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経済学101は経済学に基づいた分析や論説をオンラインで無料提供することを目的として設立された一般社団法人です。 主に海外の経済学者、研究機関と提携し、英語・フランス語の論説の翻訳も提供しています。 本サイトURL:https://econ101.jp/

最近の記事

ノア・スミス「新しい進歩派の経済学: 建設的な批判を少々」(2024年7月29日)

総需要不足に頼らない経済学への進歩的アプローチが必要だ「ネオリベラリズム」とこれを変えたがっているアメリカの進歩派たちについて,マット・イグレシアスが一連のとても興味を引く記事を書いている.最初の記事で,イグレシアスはこう論じている――ネオリベラル政策革命は,圧倒的で広範囲に及んだと多くの進歩派たちは考えているようだけれど,実際にはそれよりずっと限定されていた(イグレシアスの主張は正しい).2つ目の記事での主張はこういうものだ――アメリカの旧来の対中国貿易政策にあった最大の問

    • ノア・スミス「ベーシックインカムとAI失業: うん,ぼくらはまだまだ働かないといけないみたい」(2024年7月25日)

      自動化の進んだ優雅な楽園は,いまだに SF でしかない今週のニュースまとめ記事では,ベーシックインカムの実験から得られたがっかりな結果に注目した〔日本語記事〕.〔3年間にわたって〕1ヶ月ごとに 1,000ドルを受け取ると,その人たちの 2% は働くのをやめてしまう.これは顕著な数字だ.だって,一月に1,000ドルでは自立した暮らしを成り立たせるのに足りないからね.この研究結果から,もっと大規模な国民皆ベーシックインカム (UBI) を実施したらさらに大きな割合の人たちが働かな

      • アダム・トゥーズ「ガザ: ネタニヤフの《経済的平和》という夢想のような経済地理構想の現実的な役割」(2024年5月23日)

        正直に白状すると,はじめて上記の画像を見たときには,「なにかのでっち上げ画像だろうか」と思った. 天を突く高層ビル,太陽光発電所,コンテナ船,洋上の石油採掘施設――生成 AI で出力した都市・地方集住地の理想像で,集中管理された豊かな都市国家が描かれている.シンガポールかアブダビのような様相を見せるこの図像には,しかし,具体的にどことわかる見知った感覚はあまりわいてこない. だが,これはインチキ画像ではなかった.これは,2035年のガザ地区の図像だ.イスラエルのネタニヤフ

        • サイモン・レンルイス「量的緩和が質的に重要であって量的にさほど重要でない理由」(2024年5月21日)

          最近,量的緩和 (QE) がどんなところで重要な役割を果たしたかについて2つほど記事を書いた.たとえば,こちらの記事では,量的緩和が政府財政に大きな穴を開けることになりうる理由について書いた.また,政府がその気になれば国債を売るのではなく貨幣創出によって容易に財政赤字のお金を調達できることが量的緩和からどうわかるのか,という点についても書いた.今回の記事では,量的緩和が質的に重要である理由を解説する. この10年のあいだに書いた記事のひとつも,類似の主題に関わっていた.緊縮

        ノア・スミス「新しい進歩派の経済学: 建設的な批判を少々」(2024年7月29日)

        • ノア・スミス「ベーシックインカムとAI失業: うん,ぼくらはまだまだ働かないといけないみたい」(2024年7月25日)

        • アダム・トゥーズ「ガザ: ネタニヤフの《経済的平和》という夢想のような経済地理構想の現実的な役割」(2024年5月23日)

        • サイモン・レンルイス「量的緩和が質的に重要であって量的にさほど重要でない理由」(2024年5月21日)

          ノア・スミス「書評:ブラッドフォード・デロング『20世紀経済史――ユートピアへの緩慢な歩み』」(2022年6月12日)

          出版前の本の書評を書くのは,これがはじめてかも! ありがたいことに,ポッドキャストのホスト役をいっしょにやっているブラッド・デロングの近刊を一冊確保できた.出版予定日は9月6日だ.それまでの場つなぎとして,高まってるみんなの期待をこの書評で支えられたらいいなと思う. ブラッド・デロングは現在経済史に関して百科事典のように通暁してる.それでいて,読者をおじけづかせない文体の書き手でもある――かく言うぼくが経済学ブロガーになりたいと思った最初のきっかけは,2000年代中盤に彼の

          ノア・スミス「書評:ブラッドフォード・デロング『20世紀経済史――ユートピアへの緩慢な歩み』」(2022年6月12日)

          ノア・スミス「自由民主主義はこんな風に21世紀を失うかもしれない」(2024年5月22日)

          情報と自由に関するちょっとゾッとするささやかな理論 自由主義が勝利の凱歌をあげている時代に,ぼくは育った.自由民主主義が勝利して,20世紀をわがものにした――帝国主義もファシズムも共産主義もみんな崩壊して,20世紀末には,アメリカとアジア・欧州の民主主義同盟国が経済面でも軍事面でも上り調子だった.中国ですら,依然として独裁国家ではありつつも,この時期に経済と社会の一部を自由化した.フランシス・フクヤマの『歴史の終わり』に鼻白んだ学者たちも,総じて,資本主義および/あるいは自

          ノア・スミス「自由民主主義はこんな風に21世紀を失うかもしれない」(2024年5月22日)

          ノア・スミス「日本は外国人嫌いの国じゃないよ」(2024年5月7日)

          日本には大勢の移民がやってきているし,移民推進政策もやっているし,人々はおおむね移民受け入れに前向きだ 先日,選挙資金集めの集会でジョー・バイデンが何の気なしに口にした言葉は,彼が大統領の任期中にこぼしたなかでも最悪の失言だったとぼくは考えてる.アメリカにとってとりわけ重要な同盟国であるインドと日本を「外国人嫌い」と言い放ち,さらに,ロシア・中国と同列に括ってしまった: 外交の観点から見ると,これはきわめて愚かだ.同盟国を侮辱する一方で得ているものはまるっきりゼロだからだ

          ノア・スミス「日本は外国人嫌いの国じゃないよ」(2024年5月7日)

          ノア・スミス「日本は通貨危機におちいってるの?」(2024年4月29日)

          もしも日本が通貨危機におちいったら,世界経済が土台から揺らいでもおかしくない.まだ,日本の通貨は自由落下してはいない.でも,そうなるかもしれない.2021年から円は安くなってきているけれど,先月,その動きは加速した: 最新の為替相場では,円がさらに下げて,1ドル154円から160円にまで進んだ. この20年ほどのあいだ,日本を訪れたときにはたいてい頭の中で「1円はだいたい1セントか,あとちょっぴり安いくらい」と考えておいて困らなかった.いまや,円はだいたい 0.63セント

          ノア・スミス「日本は通貨危機におちいってるの?」(2024年4月29日)

          ノア・スミス「安楽死の歪んだインセンティブ」(2024年4月3日)

          「死んではいかが」とほのめかすのは,納税者のお金を節約するいい方法じゃないね 今回の記事では,繊細で扱いにくい話題をとりあげる:安楽死,別名「死亡幇助」について語ろう. 原則として,安楽死はしてもいいとぼくは思ってる.頭脳が正常な状態にあるかぎりなら,おぞましい苦痛を耐えながら生き続けるかわりに死ぬのを選ぶ権利が人々にはあるとぼくは信じてる.安楽死のことを考えても,ぼくは嫌悪感を覚えないし,心の奥に深く根ざした道徳的禁忌に触れたりもしない.この点についてぼくと意見がちがう

          ノア・スミス「安楽死の歪んだインセンティブ」(2024年4月3日)

          ノア・スミス「『技術革新と不平等の1000年史』書評」(2024年2月21日)

          ダロン・アセモグルとサイモン・ジョンソンの大著を読んでも,技術革新で自動化が進まないようにする必要があるって話に納得はできなかった. いたるところで「2023年の最重要ビジネス書」のリストに『技術革新と不平等の1000年史』が挙がっていたのは,意外でもなんでもないだろう.まず,著者たち自身の経歴からして,比肩する者がいない.ダロン・アセモグルのことを経済学界の発電所と呼んでも,本人の実績にばかばかしいほど釣り合わない: それに,アセモグルは国々の発展を制度から説明する説の

          ノア・スミス「『技術革新と不平等の1000年史』書評」(2024年2月21日)

          ノア・スミス「現代の大学業界のどれくらいがムダなんだろう?」(2024年1月7日)

          ズキズキする問いだけど問わないといけない この何年ものあいだ,ぼくは政治的な右派の批判者たちから大学制度を擁護してきた.たとえば,2017年には,大学で行われている活動の一部にかかる税金を引き上げようという共和党の計画に対して,こんなことを書いた: この点はいまも正しい.ただ,あれから7年経って,ぼくは次の点をいっそう強く思うようになった.アメリカの大学制度にはより大きな外部監査が必要だし,さらには,さまざまな問題点を改めるために批判も必要だ.そうしなければ,上記の長所も

          ノア・スミス「現代の大学業界のどれくらいがムダなんだろう?」(2024年1月7日)

          ノア・スミス「気候変動をよく理解したいならグラフをいろいろ見てみることだ。解決するのに脱成長なんか必要ないよ」(2024年2月13日)

          百聞は一見にしかず。 気候変動に取り組むうえでの大きな困難の一つは、世の中に悪い情報源が蔓延していて、悪質な情報もばらまかれていることだ。左派の気候変動活動家たち(気候変動問題について何かしようと自身の時間と労力を費やす傾向が最も強い人たち)は、「100社の企業が世界の排出量の70%を引き起こしている」とか「10%の富裕層が排出量の半分を占めている」といった馬鹿げた主張をする疑似左派的な情報を入手してしまいがちだ。それから右派。彼らは、以前だと気候変動を否定することにやっき

          ノア・スミス「気候変動をよく理解したいならグラフをいろいろ見てみることだ。解決するのに脱成長なんか必要ないよ」(2024年2月13日)

          ノア・スミス「もっと浅薄な未来に向かって」(2024年1月3日)

          不運には,代償に見合う値打ちがないいや,たしかにこの記事の発端は,旧称 Twitter のソーシャルメディアプラットフォームでつい先日に起きた馬鹿馬鹿しいいざこざではあるんだけど,約束する,後の方まで読んでくれたらもっと面白い話になっていくよ! つい先日のいざこざは,有名な絵画を軸に展開してる.その絵とは,キース・ヘリングの「未完の絵画」だ ("Unfinished Painting").1989年に描かれたこの絵は,AIDS になった彼に迫っていた病死を表している.ヘリン

          ノア・スミス「もっと浅薄な未来に向かって」(2024年1月3日)

          サイモン・レン=ルイス「2021年~23年のインフレバブルから(これまでに)得られた教訓」(2023年12月23日)

          いったんインフレ率は上がったものの,また下がってきている.イギリスにかぎらず,ほぼあらゆるところでインフレ率が下がってきている.このことから,マクロ経済学はどんな教訓を学べるだろうか.そして,どんな問いがなおも残るだろう? けっきょく,〔インフレは供給の混乱からくる一過性のものだと主張した〕「チーム一過性」の言い分は正しかったのだろうか?各国の中央銀行の利上げは遅すぎたのだろうか? また,いざ利上げを始めたときには,急速に引き上げすぎたのだろうか? 本論の前に準備段階でとり

          サイモン・レン=ルイス「2021年~23年のインフレバブルから(これまでに)得られた教訓」(2023年12月23日)

          ノア・スミス「ソロー・モデルが中国について教えてくれること」(2023年12月23日)

          経済学者は1950年代にはもう国家が無限の富を築けないことを知っていたんだ。 今週、経済学者のロバート・ソローが99歳で亡くなった。彼はこの分野における巨人であり、彼によってマクロ経済学は無数の方法で再構築され、それを今の僕たちは当たり前のように受け入れている。ソローは多くの重要な分野に携わったんだけど、一番有名な貢献(ノーベル賞の受賞)は、経済成長についてのソロー・モデルだ。なので今回のエントリでは彼を追悼して、ソロー・モデルは、この数十年間――特に中国経済で起こったこと

          ノア・スミス「ソロー・モデルが中国について教えてくれること」(2023年12月23日)

          ノア・スミス「自動車戦争」(2023年12月10日)

          大波のように押し寄せる安価な中国製の輸入車が世界の産業秩序を動揺させているヨーロッパと中国のあいだで,貿易戦争がじわじわと醸成されつつある.両者の関係が悪化しつつあるのには,いろんな理由がある――中国がロシアの戦時生産を支援していることや,ヨーロッパ企業が「リスク軽減」を図って,中国から投資を引き揚げていること,イタリアが中国の「一帯一路」から手を引いたこと,などなど,ただ,大きな注目を集めている手痛いポイントは,自動車産業だ. ようするに,中国が溢れかえるほど大量の電気自

          ノア・スミス「自動車戦争」(2023年12月10日)