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読書感想:呪われて、純愛。2 (電撃文庫) 著 二丸修一

【誠実に向き合う程、記憶は蘇り、純愛に飲み込まれる】


【あらすじ】
記憶はすべてよみがえり、三人の純愛は加速する。呪われるほど。



事故で記憶を失った湖西廻は、『恋人』を名乗る二人の少女、丹沢白雪と才川魔子に翻弄されながらも、徐々に記憶と元の生活を取り戻しつつあった。

勉強をしながら、魔子のマネージャーや家事をする忙しい毎日。そんな中、白雪とのデートで過去にあった大切な思い出がよみがえり、二人は恋人としての関係も順調に進んでいた。

しかしそんなとき、廻はある人と再会し、魔子に関する記憶がよみがえる。それはあまりに重く、人生を左右するほどのものだった。仲の良かった三人の平穏な生活は終わりを告げ、表面上取り繕おうにもあらゆるものが崩れ去っていく。

恋。家族。背徳。尊敬。引け目。裏切り。絶望。悦楽。地獄。愛とは……誠実とは……そして三人が選ぶ道とは──。

Amazon引用


記憶が蘇った故に人生の課題が明確になる物語。 


記憶を失ってしまったが故の弊害。
白雪と魔子との平凡な日常を繰り返しながらも、どこか違和感を拭いきれない廻。
そして、分水嶺となるある人との出会いにより、記憶の奔流が流れ込む。
知ってしまえば、元の関係には戻れない。
純粋に抱いた尊敬と愛情は、裏切りと絶望に変わり、三人の行く末にのしかかる。
白雪と魔子ともどちらとも恋人関係を継続するからこそ産まれる葛藤。
向き合うべき過去と障害。

この罪に塗れた純愛の行く先は。
巡り巡って、同じ答えを繰り返した廻。
破滅しかない三人の行く先を決めるのは、魔子か白雪か?
重なり合い絡み合った想いは、複雑で簡単には紐解けず。
答えを知りながら間違っていく歪な関係を繰り広げる。

なぜ、廻は記憶喪失になってしまったのか?
その謎のベールに覆い隠された真実を垣間見た時、
築き上げたあらゆる前提が崩れ去っていく。
一人、地獄に堕ちた少女を守る為、真に想いを寄せる少女への裏切りに苛まれる廻。
二人の少女とのやり取りが、自分の記憶喪失をきっかけにループをしていることを知った時、絶望と失意の波が押し寄せる。

己の「業」にとりつかれ、搦めとられて堕ちていく。
縋りつかれて、悪い魔女に騙されて、清純な白雪姫を知らぬ所で裏切って、より深みへ入り込んでいく。
正しい「純愛」が作り出す地獄のような惨憺たる結果。

そして、廻の記憶は、既に大部分が取り戻されほど、全てが取り戻されようとしている。
ならば、記憶喪失というのを、もう言い訳にする事も出来ない。
ならばどうするのか?
答えは単純明快。
さらに踏み込んでいくのだ、後戻り出来ぬ、より地獄の深淵へと。

白雪との蜜月の中、キスを交わそうとした廻の脳裏に響くのは魔子の言葉。
まるで呪いのように刻まれたその言葉は、廻の心を呪縛のようにとらえ、これでもかと揺らし。
白雪と心を通わせようとした手を止めてしまう。
過去のトラウマが現在の恋愛の進行を阻んでしまうのは、ひとえに罪悪感から来る物だろう。

そんな彼だからこそ好きになった、と唇を奪った魔子は怪しげに笑う。
しかし、それは、地獄の扉の向こうへ突き落される合図。
廻を心配して戻ってきていた白雪にその場面を目撃されてしまい。
そこから三人の間の関係、そして周りの友達との関係が一気に壊れ、狂いだしていく。

疑い始めたのならば止まらない。
ふと感じていた違和感が繋がり、否定したかった形を成していく。
見たくもなかった真実をこれでもかと見せつけてくる。
三人の絆に流れる不協和音は、周りの者達にも容易く察せられる物であり。
友に魔子との逢瀬を見られ、そこで流れた怒りが更に育んだ絆を原型を失くすまでに壊していく。

昔からお互いに知っている気心しれた仲の筈だった。
だから本音も存分にぶつけ合っていると信じられた。
だが、それは淡い蜃気楼であったのかもしれない。
改めて、剝き出しの想いをぶつけ合い。
廻を巡って、醜い激情をぶつけ合い。
だが、魔子もまた心の何処かでは気付いていたのだろう。
自分こそが二人の間に入り込む醜悪な魔女であるという事を。
邪な自分こそが邪魔者であり、今この場から去るべき存在なのだと。

だからこそ、魔子は選ぶ。
葛藤と苦悩の末に、自分だけが身を引き、二人の前から消え去る道を。

最後に残した彼女の言葉、遺された二人が選ぶのはもう一度、やり直す道。
傷つけ合い過ぎて、もう元の形に修復できるかは分からないけれど。
それでも、もう一度と選んでいく。

だが、魔子のそれは、廻と同じである。自分だけが傷つけば良いという自己犠牲の名の下による物。
ならば、一方的に切り離したその選択は果たして正しい事なのか?

蘇る記憶と残酷な真実、重ねた罪の清算。
廻は誰よりも誠実だからこそ、こんなにも苦しむのだろう。
自分達の関係から離脱した魔子にこんなにも後ろ髪を引かれるのだろう。
ただ、好きな人と幸せな道を選ぶのにこれ程までに苦痛が伴わければならないのか?
まさに、純粋な愛とは呪い。

呪いのような純愛の中で選び抜いた答えは、彼らにどのような終止符をもたらすだろうか? 










 

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