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神様からの嫌な贈り物



神様は
とても素敵なプレゼントの外側を、
わざとボロボロの包装紙で包んで
嫌な贈り物だなぁと思わせることがある




「あそこから見た景色はどんなだろう」

山頂からの景色に恋焦がれる小さい魂は、
うっとりとその頂きを眺めていました。
それを聞いていた神様は
「ようし、わかった」
と言うと、なぜか山頂ではなく
その麓に小さい魂を降ろそうとしました。

「なんで?どうして遠い場所に降ろすの?山頂からの景色を眺めたいのに」
小さい魂は口を尖らせました。
「大変な思いをして登った方が景色が何倍も素晴らしく見えるだろう。それに、最初から山頂に降りたったら気づけない感動を味わえるからね」
「ふーん、そんなものかな。べつにすぐに山頂に降ろしてくれても、感動できるのに」

小さい魂は納得しませんでしたが、とりあえず神様の言う通りにすることにしました。




ところが。

いざ降り立ってみると、そこは麓どころかそびえ立ったビルや建物ばかり。
そして目に入るのは、たくさんの疲れた顔の人、人、人。
みんなどこか忙しなく、肩がぶつかっても何も言わず我先にと駆け足で去って行きます。
麓はおろか、自然の風景すらありません。

小さい魂はひどく混乱しました。
「なぜ?なぜ神様はこんな場所に僕を降ろしたの?こんな騒がしい景色を見たくてこの世界に来たわけじゃない」
そう不満を口にしても、目の前の景色は一向に変わりません。

そのうちに小さい魂は諦めて、息苦しい都会の中で暮らしていくことにしました。



月日は流れ、小さい魂は山頂から眺める景色に恋焦がれていたことも、山頂に降ろしてくれと神様にお願いしたこともすっかり忘れ、都会の中でいつのまにか自分自身も忙しない生活を送っていました。

鏡に映ったひどく疲れ果てた自分の顔を見て、小さい魂は嘆きます。

「こんなはずじゃなかったのに…」
「どこか行きたい場所があったはずなのに…」

小さい魂の記憶から、山頂からの景色を見てみたいと願ったことがすっかり消え失せていました。
それどころか、都会の生活に疲れ果て、山頂に登って景色を見ることができるという発想すら持つことが難しくなってしまっていました。

それを見ていた神様は、小さい魂にボロボロの包装紙に包まれたプレゼントを送り込みました。


あるときは、両親の心ない言葉として。
あるときは、恋人の理不尽な態度として。
あるときは、試験の不合格通知として。


小さい魂は余計に混乱しました。
「どうして?どうして神様はこんな嫌なものを送ってくるの??」
それでも神様は何も答えてくれないので、小さい魂は仕方なくそのプレゼントを受け取ることにしました。

しかし、何度も何度もボロボロのプレゼントが送られてくるので、小さい魂はしびれを切らして叫びました。

「神様、僕が欲しいのはこんなプレゼントじゃないよ。もっとフワフワしてて温かくて優しくていい匂いのするものだよ。こんなボロボロのものじゃない。僕はもっと、もらった人の心がホッとしてあったかくなるようなプレゼントが欲しいんだよ」

それでも一向に神様は何も答えてくれないので、小さい魂は一生懸命考えました。

心がホッとしてあったかくなるようなプレゼントとは、どんなものなのか?
フワフワで温かくて優しくていい匂いのするプレゼントとは、一体なんなのか?


気づけば一日中、小さい魂は心がホッとしてあったかくなるようなプレゼントのことばかり考えていました。
そしてそのうちに、心がホッとしてあったかくなるようなプレゼントを自分なりに作って人に贈るようになりました。



さらに月日は流れ、気づけば小さい魂のまわりには豊かな世界が広がっていました。

この世界はなんて素晴らしいんだろう。
目に映る景色すべてが輝いていて、どれひとつ欠けても自分は成立しえない、なんて愛おしく素晴らしい世界なんだろう。
すべてがありのままで美しく完璧で、そしてそこに存在している自分もまた、ありのままで美しく完璧であるということ。

鏡に映る自分はいつのまにか、いつも心がホッとしてあったかくなるようなプレゼントを目の前にしたような、生き生きと嬉しそうな顔になっていました。(もちろん、疲れきった顔が映ることもありましたが、そう長くは続きませんでした)


そうなのです。

小さい魂はいつのまにか、憧れていた山頂にたどり着いていたのです。

そこで、小さい魂はハッとしました。

なぜ、神様はわざわざ自分を山頂からうんと遠くの場所に降ろしたのか。

なぜ自分にボロボロのプレゼントを何度も送ってきたのか。

嫌な贈り物だと思っていたものは、実は山頂までのルートを示した“道しるべ”になっていたのではないか。

すべては、山頂からの景色を眺めるために導かれていたことだったのではないか。

そのことに気づいた魂は、神様の深い愛情と、また、これまで自分がつらく苦しい中でも諦めずに生きてきたことの素晴らしさに触れ、涙を流しました。

これが感動するということなのか。なんて美しく、素晴らしい感情なんだろう。

小さい魂の涙は、ぬぐってもぬぐっても溢れてきて止まりません。


その様子を、神様はただ黙って嬉しそうに眺めていたのでした。




おしまい




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