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読書記録:竜の姫ブリュンヒルド (電撃文庫) 著 東崎 惟子

【愛する心を教えてくれた貴女の全てを赦します】


【あらすじ】

すべてを赦し、ただ一度、憎んだ。

人々は彼女をこう呼んだ。時に蔑み、時に畏れながら、あれは「竜の姫」と。

帝国軍の大砲が竜の胸を貫く、そのおよそ700年前―-邪竜に脅かされる小国は、神竜と契約を結び、その庇護の下に繁栄していた。

国で唯一、竜の言葉を解する「竜の巫女」の家に生まれた娘ブリュンヒルドは、母やその母と同じく神竜に仕えた。 竜の神殿を掃き清め、その御言葉を聞き、そして感謝の貢物を捧げる――月に、七人。

Amazon引用
登場人物紹介

国を守る為に神竜と契約を結び、竜の巫女として仕えるブリュンヒルドが、生贄を捧げる事に疑問を持つ事で始まる愛と忠義の物語。


国の平和を守る為に奴隷を生贄にする矛盾。
供物を断てば、邪竜が国を襲う伝承に疑問を感じるブリュンヒルド。
その疑問を解消する為に、従者のファーヴニルと共に禁忌である国外を出る。
そこで知る神竜の邪悪な自作自演。
邪竜についての違和感や辻褄の合わない事実が露呈する。

今まで信じてきた礎が音を立てて崩れていく。
その真実を暴いた代償は大きな傷となって、ブリュンヒルドを苛む。
それでも、愛するからこそ、復讐はしない。
全てを奪われたとしても、復讐する事は過去に立ち止まってしまう事だから。

国の外に蔓延る邪竜から国を守ってもらう契約を交わし、その庇護の下に繫栄してきた小国。
かの国で、竜の言語が唯一、理解出来る「竜の巫女」の家系に生まれ、自らもまた巫女となったブリュンヒルド。
しかし、彼女の心は揺れていた。
それは、竜が求める供物の中に、一月に七人、子供を捧げるという儀式があり、その中に彼女の友人であるエミリアが入ってしまっていたから。
何とか生け贄の数を減らそうと懇願するも、竜に優しく諭され、結果としてエミリアを救う事は叶わず。

その事実と、竜の神託に違和感を感じた彼女は、従者であるファーヴニルと幼なじみである王子、シグルズ、その従者の騎士スヴェンと共に国の外へ飛び出し調査を開始する。
だが、結果的に国の外に邪竜は見つからず、国の外へ出たと神竜が知った途端。
まるでその行動が引き金かのように。
邪竜の襲撃が巻き起こる。

あからさまに神竜の関与が疑われる状況で。
古い文献の中に見つけた確固たる証拠。
邪竜の元締めであった神竜を討つべく討伐に向かう ブリュンヒルド達。
しかし、時は既に遅くシグルスに乗り移り、壮絶な裏切りに遭う。
討伐は成功したかに見えたが、シグルズの裏切りによりブリュンヒルドは深手を負い、投獄されてしまう。
シグルズの意識は神竜に乗っ取られていた。
大罪人として囚われたブリュンヒルドを救う為に、ファーヴニルの尽力によって脱獄に成功する。

しかし、皮肉にもその愛が永らく続く国の慣習によって、邪竜を討つ為ではなく、竜から宝を簒奪する兵器となり得てしまう。
終わる事のない不幸の連続を体験する。

他人を思いやる優しさと愛を持ちうるからこそ、その信念が裏切られた時、壊れるような憎しみも抱いてしまう。
大切な物が増えるほどに、己をすり減らしていく。
愛は尊い物だが、その力の強さによって、心を歪めてしまう可能性もある。

何故、人は他人に愛や信頼を寄せてしまうのか?
何故、人はその祈りや願いを裏切ってしまうのか?
どうして、神は人に呪いと憎しみを与えるのか?

そんな疑問に苦悶しながら、思い描いた夢の顛末を目指せずとも、その絶望がいつか逆転する日が来る事を信じて。
愛を知らない従者であるファーブニルと共に残酷な世界で、真実の愛を模索していく。
人間らしさを獲得する為の、あてのない旅の中で。
出逢いと想いを引き継ぐ事で、心に色と体温を取り戻す。
どんなに絶望的な状況下にあろうと、最後まで皆が共存出来る未来を掴み取ろうと、必死に足掻くブリュンヒルド。

シグルズの中に巣食う意志、スヴェンの忠義、そして彼等の在り方を否定する者達の思惑。
そんな運命を全て飲み込んだ先にある、どんな時代であっても変わらない愛の形。

人である以上、必然的に産まれる愛憎全てを赦して受け入れる。
抱え持つ業の深ささえも、愛する心こそが、その宿命を救済していく。
たとえ、何度も裏切られて、愚かだろうが、理想を追って、愛を欲し続けた。
人を好きで居続ける忠誠を貫き通した。
そうやって、傷付きながらも手にした答えを依り代に、念願のエデンへと辿り着く。

信念と意志を受け継いだ彼らは、眩しくも立派に自らの愛に殉じたのだ。





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