見出し画像

なぜ創業2年で日本初の浮上試験に成功できたのか――eVTOL(空飛ぶクルマ)を開発するHIEN Aero Technologies事業説明会レポート

ハイブリッドeVTOL(イーブイトール:電動垂直離着陸機)を開発するHIEN Aero Technologies(以下、HIEN社)が7月2日、オンラインウェビナーで事業説明会を開催しました。

同社のCEO 御法川氏、CTO 谷津田氏、チーフエンジニア 高橋氏の3名が登壇した内容を抜粋して紹介します。

※全編は以下の動画でご確認いただけます。


HIEN社は7月11日(木)19:30より、イークラウドにてクラウドファンディングに挑戦する予定です。


HIEN Aero Technologiesは、ハイブリッドシステムと独自開発の機体を用いて実用的な航続距離を持つスケーラブルなeVTOLの開発を進めるスタートアップです。

eVTOLは電動垂直離着陸機のことで、電動モーターによる単純な制御で浮上・推進するため、従来のヘリコプターに比べ「操縦が簡単」で「低騒音」「メンテナンスコストも安い」のが特徴です。

一方、これまで開発の主流となっていた純電動のeVTOLは、電池性能の制約から飛行時間が10分程度に限られるのが大きな課題となっています。

ガスタービンハイブリッドで飛行時間とペイロードを拡大

HIEN社は純電動が抱える課題に対して、ガスタービンを用いたハイブリッド方式でアプローチします。これにより、電池の性能を上回るエネルギー密度で長距離飛行を可能にすることで、eVTOLの活用シーンを広げていきます。

2030年には、5~6人乗りのエアタクシーの実現を目指す計画です。

初期の適用分野として想定しているのは、物流分野や防災・防衛などの危機管理分野です。トラックドライバー不足による物流の問題や、災害時の緊急物資・人員の輸送などにeVTOLを活用します。将来的には旅客輸送への展開も視野に入れています。

「強みは圧倒的な開発スピード」

現在、HIEN社は「HIEN Dr-One」と呼ばれる重量100kgの大型無人機を開発中です。2機のガスタービンハイブリッドを搭載し、20kgの荷物を往復100km運ぶことを想定しています。

基礎設計からガスタービン発電による試験機体の浮上試験を経て、わずか2年足らずの2024年3月には実機体でのハイブリッド浮上実験に成功しました。御法川氏は「この開発スピードの速さこそが我々の強みです」と力説します。

「大企業とは違うオープンな開発スタイルを取ることで、早期の市場投入を目指します。要素技術は既存のものを活用し、制御やソフトの部分で差別化していくのが我々のやり方です」(御法川氏)

eVTOLの市場規模は、2030年で約1兆円、2050年には180兆円を超えると予測されています。HIEN社は2030年に事業規模110億円を目指しており、無人航空機、有人航空機、ハイブリッド原動機ユニットの販売を軸に事業を展開していく計画です。

質疑応答

説明会では、事前に寄せられた質問への回答も行われました。

Q. ハイブリッド方式はEV化の流れに逆行しないか?

御法川CEO: 電池性能の制約から、純電動では飛行時間が極めて短くなってしまいます。性能が10〜20倍になれば純電動は主流になると思いますが、そういった電池のブレイクスルーは遠い先だと考えています。ハイブリッド化で飛行時間とペイロードを伸ばすのが現実解だと考えています。

また、電池には製造・廃棄コストの問題もあります。eVTOLは大量の電気を使うため、電池の寿命があっという間に来てしまいます。電池にかかるコストを考えると、ハイブリッドに分があると考えています。

谷津田CTO: eVTOLの電池は過酷な使われ方をするため、地上を走る電気自動車と比べて寿命が極端に短くなることが予想されます。物流を考えているeVTOLメーカーはハイブリッドにシフトしているのが世界の潮流です。

Q. 法整備についてどう考えるか?

御法川CEO: 世界のルールメイキングに合わせて日本でも環境整備が進んでいます。技術的にクリアしていくのがメーカーの役割です。私自身、法政大学の教授として経済産業省の「空の移動革命に向けた官民協議会」のメンバーでもあり、アカデミックな視点から最新の議論に関与できていることも強みの1つだと考えています。

Q. 知的財産を保有する予定は?

谷津田CTO:我々のハイブリッドシステムは業界的には「そんなことできないだろう」と言われるような仕組みになっています。最も重要な部分が制御のアルゴリズムで、特許を取るには中身を公表しなければいけませんので現時点では保有していません。必要なものがあれば今後検討していきます。

Q. ライバル社に対する優位性は?

御法川CEO: 我々の強みは開発スピードの速さです。要素技術は既存のものを活用し、制御やソフトの部分で差別化します。大手は技術を全て自社開発して内部に貯めようとしますので、いち早く市場投入していく我々とは進め方が異なると考えています。我々はオープンな開発スタイルを取り、さまざまな部品メーカー、機械メーカーなどと協業しながらチームプレイで進めていきます。

Q. 大手も参入するeVTOL事業でスタートアップの強みは?

御法川CEO: 日本の航空業界はずっと大型機の開発をしてきました。一方でeVTOLは小型航空機です。事業規模も100機、1000機という単位になりますので、大企業が製造しようとすると人員・生産体制が過剰になってしまいます。ヨーロッパには小さな工房のような航空機メーカーがたくさんあって大型から小型まで航空産業のクラスターを形成していますが、日本にはそれがありません。大手が参入しにくい分野であることこそが、我々の強みであると考えています。

Q. 今までどうやって開発資金を賄ってきたのか?

御法川CEO: 受託開発の収益で回しています。補助金に頼らない開発が我々の特徴です。

Q. たった3人でできるのか?

御法川CEO: 我々3人の異なる専門性とチームワークが強みです。開発パートナーも増えており、志を同じくする仲間と力を合わせて目標達成を目指します。

地方の課題解決に貢献するのが原動力

プレゼンテーションの最後には、谷津田CTOが「私の出身地である福島県浜通りでは過疎化が進み、高齢者の移動手段が大きな課題となっています。eVTOLなら15分で県庁所在地まで行くことができます。こうした地方の問題解決に貢献したいという想いが、eVTOL実用化に向けた私の原動力です」と語りました。

日本発のeVTOLスタートアップが、新たな航空機産業の未来を切り拓きます。HIENの挑戦から目が離せません。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?