チョロいお弁当の王子様

茶色いお弁当はババくさい、そう言われる。けれどもインスタ映えに動画映え、今どきマジメにそんな弁当をつくる者、若いひとほどいない。

そう思ってた時期がボクにもありました。

彼女は、自分から弁当を差し入れてくれるようになったワケではない。
たまたま、ボクが感想を述べたのだ。

「弁当、茶色すぎんか」

彼女は、むっとして、ボクを睨んだ。ミートボールをハシでつまんで、手を出せという。ボクの手のひらに転がされた。

「……れんこん?」

「そう。白いだろが」

いや、見えんが?

思ったが、れんこん入りミートボールはしゃきしゃきして美味しかった。

そのあと、手を洗って、ボクは購買に向かった。
いつしか、ミートボール入りの惣菜パンとか無いか、なんて思うようになっていた。あのれんこんミートボールのせいだ。

またもや委員会の連絡事項が昼休みの前に開かれて、隣のクラスの最終行である名前の彼女と、あいうえおの行の名前のボクはとなりに座った。

彼女は、会が終わると、やっぱりここで弁当を広げだした。
ボクは尋ねる。それッていくら?

「は?」

「いや、材料費と人件費? いくらでその弁当つくってんの?」

「…………。……200円……くらい? 夕食の分のおかず、兼ねてるから」

「あ、溜めてつくってんのね。なる。じゃあさそれ、僕に買わせてくれないか」

「はあ?」

「いや、弁当。買うよ。いくら?」

「はあ? ……他人のつくる弁当なんて気持ち悪くない? ていうか、アンタなら頼めばいくらでも」

「いや、インスタ映えとか頑張られても困るんだわな。僕はそーゆうのに利用されたくねーし。前に何人もそういう子いたけど」

「ああ、そーいう方向性? ……ならあたしの弁当はどーでもいい感じにつくってるから。気にしないで食えるわな」

「そうそう。いくら? 夕飯を兼ねてるなら、ちょっとはボッていいよ」

ぼったくり価格……、彼女の心がうごく、それが目の奥のきらりとした光になった。
ボクを見上げると、ボクがおどろくほど、彼女は、今どきの女のコみたいな、きらきらした顔つきになっていた。

「ご、……500円で、買える?」

「安ッ」

「マジか! ……600円!!」

「おまえなぁ」

笑うボクに、向こうが、驚いた顔つきになる。はじめてボクを知ったみたいな。

まぁ、予想以上のことはない。

そうです。今のボクの嫁です。馴れ初め話です。この話になると、お互い、ボクらは言い合います。

「オマエってチョロかったよな」
「アンタがチョロ男なんだよ、なにが王子様だよ、婆くさ趣味しといてさ」

チョロい、チョロい、言い合います。嫁の料理は、なぜか結婚してから茶色くなくなって、気合いがみられるようになりました。

ボクは、どちらのお弁当も、大好きです。
実は昔の茶色い弁当時代も、いつからか、写真に撮るようになったので、たくさんの思い出を残しているボクでした。

思えば、その撮影こそが、恋の始まりかもしれません。
インスタ映え、写真好き、どれも馬鹿にできません。

わかる、大事な思い出なんですよね、アレって!


END.

読んでいただきありがとうございます。練習の励みにしてます。