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eatreat.の料理をつくる ある1日

朝5:00の起床、天気を確認する。
猫と一緒に伸びをして、人間の自分がどれくらい固まっているかを実感。
洗面所に立ち、自分の眼の白さを眺めてから顔を洗い、舌を磨く。
沸いた白湯を湯呑みに入れ、ゆっくりと飲みながら、今日、世間の人たちは平均的にどんな気持ちだろうと考える。

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eatreat.のメニューが前日からあらかじめ決められている、ということは滅多にない。朝の空を眺めて決めるのが何よりも自然だ。天候も、人の気持ちも、2日と同じことはなく、料理はそれに寄り添うようにして毎日新しく作るものだからだ。
私にとって料理は、その日の人の身体と心をバランスするためにある。

肌寒い朝なら温かいかぼちゃのカレーを、
風が強く吹き人々が疲れるようであれば豆とギーのスープを、
流れる汗が不快なくらい暑い日にはミントをチキンカレーに入れて、
重くむくむような湿気の多い時季には冬瓜をさまざまな料理に仕立てよう。

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食べてくれる人の今日の気持ちを想像して、それを鎮静する力をもった食材を選ぶ。食べた後、常に軽快な気分になって欲しいと思う。まったりとした食材ならさっぱりとしたスパイスやハーブを組み合わせる。

お店に向かう道すがら、音楽を聴きながらそんなことを考える。
これはキャンバスに麻布を張るような行為だと思っている。お店に着く頃には、その白いキャンバスにその日作る料理の外枠が描かれている。

野菜を並べる。毎朝のことだけれど、野菜はなんてきれいなんだろう、とため息がでる。まな板の上に手をおいて、深呼吸してから料理を始める。
決して複雑なことをしない。簡単に調理する。食材本来が持っている味を信じて、委ねながら手を入れていく。

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その後はほとんど何も考えていない。
最近見た、うつくしい景色を瞼の奥に呼び起こして、それを眺めながら作る。外枠を描いておいたキャンバスに新しい色がついていく。

自己表現ではない。食材と食べる人の間で少しの仕事をする。それだけ。

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ドアがオープンし、席についたお客さまの目の前で最後の仕上げをする。
よく知っているお客さまなら、その日の様子を見て温度や、塩加減、お米の量を何も言わずに少し調整をする。スパイスを組み替えることもある。

皿を出すと、だいたい「ああ、美味しそう」と言われる。嬉しい。
何も声に出さずに、花束を受け取った女の子のような顔をする方もいる。
目をつむって食べている人もいる。

泣きそうになるので、背中をむける。

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日が落ちて、使ったキャンバスを捨てるように、キッチンを隅々まで磨く。

家路につき、質素な食事を摂り、読書をし、22時には床につく。

自分の仕事はなんてありがたいものだろう、と感謝して眠る。

また新しい朝が来る。

サポートしていただいた分は、古典医療の学びを深め、日本の生産者が作る食材の購入に充て、そこから得た学びをこのnoteで還元させていただきます^^