います。

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