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保険商品の新・差別化戦略

暑くなる日本の夏と熱中症保険

子供の頃から言われていた地球温暖化が、ついに実感できるほどまで進行してきた。毎年のように夏の最高気温が更新され、街中では男でも日傘を差している人間が増えている。

実際に日傘をさしている友人曰く、「かなり熱を防ぐことができて、一度やったらもう元には戻れない」とのこと。一方、女性は持ち歩き型の扇風機を使用している人も多い。

さて、真夏や真冬は死亡率が高まる。理由は熱中症と、室内外での気温の乱高下による急激な血圧の変化である。冷暖房器具の発展がこんなところに効いてくるとは皮肉なものだ。

この流れに対応しようとする保険会社の動きもある。いわゆる熱中症保険である。

保障期間が夏限定ということで、最低限の期間だけ保障を提供する、ジャストインタイム型の保険である。

従来はいろんな保障をまとめて盛り込んだ総合型の保険が主流だったが、日本人の給料が上がらず物価高が止まらない昨今では、このような必要最小限がトレンドである。生命保険もつまるところお金のやり取りなので、少額決済が得意なPayPayにとっては、決済インフラを生かしつつ保険という稼ぎ口が増えるのはありがたいということだろう。

金融はつまるところ装置産業なので、自社のシステム資源で流用できる部分が多ければ多いほど有利なのだ。

昔、アフリカなどの発展途上国向けにマイクロインシュアランスという概念が取り上げられたことがあった。経済的に貧しい人たちに向けて、少額な保険料で保障を提供する、というのがコンセプトである。

今では経済が右肩下がりになっている日本の方が、マイクロ保険の活躍の土壌が整いつつあるのはなんとも皮肉な話だ。

保険の付帯サービス競争

熱中症保険の登場をはじめとする最近の市場環境を見ていると、保険の価格競争はいくところまでいったなと感じる。

こうなると求められるのは別の競争軸な訳だが、一つ考えられるのは付帯サービスである。

例えば、私は過去に家の鍵を無くした時、損保に付帯された家の鍵を開けるサポートサービスを利用して急場を凌いだ。夜20時に気づいてものの30分ほどで業者がやってきて、専用の器具で開けてくれたのだ(1万数千円かかった)。

水回りのトラブルや鍵の紛失など、緊急事態では個人の判断で慌てて業者を呼ぶと、ぼったくりに遭う危険性がある。相場などを調べることもできないぐらい気が動転しているからだ。

そんな時、名のある保険会社から手配された業者は、ひとまずスクリーニングがかかっているはず、という安心感がある。そういう意味で、大ピンチの局面を助けるサービスというのは、保険の付帯サービスと相性が良さそうだ。

生命保険業界で注目を集める付帯サービスは、デジタルセラピューティクスである。

以下では『生命保険経営 91巻第4号』に掲載されている「米国におけるデジタルセラピューティクスの動向」から引用して話を展開してゆく。

デジタルセラピューティクスとは、「臨床試験において有効性を示しており、規制当局によって認可・承認を受けているソフトウェアを利用した、個人への治療・予防・疾患管理的な介入」のことである。

(中略)

その多くはスマホアプリであり、任意の場所・タイミングで診療を受けることができる。共働き世帯が増え、オンライン診療が徐々に広まっている現代社会において、いつでもどこでも対応できるのは大きなメリットだ。

(中略)

治療のためのデジタルセラピューティクス製品は医薬品と比べると、対象疾患が生活習慣病や精神疾患などに限定されやすい一方で、使用時に副作用が出にくく、開発コストが安価になりやすいという特徴を有している。

生活習慣病や精神疾患といえば、メディアで聞かない日はないといえるほど人々の間に浸透している病気である。利用して効果が出れば、保険金の支払をおさえることもできるため、生命保険の付帯サービスとしてはうってつけであろう。

ちなみに、デジタルセラピューティクス製品を展開する会社も、自社だけでは消費者への普及が難しいため、保険契約者に向けて名の知れた大手が勧めてくれるのは大いに歓迎とのこと。

まだアメリカでの動きではあるが、日本への進出が進めば、有力な競争軸になる可能性を秘めているだろう。

保険とクラウドファンディングの狭間

『生命保険経営 91巻第4号』の海外ニュースで面白い記事があった。要旨を以下に記しておく。

「インド当局、保険業界に医療保険普及へ取組みを要請」

インドでは人口の3割が医療について無保険状態となっているとのこと。

補助金対象になる程貧困ではないが、民間の医療保険に加入するほど裕福ではない、通称ミッシングミドルと呼ばれる人々がいる。

このような人たちの間では医療クラウドファンディングが資金調達の手段として浮上している

「ここで医療費を払ったら貧困層に転落してしまう」という無保険状態な崖っぷちの人たちにとっては、クラウドファンディングという寄付に頼るしかないということなのだろう。

医療保険は「治療費を払ったら生活が壊滅的な打撃を受ける」人こそ入るべきものである。このニュースを見て、今の日本のように幅広い値段帯で保険が供給されているのは各社の地道な努力の賜物なのだと思った。

日本国内では死亡保障、入院保障、三大疾病保障分野の価格競争が止まらない。個人的にはこれは不可避な趨勢だと思っている。

この三分野で保険の裾野を広げ、その中の経済力をつけた層に対して、前述の付帯サービスも合わせた高付加価値な保険を提供してゆくのが国内市場の大きな流れになりそうである。

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