さようならは仮のことば
一年前のとても暑い夏の夜に、黒くてかっこいい船に乗った。乗船すると間もなく船は荒波へと舵を切り、以来ずっと、夜の中の旅をした。
強い波に逆らうようにして勢いよく走るばかりの日々だったわけではない。ぽっかりと満月が私たちを照らすから、静かに波の上で寝転がった日もあった。搾りたての蜂蜜のような金色の光はそれは甘美で、そればかり舐めていたらどうにかなりそうだとすぐにわかってしまった。
それでまた強い波の方へと船が舵を切る。ずっと変わらなかったのはそれが夜の中だったこと。早朝に朝