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窓の向こうのゆりかごから墓場

この記事は文化人類学を中心に据えつつ、面白いと思ったことを色々やってみよう、という実験集団「井戸端人類学 F2キッチン」の運営に関わる一個人の感想やコメントを含めた非公式記事です。
とはいえ、記事にご寄付いただいた場合は大切に運営に使わせていただきます。

2023年7月2日に開催した井戸端人類学 F2キッチンのオンラインイベント。

京都文教大学 ニュータウン研究会の成果である、杉本星子/三林真弓編『居心地のよい「まち」づくりへの挑戦:京都南部からの発信』(Knit-K,2023年 )の出版を記念して、京都市伏見区に位置する向島ニュータウンの住民らと、その隣に建つ京都文教大学の研究者らが協働してきた「まち」づくり実践について、編者や執筆者の報告や対談を通して紹介する3回シリーズで企画しました。

本に関する情報はこちら

イベント第1弾の今回は「高齢者」がテーマでした。

今回の舞台、向島ニュータウン

ニュータウンは日本のあちこちにありますが。今回のフィールドは京都市伏見区の南部にある向島ニュータウン。京都市住宅供給公社が主体となって公営の集合住宅が作られました。

どんな所なのか。景色は京都市の制作した動画でイメージしていただけるかなと思います。

ニュータウンは社会課題の縮図

ニュータウンはこんな風に表現されることもあるそうですが、書籍のベースとなったニュータウン研究会の調査からも広く社会で課題になるような話題が10年ほど早く表出しているとのこと。

1977年に入居を開始した第一世代が高齢となって、今回の進行役をしてくださった中林 浦井 基子さんが関わっておられる東京都練馬区の高齢者率に比べても向島ニュータウンの高齢者率は高いようです。

今回は進行役でご自身も介護現場に関わりながら介護に関する研究を行っている中林浦井基子さんが執筆者の一人である、向島地域包括支援センター長の阪内(ばんない)あゆみさんへのインタビューでお聞きした話を報告することで現状についてお話し(この日はご都合が悪く登壇は叶わず)を。

本のなかで阪内さんとの往復書簡によるインタビューをされた、京都文教大学名誉教授の西川祐子さんからニュータウンとの関わりや過去に実施されていた暮らす人々の個人史調査を実施された時のエピソード、調査で語られた歴史から見えてきた生活様式、ジェンダーについてもお話くださいました。

住まいの変化、暮らしの変化

農耕を中心とした農村生活主流からサラリーマン主流となる時代の中で、サラリーマン家庭のベッドタウンとしてニュータウンが発展。
農村地域から嫁いだ女性たちにとっては、男性の家族と共に同居を前提にニュータウンでの暮らしは、それまでの農村での暮らし方と生活様式が大きく変わったようです。

男性は日中は都市部へ仕事に。女性は専業主婦として家事を担うケースが多く「昼間は女、子どもだけのまち」と呼ばれたのだとか。本の中に書かれたお話とはまた違った切り口で、お話を伺うことができました。

高齢者の居場所や阪内さんのお話で包括支援について伺いながら。
ニュータウンでの入居がスタートした当初の「ニュータウン第一世代」の女性は専業主婦として同居する親も含めたケアをしていた人々。きっと親の介護も担っていたと思います。そして今。第一世代は介護を受ける側になっている頃。

身内による介護が主流だった時代から介護事業者に介護される時代。
介護に限らずではあるけど、自分がやっていた様式から変容した今の様式をどう受け取っているんだろう?と思いました。

また、急遽コメンテーターを引き受けてくださった、家族社会学者の春日キスヨさんからは広島の事例を用いながら今回の報告に対して、コメントいただきました。

春日さんに続いてベースとなる書籍の執筆もしておられる、京都文教大学の馬場さんからもコメントをいただくことで、どの地域にも共通すること、向島ニュータウンの特長と感じるところが浮かび上がった気がします。

ニュータウンと再開発のまち

このイベントでのお話からふと思い出したのは、大きな工場跡の再開発として建てられるマンションや住宅で成るまち。
企業主導の開発で分譲住宅が多い点は従来のニュータウンとは少し異なるのだろうけど、一時は若い世代が集まり活気も感じるまちは歴史を重ねると共に暮らす人の年齢層の移行や世代交代、建物の老朽化などやってくる課題には共通することがあるのは予測できる。
賃貸中心の公営住宅の多い地域と個々人が所有する分譲住宅の多い地域との相違はもしかしたら、今後の比較対象として調査を行うと興味深いのかもしれないとも思いました。

次回はおそらく秋ごろ?
次はどんな窓の向こうの暮らしにフォーカスするのか、お楽しみに。

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