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書評『THE やんごとなき雑談』/雑談の醍醐味を知る

こんにちは。エディマートの恒川です。

第4回となる『エディマート読書部』ブックレビュー。今回は、俳優・中村倫也さんのエッセイ集『THE やんごとなき雑談』をご紹介します。

突然ですが、みなさんは雑談って好きですか?

家族や友人、仕事仲間、取引先など、人とコミュニケーションをとっていると、ふとした瞬間に無言の時間が気になり、「何か話さなければ…!」と焦ったりした経験はありませんか? こんなとき、何か鉄板ネタや盛り上がる雑学なんかを蓄えておくと会話が楽しいだろうな…といつも思います。

そんな「雑談」に対する憧れや悩みを持つ人におすすめしたいのが、今回ご紹介する本。文芸雑誌『ダ・ヴィンチ』で2018年11月号から2020年11月号まで続いた中村倫也さんの連載が書籍化されたエッセイ集です。

伸び伸びとした中村さんらしい言葉のチョイスや展開は、まさに雑談そのもの。ユーモアあふれるエピソードと思考の数々に、ずっと読んで(聞いて)いたくなる、そして思わず相槌を打ちたくなる…そんな雑談の楽しさを感じられる一冊です。


書籍情報

THE やんごとなき雑談
著者:中村倫也
出版社:KADOKAWA
発行:2021年03月

この本を手に取ったきっかけ

取材や撮影、打ち合わせなどコミュニケーションの機会が多い、私たち編集者の仕事。形式的に決められた挨拶や説明、短い相槌だけでは会話が続かず、その場の空気が盛り上がらずに終わってしまう…なんてこともあり得るわけです。いわゆるアイスブレイクが必要ということですね。

「雑談がサラッとできる人ってかっこいいな」「話し上手な人って素敵だな」そんなことを思っていたときに、タイトルに惹かれ、出合ったのがこの本でした。

もともと俳優としての中村さんが好きだったこともあり、雑誌のインタビューやバラエティ番組などで見かけたときに、言葉のチョイス人を惹きつける話し方に魅了されたというのも、本書を手に取ったキッカケの一つです。

どんな本?

コンセプトは「“考え続ける”エッセイ」。ふと思い出す少年時代の記憶や、プライベートで経験したこと、俳優としての日常で感じた疑問など、中村さんの脳内に浮かんだあらゆる思考が、読者へストレートに届けられます。

不思議なもので、私が感じていた中村さんならではの話し方のクセや雰囲気が、文章にそのまま表れているのが本書の魅力。その場に居て、目の前で雑談を聞いているような感覚に包まれるのです。

例えば、乗っていた電車に現れた蛾を中村さんが素手で掴み、ホームに逃したら乗客にドン引きされてしまった話の一節。

僕はこの九両目に舞い降りたメシアじゃないのかい?君たちは感謝すべきなんじゃないのかい?ああ、僕のこの目線はムシですか。吊り革を掴むなと言いたいんですか。

本書より

役柄としてではなく、素の中村さんが話す姿をテレビやラジオで一度でも見たり聞いたりしたことがある方は、ピンときませんか?これこそ聞く人や読む人をワクワクさせる、中村さんの武器の一つなのだなあと思います。

わたしの感想

雑談とは本来、聞いている相手がいてこそ成立するもの。この本は、ただひたすら、ひとりごとを書き綴っているようにも感じられるかもしれません。中村さん自身も、本書のあとがきで以下のように振り返っています。

もうちょっと何か軸のある一冊になるかと思いきや、うーんこれは何の本なんだ?これでいいのか?でもこのあっちゃこっちゃ行ってる飛び石のような通路が、僕の二年間のリアルのような気もするぞ。うん、そういうことにしちゃえ。必死に自分に言い聞かせながら、淹れたてのブラックコーヒーをお供に今、あとがきを書いている。苦い。

本書より

この本は要約すると「私、中村はこう思いました」って言ってるだけじゃん!なんかすっごい恥ずかしいんですが!!

本書より

もう、この一節たちだけでもおもしろいのだから、ずるいですよね。

こう語る一方で、連載の最終回では2年間を振り返り、改めて「やんごとなき」と「雑談」の意味を調べたという中村さん。それらを要約し、

「どんなに下らないと思える話でも、それはきっと気高く、価値のあるものである」というささやかな願いだ。

本書より

と、自ら名付けた「やんごとなき雑談」というタイトルに込められた意味も述べていました。

相手に何かを問うわけでも、誰かを諭すわけでもない。ふと思い出した過去のこと、最近気になっていること、ずっと思っていたこと…。突飛なネタではなくても、これらは伝え方次第で、いくらでもおもしろくなる!それが雑談の醍醐味なのかもしれない、と思うことができました。

本書のように自分の意見や感想、体験したエピソードなどを自由に綴るエッセイは、著者によって個性もさまざま。雑談のヒントにしたくなるような、お気に入りの著者を見つけてみてはいかがでしょうか。



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