読書感想:サークルで一番可愛い大学の後輩 2.消極先輩と、積極後輩との花火大会 (ファンタジア文庫) 著 水棲虫
【踏み出す事を恐れるな、君の想いに報いる為に】
美園との運命的な出逢いを経て、季節は夏へ巡る物語。
大学生らしいイベントが枚挙に暇が無くなる。
学園祭実行委員になった智貴は、忙しさに眼を回しながらも、積極的に自分に好意を示してくれる美園。
しかし、元々の自己肯定感が低すぎるせいか、臆病で消極的な行動をとってしまう智貴。
そんな恋愛に恐怖する智貴の気持ちを省みつつ、少しずつ愛情を手渡す美園。
両想いになるのがゴールでは無い。
その先で二人で育んでいく未来があるからこそ。
お互いがお互いを思いあってるからこそ、後一歩が踏み出せないなんとももどかしい焦れったさが二人の前に立ち塞がる。
サークルが持つ良い意味での男女間の距離が近いというのが美園には逆に仇となってしまう。
先輩と後輩である二人の恋人未満のもどかしい関係。
高校生のように燃え上がるのではなく、大学生だからこそ、しっとりとした大人の感覚がつきまとう。
美園が泊っていった日から一夜明け、まだ智貴の心の中では、未だ興奮が冷めやらぬ中。
バイト先で知らされたのは、近々花火大会があると言う噂を聞きつける。
それは美園を誘うには格好の口実となる物で、それに誘う為に、智貴はお盆休みの間、ずっとバイトに出るのを条件に、花火大会の日の休みをもぎとってみせる。
だがしかし、誘うまでの道程が非常にもどかしい。美園の気持ちに未だ気付けぬ鈍感さ。
気付けぬままに、もし誘ってフラれてしまったのならどうしようと尻込みしてしまう。
それは未だ拭えぬ智貴のヘタレ故に。
いくら勇気を振り絞っても、そう易易と簡単に人間の根底の部分は変えられはしない。
しかし、美園は今も想いは変わらない。
変わらず好意を伝えてくる。
ぐいぐいと彼へと距離を詰めてくる。
彼の手料理の味を覚えておこうと頑張ったり、時にご褒美をおねだりしたり。
可愛らしく、時に情熱的に。
そんな彼女の優しさが、静かに燃える想いが。
彼の心の中へと沁み込んでいく。
彼女に不安な顔はさせたくない。
純木な想いを無碍にしたくない。
直感的に心で理解して踏み出すタイミング。
例え、脆弱なヘタレであっても、このタイミングだけは絶対に見逃してはいけない。
人生で最大の勇気を出して、智貴は今、確かに一歩踏み出して見せる。
伝えるのは相手を心から愛したいという嘘偽りのない真っ直ぐな想い。
そんな勇気が届かない訳がない。
だからこそ二人が結ばれるのは必然で。
それは彼等の行先を心配する誰もが望んだ景色なのだから。
しかし、結ばれたからといって終わりではないのが人生だ。
恋人同士として初めて迎える文化祭。
両想いになって初めて、恋愛の醍醐味や楽しさが溢れ出してくる。
彼等の努力の結晶は、此処からどのような結実を迎えるのか?
いつまでも、恋愛に対して臆病で後ろ向きに考えても仕方がない。
自分と関わって美園に悪影響を与える恐れは、まさに、智貴という人間の最大の課題。
美園に気を遣う優しさもあるが、それを告白をしない理由にしてはならぬ。
美園に貰った勇気に報いる為に、智貴はなけなしの勇気を振り絞った先で迎える、心と心が繋がって、通じ合える身に余るような多幸感。
美園に貰った勇気に報いて、智貴は自らの殻を打ち破り、ようやく一歩先へと踏み出せたのだ。
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