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音の鳴る器のブランド『モノヲト』ができるまで

少し時間ができたので『モノヲト』のことを書いておこうと思いました。

『モノヲト』
佐賀県嬉野市にある肥前吉田焼の磁器メーカー「224porcelain」とサウンドデザイナー 日山豪による器と音のコラボレーションブランド。2020年11月からシリーズ第一弾の「カップ」が販売開始。
カップを傾けると「チリン」「チリリ」と心地の良い音が鳴ります。

『モノヲト』公式サイト
http://224porcelain.com/monowoto/



去年の5月ごろだったか。肥前吉田焼224porcelain代表の辻 諭さんと出会ってはじまったプロジェクトですが、キッカケは共通の知人による紹介でした。「二人を会わせたらなんか面白そうだから。器と音で何かできますよね?」とシンプルな理由で。当時辻さんは224porcelainという立場だけでなく自身の作家活動についても思うところがあり、自分は音の可能性・社会との関係性について(今もそうですが)考えていて。年齢が近いこともあり想像以上にすんなりと企画は動き出しました(写真:佐賀県嬉野の茶畑)。

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もちろん「カップを作る」なんて直ぐには決まりません。

「陶磁器って、どうやったら音が鳴る?」
「音が鳴る陶磁器ってすでに何がある?」
「鳴らすのではなく形にする?」
「音がもたらすコトって何?」
「心地よい音とは?」

現状把握から新たな価値創造、また音響心理や分析方法まで、リモートや佐賀県嬉野で何度か話し合いを続けるなか2・3案に絞られ、その中で「224さんとして制作経験がある物」「普段の暮らしで使われる物」が第一段にふさわしいのではと「カップ」を作ることに決定。使われるシーンを想像しながら、形状・発音構造を考えていく(写真:何回目かの打ち合わせの様子)。

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辻さんの行動力は凄い。ある程度の事が決まったと思ったらすぐ試作品が届いて。はじめは「音」の完成度を高めていきました。1回目の試作品でも10種くらいはあって「音階」「音量」「音長」等ひとつひとつ鳴らしてPCに取り込み分析して共有。理想とする「鳴り」に向けて、発音構造を少しずつ調整して。通常の器ではありえない造りなので制作工程上 難しい点もあり、音が鳴らなかったり、破裂したり。しかし、そこは流石の辻さん。試作を繰り返し、器をわざと割って確認したりして、持ち前の技術力と判断力で着実にクリアにしていってくれました(写真:試作品と割れたカップ)。

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『モノヲト』カップは、インクルーシブデザインです。全盲の父にも協力してもらいました。辻さんと打ち合わせを進めていく中で「これは視覚障害者にも良い製品になるのではないか」という話が出ていて、初回の試作品から一番出来の良いものを父に使用してもらい意見をいただきました。「音が鳴るから位置がわかりやすい」という意見にはじまり「相手が飲んでるのもわかる」「乾杯の時どこにみんなの手が集まっているかわかるから、乾杯に参加できるかも」とコミュニケーションツールとしても役立つ事もわかりました。

音が決まってきたら、次は形です。今回のカップはお茶や日本酒を飲むのに適した容量を目指していました。手に収まる感じも試作品で検証し、サイズ感が決まってきて。「傾けると音が鳴る」という発音構造は固まっていたので、カップを置いた時、その具合でたまにユラユラと揺れて音が鳴るのも良いのではと「高台をなくす」アイデアも生まれました。そこから、ついつい揺らして音を鳴らしたくなるという「音を楽しむ行動」も自然と生まれました。


しかし、ひとつ問題があって。やはり揺らしすぎると倒れてしまうんです。また父をサポートする母から「指の引っ掛かりがないとスルッと落としそうで怖いね。目が見えないと正確にパッと掴めないから。」との意見もいただきました(写真:一番右が初回の形状)。

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そこで「転倒を防ぐ」「持った時に引っ掛かりがある。どのあたりを持っているかわかる」形を求め、色々とデッサンを描いて、形のデザインを詰めていきました。大まかな形が決まるとエッジの効き具合や口当たりなど辻さんによるディテールの修正が入って、今の形へと作り込まれていきました(写真:描いたデッサンの一部)。

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そしてブランドのネーミング。自分は「物音」という言葉がとても好きで、そこから『モノヲト』としています。ただの「音」という言葉が、人の意識でつながった時に「物音」という言葉に変わります。そういった表現に繊細さを感じまして。美しいなぁと。また、物を大切にする姿勢を「物を〜」「物と〜」という言葉にしてブランドネームに忍ばせています。

商品写真.010


このカップは問題解決!な製品ではありません。日々の暮らしに意味や遊びや楽しみなど、ちょっとした気づきを与えてくれるものだと思っています。その気づきが音だけじゃなくて、見たものや触ったものにも広がっていってくれたら嬉しいなと思います。

商品写真.009


あともう一つ。これは音楽家でもある自分視点の勝手な想いですが、音楽家が社会と関わる手法の選択肢が増えればいいなと思っています。ライブで演奏する、CDなどの録音物を販売するだけでなく、例えば今回のように工芸と関わって、時には作品としてリリースなんて事もあっていいのかなと。もちろんサウンドデザイナー としての可能性も同時に別の方向で広がって。


という事で、224porcelinとのコラボ『モノヲト』。どうぞよろしくお願いいたします(写真:辻さんと俺)。

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『モノヲト』公式サイト
http://224porcelain.com/monowoto/

224porcelain ショップ
https://224porcelain.shop-pro.jp

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